琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

遺言 ☆☆☆☆☆


遺言

遺言

内容紹介
岡田斗司夫ガイナックスは、いかにして数々の傑作を生みだしてきたのか? 各作品の舞台裏からテーマ、さらにはクリエイター論まで、すべてを詰め込んだ一冊。

「創作論」にして、「作品論」にして、「ビジネス書」にして、「歴史書」にして、「オタク論」にして、「伝説のエピソード集」にして、「思想書」にして、「心に火をつける本」にして、「雑学本」にして、「物語」にして、著者の集大成です。書いておきたいこと、書く価値があること、全部入ってます。だから、『遺言』です。――「たぶん、これまでの僕の本で一番面白い」(「はじめに」より)

分厚くて本体価格が2700円もする本。
でも、「岡田斗司夫」「ガイナックス」「オネアミスの翼」「トップをねらえ!」「プリンセスメーカー」「ふしぎの海のナディア」という言葉に引っ掛かる人や、自分は「オタク」で、何かを創りだしてみたいけれど、どうしていいのかよくわからないという人には、ぜひオススメしたい作品です。
読んだのは2010年だったのですが、昨年このブログで紹介していたら、絶対「年間ベスト10」に入れていたと思います。

この本を読みながら、僕は自分が中学生だった頃、25年前くらいのことを思い出しました。
当時、友人が、「こんな面白いのを作っている人たちがいる」と、一本のカセットテープを持ってきたんですよ。
そのテープを再生してみると特撮好きだった僕たちは、もうそれこそ息もつけないほど笑い転げてしまいました。

それが、この「愛國戦隊大日本のテーマ」だったのです。

僕が当時聞いたのは、このテーマ曲を録音した「音だけ」だったのですが、「こんなバカバカしくて凄いものをつくるアマチュアがいるのだなあ」と感動しましたし、その後、僕たちがKBCラジオの「わけありベストテン」とかに投稿するようになったのも、この体験がきっかけでした。
あの頃は、『ジャンプ放送局』や『オールナイトニッポン』をはじめとするラジオの深夜放送も盛り上がっていましたし、まさに「投稿の時代」といえるかもしれません。

この本では、DAICON FILMという大阪の学生のアニメ・映画フィルム制作団体のはじまりから、『ガイナックス』の立ち上げ、そして、『オネアミスの翼』の制作から、『プリンセスメーカー』をはじめとする、マイコンゲーム界への進出、そして、『ふしぎの海のナディア』と、基本的には、時系列で、岡田さんとガイナックスの「仕事」が語られています。
岡田さん自身による、それぞれの作品についての裏側や、業界の人たちの話に、僕はもうニヤニヤしっぱなしでした。
あの西崎義展さんから、「ヤマトの続編を作らないか」という話がガイナックスに持ち込まれたときの話。

「会いたかったよ」の次の台詞が「口座番号教えてくれたまえ」、その次の台詞が「明日には二千万円振り込もう」。
 で、次の台詞が「明日じゃないな、今日中に振り込もう」。
 僕はこんな話をしていますが、真面目というか、案外冗談が通じない体質なんです。「二千万千もらえるんだったら頂きますけれども、それは何かの仕事のギャラなんですか? それとも、西崎義展と会った御祝儀なんですか? まずそれを教えて下さい」と聞いちゃったんですね。西崎義展の答えが「二千万は二千万だよ」。
 返事になってない!

 富野由悠季監督の人柄についてのエピソードも凄かったのですが、その一方で、岡田さんは、こんなことも書かれています。

 実際、ほんとに凄いんです。ホワイトベースの廊下をグリップみたいな物が常に移動して、艦内の移動は、それにつかまって行うというアイディア(本では実際の場面が紹介されています)も、ほんとに凄い。
 僕は映像SFを、子供のころから山のように見てきました。おそらく公開されたSF映画で見たことのないものは十本とないでしょう。
 その僕でも、無重力空間における宇宙戦艦内の移動手段を、あれほど合理的に、かつ端的にかいた描写は見たことがありません。
 あのグリップのアイディア一つだけでも、SFの映像史に残るべきものです。でも富野さん、あの程度のアイディアは『ガンダム』の中にぼろぼろぼろぼろ出してるんですよ。

 観客として見れば、なかなか気づかないようなところにも、制作者である岡田さんは、「凄さ」を見出しておられます。
 この本は、こういう「創る側からの視点」に溢れているんですよね。

 『ふしぎの海のナディア』の最終回についての、実際に放送された内容と、岡田さんが「自分ならこうしたいと思う最終回」のギャップも、すごく興味深いものでした。
 僕自身は、岡田さんのクリエーターとしての矜持も理解できるけれど、実際に放送されたもののほうが「好き」だと思ったのですが。

 また、この本のなかで、岡田さんは、あえて「お金の話」を「そんなの話しても大丈夫なんですか?」とこちらが心配になるくらい、キチンと書いてくれています。

アップルシード』は、当時では予算枠がかなり大きいビデオアニメでした。それを「丸受け丸投げしてかまわない」とスポンサー様が言ってくれるわけです。
「丸受け丸投げ」というのは、何もしないで下請け会社に発注し、マージンだけ抜くというやり方です。例えば『アップルシード』という企画を仮に7000万円で受けたら、5000万円くらいで下請けの制作会社にばーんと発注しちゃう。何もしないで、間で2000万円抜いちゃう。
 別に珍しい話ではありません。大きい会社だったらどこでもある程度やってるんですよ。大きい会社はなんでそんなことできるのかっていうと、マージンを抜くかわりに納品保証や品質保証をするからです。
 たとえば、あの『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)というアニメはタツノコプロが制作ということになってるし、『ふしぎの海のナディア』というアニメは、グループ・タックが制作ってことになってる。

 アニメをつくって、お金を稼ぐことのシビアさと、「クリエイティブ」の名のもとに、凄まじい自転車操業が行われていることも、この世界の現実なのです。

 あと、この本には、「マイコンゲームメーカーとしての『ガイナックス』の歴史」が、かなり詳細に描かれていて、これだけでも、ひとつの「家庭用ゲーム機との差別化に悩んだ時代の、マイコンゲームの史料」としての価値が十分にありそうです。

 実は赤井(孝美)君の方にはやりたいゲームがすでにあったんです。赤井君は『信長の野望』が大好きなんですが、その中の戦闘シーンが邪魔でしょうがない。『信長の野望』で、部下を鍛える教練の部分だけでゲームを作りたい。なんとかゲームにできないのかと考えていたんです。
 初めてそれを聞いたとき、僕は「なんじゃそれは!」と思いました。突拍子もないことです。『信長の野望』は戦闘シーンがメインのゲームです。部下を鍛えるのは、その準備にしかすぎない。そんなものがゲームになるのか、と思いました。
 それをゲームにするだけでも難しいのに、「おまけに岡田さんが言ってる「女の一生」というのも足さなきゃいけないんですね」って言うんですよ。
「いや、それ無理に足さなくていいから」って言ったら、赤井君が「いやいや、一度決めたことだからやります」って。
信長の野望』+『女の一生』って言いながらずーっと考えこんでしまった。週末ずっと考えて、翌週になると赤井君が晴れ晴れとした顔で「女の子を育てるゲームにしよう」って言い出したんです。
 これが日本で初めて、というより世界で初めて「育成シミュレーション・ゲーム」が出来た瞬間なんですよ。
 ここから『プリンセスメーカー』の外郭が決まっていったんです。

 『信長の野望』の「教練だけやっていたい」という人がいる、というのに僕は驚いたのですが、「育成シミュレーション・ゲーム」がこれだけ売れて、一つのジャンルになったということは、そういうプレイヤーは、少なからず存在していたということなのでしょう。
 それにしても、実際に商品にするっていうのは大変なことだし、『プリンセスメーカー』に関しては、ガイナックスの「絵」の魅力も大きかったはずです。


 この本の冒頭で、岡田さんは、こんなふうに仰っています。

 テーマって言うのは、映画を作るときの設計図。まず単純にこう考えてみましょう。
 建築物の設計図は、その建物を使う人、訪れる人には、縁のないものです。
 六本木ヒルズでも東京ディズニーランドでも、そこに遊びに来る人のほぼ全員が、その建物の設計図なんか見たこともないし、見る必要もない。設計図があるのは知っていても、気にする人なんていません。
 ところが、建てる人間、そこで人を遊ばせる人間は、構造図や設計図が徹底的に頭に入っていないとダメです。不便な建物になっちゃうし、場合によって力学的に無理があって、軽い地震で壊れたりしちゃう。
 映画のテーマも、見る人ではなく、実は作る人に必要なものなんです。
 だから、他人が作った映像作品を見る場合も、単に「面白い!」とか「つまんないなー」って思っておしまいにするのではなく、「テーマはなんだろう」とか「この映画の設計図って、どうなってるんだろう」って考えながら見ると、すごく勉強になります。新しい発見がいっぱいあります。
 コツさえ摑めば、作品のテーマというのは、外から見てもわかります。作った人が話せば、より鮮明になります。
というわけで、僕自身が関わってきた映像作品のテーマに関して話を進めましょう。

 この本はまさに、岡田さんが、いままでの作品の「設計図」を、読者に公開し、解説してくれているものだと思いますし、この本で「設計図の見かた」を理解すれば、他の作品にも応用が可能になるはずです。
 本当に、よくここまで書いてくれたなあ、と思わずにはいられない作品ですし、何かを「作りたい人」は、読んでみて絶対に損はしませんよ。

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