琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

新参者 ☆☆☆☆


新参者

新参者

内容説明
立ちはだかるのは、人情という名の謎
日本橋の片隅で発見された四十代女性の絞殺死体。「なぜ、あんなにいい人が」と周囲は声を重ねる。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、未知の土地を歩き回る。

「この町のことを思い浮かべるだけで、忽ち様々な人間が動きだした。そのうちの一人を描こうとすると、そばにいる人々の姿も描かざるをえなくなった。まる でドミノ倒しのように、次々とドラマが繋がっていった。同時に謎も。最後のドミノを倒した時の達成感は、作家として初めて味わうものだった」――東野圭吾

先日『赤い指』を文庫で読んだばかりなのですが、東野圭吾さんは、この「加賀恭一郎シリーズ」を「ミステリ」だとは考えていないのかもしれませんね。
たしかに「事件」は起こるけれど、この『新参者』でも、読者には「自分で推理する」機会は全く与えられていません。加賀恭一郎の捜査の進行にずっと付き合わされていく、という感じなのですが、後からどんどん「提示されなていなかった新事実」が出されてきて、結末の「どんでん返し」も、「とってつけたような感じ」ではあります。
良質な「連作」にみられる、「最後に謎が解けたときにすべてがつながるような快感」は、この作品にはほとんどないです。

でもまあ、「人間ドラマ」としてはそれなりによくできていると思うし、これまでの「ミステリ」では、「物語を論理的にするために」ある意味無視され続けていた「人情」というファクターをここまで前面に押し出しながら、違和感のない、読後感が爽やかな作品にしているのは、やっぱり東野さんの腕だと感心してしまいます。
僕の趣味からすると、「もっと唖然とするようなトリックが見たいなあ」という気分には、なってしまうんですけどね。

実際は、警察の捜査の現場では、こういう「人情」とか「プライド」みたいなものが、バイアスになって立ちはだかっているんじゃないかな、と考えさせられる作品ですし、東野圭吾さんのファンなら、「読んで損はしない」でしょう。
個人的には、「いい話」すぎて(あるいは、東野さんが巧すぎて)、ちょっと感情移入しきれなかったのだけれども。

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