琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

未来への周遊券 ☆☆☆☆☆


未来への周遊券

未来への周遊券

内容紹介
この切符の終着駅はどこだろう?
「瀬名さん、準備はよろしいですか?」
「最相さん、切符は手にしました」
こうして始まった、1年半にわたる往復書簡。
「未来を考えるということは、私たちひとりひとりが今と未来の間に「ひとつの装置」を見いだすことなのかもしれない。―― 瀬名」
星新一もまた、暗闇と希望を知る人だったのだろう。……暗闇と希望をつなぐのは物語る力だろうか ―― 最相」
…手紙が行き交うたびに紡がれる、未来へ語り継ぐべき言葉の数々。
二人の「物語る力」が暗闇と希望をつないでいく。

未来を周遊するブックガイド付

1年半にわたって産経新聞で連載された、「科学」をテーマとした最相葉月さんと瀬名秀明さんの往復書簡を1冊にまとめた本。
白っぽい地味な装丁で200ページにも満たない厚さにもかかわらず、1500円+税という価格。
内心、ちょっと高いな……と思いつつレジに持っていったのですが、読んでみると、お二人の「科学」や「人類の未来」への信頼と希望が溢れていて、僕は何度か涙が出そうになりました。僕もある意味「科学者」のはしくれではありますので。
地味なんですが、最相さん、瀬名さん、そして、この本をつくった人たちの「まごころ」と「科学の魅力をひとりでも多くの人に伝えたい」という願いがしっかり伝わってくる良書です。

最相さんの回より。

 久しぶりにファラデーの『ロウソクの科学』を読み返していて、思い出した授業がある。高校時代、科学の教師がひとりひとりにロウソクを配り、観察記録を書くようにといった。私たちはいっせいにロウソクに火を灯し、溶けていくロウと揺れる炎に目を凝らした。
 しばらくして、順番に発表することになった。ロウが芯を伝う様子を観察した者、液状の熱いロウが冷えて固まるまでを記録した者もいた。私の隣の生徒の番になり、緊張が高まった。ところが、彼女の発表を聞くうちにだんだん血の気が引いていった。彼女は最後までロウソクに火をつけることなく、配られたままの状態でロウソクを観察し、なでたり割ってみたりして、疑問に思ったことだけを書き記していた。
 ロウソクの原料は何か。どんな手ざわりがして、どんなにおいがするか。そもそもなぜ火がつくのかという問いもあった。ロウソクとは火を灯すものと当たり前のように思っていた私は打ちのめされた。あれから彼女が科学の道に進んだとは聞かない。でも、たしかに彼女は科学の原点を私に教えてくれた。課題を与えてくれた教師もまた。


こちらは瀬名さんの回より。

 この冬にインフルエンザに関して短い解説記事を新聞に寄せたとき、ある臨床医からお手紙をいただいた。私の誤記を指摘する内容だったのだが、読み返すうちに足が震えてきた。現場で働くその医師が、不安をなんとか圧し殺しながら悲痛な訴えをしていることがよくわかったからだ。耐性株が登場し、さらに別の耐性株も報道され、現場の不安と緊張が極限に達しているように読み取れたのだ。専門家が怖がっている、と気づいた瞬間、底知れない恐怖を覚え、震えが止まらなくなった。
「明日されわからないのに未来など考えられないとうそぶくのではなく、明日生きることをまず考える」と最相さんが初めに綴ってくださったことを、今思い返している。どんな新型ウイルスが報道されようとも私たち個々人ができる対策は同じだ。唾を飛ばさない、外出を控える、そして正確な情報を得る。
 先日、神戸大学感染症内科の岩田健太郎さんが研修医に向けて書いた文章を読み感銘を受けた。毎日の診察を大切にしてください。あなたが不安に思っているときは、それ以上に周りはもっと不安かもしれません。自分の不安は五秒間だけ棚上げにして、まずは周りの不安に対応してあげてください。そしてチームを大切にしてあげてください。勇気とは恐怖におののきながら、それでも歯をくいしばってリスクと対峙する態度だ、と。すべての人が胸に刻むべき言葉だと感じた。
 未来は今ここから始まる。

この2人の往復書簡を読んでいて感じるのは、科学や人間の理性への信頼なんですよね。
それと、「自分が、いま、生きているうちに幸せになること」ばかりが「自己啓発書」「ビジネス本」で語られるなかで、「科学は、それを追究する人たちではなく、子供たち、そして、未来の人間たちを幸せにするためのものなのだ」という矜持。
この本を読んでいると、「科学」も捨てたもんじゃないというか、まだまだ僕たちには、人類の未来のために遺せるものがあるのだ、と思えてきます。
最相さんは、星新一さんの評伝も書かれており、星さんのさまざまなエピソードが紹介されているのも、僕にとってはすごく魅力的でした。

参考リンク:「ただひとつだけ、光速を超えられるものがある」(活字中毒R。)

僕は前述の岩田先生の言葉を読んで、あらためて、「医療」という仕事のことを考えさせられました。
この仕事を10年以上やっていても、僕にはまだ本当の「勇気」がない。
もちろん、この「勇気」は、医療にだけあてはまるものではありません。
「科学に興味はあるんだけど、科学に希望を持つことに不安を抱いている」中高生、そして、「未来」への希望を失いかけている大人たちに、ぜひ、読んでいただきたい本です。
未来は、いまここから始まる。

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

↑も最近文庫になりましたのでぜひ。
僕の感想はこちらです。

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