琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

三国志男 ☆☆☆☆


三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

三国志男 (SANCTUARYBOOKS)

内容紹介
「あった!あったぞ!!!王平の墓だっ!!
おお~~~。へぇ~~~。くぅぅぅぅぅぅ(涙)。長かった……。」

赤壁、虎牢関から、馬超の墓、徐庶の自宅まで
三国志遺跡100ヶ所以上を現場検証&爆笑ツッコミ!

三国志を愛するがあまり、本当に中国大陸を放浪してしまった
へなちょこ青年の笑いと怒号の180日間、オモシロ冒険旅行記。
写真と鋭いツッコミで、三国志ファンを爆笑させます。

 これは(読者をかなり限定するだろうけど)面白い!
 三国志マニアの皆様には、ぜひオススメです。
 三国志マニア、とくに諸葛孔明ファンであれば、一度は武候祠に行ってみたいと思っている人は多いと思います(もちろん僕もそうです)。でも、蜀があった四川省で僕が興味を持てるものって、三国志関係の史跡と麻婆豆腐しかないわけですよ。まさに中国の「奥の奥」にあたるわけで、ナマの孔明がいるならともかく、祠のために行くには、ちょっと辛い場所ではあるんですよね……

 著者のさくら剛さんは、僕のような「三国志にまつわる史跡に行ってみたいけど行けない」三国志マニアを代表するかのように、5ヶ月間もかけて(その間、怪我をしたり病気になったりと、かなり壮絶な体験もされています)、中国を駆けずり回り、『三国志』の史跡をめぐっておられます。個々の史跡に関しては、「これ本当にあの武将の墓なの?」と言いたくなるような怪しいところがたくさんあり、石碑しかないとか、ヘンな「再現人形」が置かれているだけ(1800年前の史跡ですからね……建物と違って、古戦場などは兵士がいなければ、単なる「原っぱ」だし)、というような「ガッカリスポット」満載。「日本三大ガッカリ観光名所」は、高知のはりまや橋、札幌の時計台、長崎のオランダ坂、なんて言われますが(異論も多数あり)、この「三国志の旅」は、むちゃくちゃ交通の便が悪い場所に何時間もかけてバスで行った挙句、ガッカリ史跡……なんてことばかりで、さくらさんの執念には、本当に頭が下がります。というか、ああ、僕が自分でまかりまちがって行ってしまう前に、この本を読んでおいてよかった、かも……
 僕の代わりに行ってみてくれてありがとう、という感じです。

「歴史研究家」ではなく、ゲームの『三国志』から横山光輝のマンガ経由で『三国志』の世界にハマっていった著者の「武将萌え」の視点には僕も素直に共感できましたし、一昔前の「テキストサイト」を髣髴とさせる(「フォントいじり」もあり)「ツッコミ心」満載なので、けっこう厚い本なのに最後まで楽しんで読めました。

 ちなみに西暦220年、受禅台で曹丕が帝位に就くことによりついに漢が滅びたわけだが、考えてみれば、三国志のストーリーというのは魏呉蜀三国時代というより漢朝の出来事がメインになっているのである。関羽曹操などは三国ではなく漢の時代に死んでいるということを思うと、少しおかしな感じがする。
 なお「禅譲」というのは皇帝が第三者に位を譲ることだが、実際は無理やり魏が帝位を奪ったわけで、その場合は簒奪ということばが適しているらしい。当時の曹丕に、参謀の賈詡や司馬懿は「この話はすぐに受けてはなりませぬ。全国の民や後世の者からの簒奪のそしりを免れるために、何度かは辞退なされませ」と献策をし、その通り曹丕はくり返し断った末にやっと帝位を継いだ。しかし、その割には無理やり奪ったということが後世に思いっきりバレている。ということはつまり、オレたちは誰も賈詡や司馬懿の策で欺かれていないということであり、その点では彼らの軍師としての能力にもやや疑問符がつくのではないだろうか?

 基本的に三国志の観光地というのは、観光すべきものが特にない観光地が多い。そのため、写真を撮って後で見てみると山や畑しか写っていないという状況によくなるのだが、しかし、その一般旅行者が即座に削除するようなただの畑の画像に、我々三国志ファンはロマンを感じ魂を躍動させることができるのである。世界遺産はきっと美しいが、荒野に佇み目を閉じて感じる観光もあるのだ。
 正直なところ、今までの人生でオレは畑の景色に目を魅かれることなどあまり無かったが、これからは日本に帰っても、山や畑を見ていちいち魂を躍動させたいと思う。

 この本、当然のことながら、コアな三国志フリーク(まあ、せめて横山光輝さんの漫画全巻読破済み、くらいは最低条件でしょう)以外にとっては、あまり面白くないと思うので、先に『三国志』を読んでから、この本を読むことをオススメします(そこまでやる人はあまりいないでしょうけど)。

 それにしても、人のことは言えませんが、本当に日本人は『三国志』好きですよねえ。
 さくらさんも、各地のマイナーな史跡で「こんなところに来るのは日本人だけだ」と現地の人に何度も言われたそうですよ。

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