琥珀色の戯言

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神去なあなあ日常 ☆☆☆☆


神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

内容(「BOOK」データベースより)
美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?林業っておもしれ~!高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。

「2010年ひとり本屋大賞」ついに10作目。
なんとか今年も間に合いました。
この『神去(かむさり)なあなあ日常』、僕が買った本のオビには、宮崎駿監督の「ぼくのおすすめ」という推薦文が書かれていました。
読んでみると、たしかにこの「自然のなかで生きる人々」をユーモアたっぷりに描いた作品、宮崎監督が好きそうなんですよね。

主人公・平野勇気が放り込まれた「林業」の世界。
「身体を使い、自然と向き合って伝統を守って生きる」というのは、何が正しいのかよくわからない時代に生きている僕にとっては、なんだかとても魅力的に感じられます。
その一方で、「自分にはこんなパソコンも携帯電話もテレビゲームもないような生活は、いまさらできないだろうなあ」とも思うのですけど。

そして、この作品の世界を支えているのは、三浦しをんさんの綿密な取材です。
単に「自然っていいですよね、ああ気持ちいい!」っていうのではなく、「林業」の難しさや厳しさも含めて、「きちんと描かれている」という感じがします。

「山で油断すると、痛い目見るで」
 と、巌さんはヨキを諌めた。ついで、俺に向かって律儀に補足してみせる。
「本来、山仕事は分業制なんや。いまは人手不足やし、機械も使うから、できることはなんでもやるけどな。俺たちの班は、基本は伐採担当や。杣(そま)やな。杣のなかでも、ヨキみたいに斧一本で仕事するもんのことは、特に木こりて呼ぶ。倒した木を割って材木にするのは、木挽きちゅうて、また別の担当がおった。丸太や材木を山から運びだすもんのことは、ひようていうた。修羅を組んだり、木馬道を作ったりするのは、主にひようの役目やった」
「へえええ」
 ずいぶん細分化されている。それだけ、各分野の専門性が高く、修業する必要があるってことだろう。俺は伐採のエキスパートになれるのかな。まだ、チェーンソーの目立てもうまくできないのに。

 こんなの、僕は全然知りませんでした。山で働いている人は、みんな「木こり」だと思ってた。

 読んでいて、とくに中盤までは、なんとなく盛り上がりに欠けるような気がしますし(「林業」と自然のなかで生活する人々の日常を描くのが目的の作品だと思うので、いたしかたないのでしょうが)、後半のストーリー展開もとくに意外性があったり、ドキドキさせられるようなものではないのですが、安心して読めて、読み終えて心が少し温まる佳作です。

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