琥珀色の戯言

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警官の血 ☆☆☆☆☆


警官の血〈上〉 (新潮文庫)

警官の血〈上〉 (新潮文庫)

警官の血〈下〉 (新潮文庫)

警官の血〈下〉 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
昭和二十三年、警察官として歩みはじめた安城清二は、やがて谷中の天王寺駐在所に配属される。人情味溢れる駐在だった。だが五重の塔が火災に遭った夜、謎の死を遂げる。その長男・安城民雄も父の跡を追うように警察学校へ。だが卒業後、その血を見込まれ、過酷な任務を与えられる。大学生として新左翼運動に潜りこめ、というのだ。三代の警官の魂を描く、空前絶後の大河ミステリ。

 ああ、これは傑作! 文庫で900ページをこえる長い作品であるにもかかわらず、一気に読み終えてしまいました。読み終えたあとも、しっかり「重み」が心に残る小説です。
 僕はもともと「警察小説」って、本題に入るまでの説明が多すぎる気がしてあまり好きじゃないのですが、この『警官の血』は、「食うために警官になった戦地帰りの真面目で不器用な男」安城清二から、三代にわたって繋がっていく物語。「親の職業を継ぐ」とはいっても、素直に「親にあこがれて」ではなくて、複雑な気持ちを抱えながら、警官になってしまった民雄、そして和也の姿は、「結局、親と同じ職業を選んでしまった」僕としても、かなり共感できるものだったのです。
 太平洋戦争後〜平成にかけての世相の移り変わりや「警察」という大きな組織のシステムの変化、「家族」のありかたの変容などが丁寧に描かれていて、本当に読んでいて飽きない作品です。
 率直に言うと、この『警官の血』の「謎解き」には、特筆すべきものはありません。意外な犯人とか、驚愕のトリック、予想外のどんでん返しって、本当に無いんですよ。
 でも、「だからつまらない」わけじゃなくて、主人公に都合のよい「偶然」が起こらず、過酷な出来事に「これでもか」とばかりに主人公たちが翻弄されるところが、この小説の醍醐味です。
 読みながら、「なんでこの安城家の人たちは、ここまで徹底的についてなくて、人にうまく利用されてしまうのだろう……」と、同情せずにはいられない。

 より大きな悪を排除するためには、小さな罪は許されるのか?
 「清く正しく」あるべきなのが建前だとしても、それを貫くことですべてを失ってしまうくらいなら、「もっと大きな仕事をするために、泥水をすすってでも生き延びる」ほうが良いのかどうか?
 この長い物語の「ひとつの区切り」となる三代目・和也の「選択」は、僕を悩ませます。
 不幸続きの一族にとっては、大きな転換になるかもしれないけれど、それを清二や民雄は喜んだだろうか?

 佐々木譲さんは、『廃墟に乞う』で第142回直木賞を受賞されましたが、その選評のなかには、この『警察の血』もすばらしい作品だったし、合わせ技で一本!というようなものがあったそうです。
 僕は『廃墟に乞う』、まだ未読なんですが、この『警察の血』だけで、十分に「一本!」に値する作品だと思います。
 今回読み終えて、どうして単行本のときに「苦手な警察小説だし、長そうだから」という理由で読まずにいたのだろう、と後悔してしまいましたよ本当に。

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