琥珀色の戯言

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憂鬱でなければ、仕事じゃない ☆☆☆


憂鬱でなければ、仕事じゃない

憂鬱でなければ、仕事じゃない

内容(「BOOK」データベースより)
小さなことにくよくよしないで、大きな仕事ができるわけがない。「極端」こそわが命。憂鬱なことが三つ以上ないと不安になる見城徹と、たぎる情熱をクールなオブラートに包んで激しくスウイングする藤田晋―。ふたつの魂が交錯した瞬間、とてつもないビジネスマンの聖書が誕生した!何が大切で、何が無駄か?あなたの臓腑をえぐる35の言葉。

240ページくらいある本なのですが、1ページに大きく見城さんの「格言」が書かれているので、本を読み慣れている人であれば、1時間もかからずに読み終わると思います。
だからといって、「内容が薄い」というわけでもなくて、なかなかインパクトがある言葉が並んでいて、僕も読みながら、「なるほどなあ(でも真似できないなあ)」と嘆息してしまいました。

「極端」こそわが命

こういう言葉こそ、見城さんの真骨頂であり、見城さんや藤田さんは、実際にそれだけのことを実行してきているからこそ、その言葉にも説得力があるんですよね。
ただ、これを「ビジネス書」として読むと、正直なところ「こりゃ真似できないや……」で終わってしまうのではないかと思います。
僕は見城さんの生き様や、「どんな方法で、書かせたい人に本を書かせ、ベストセラーを生み出してきたか」に興味があるので、「参考にする」というより、「おお、すごいなこのエピソード!」と見城さんの「極端っぷり」を楽しんで読めたんですよね。

このふたり、ある意味「仕事中毒」なので、たぶん「よい子のみんなは、真似しないように」した方が良さそうです。
前半の「豪放磊落にみえて、やたらとビジネスマナーに細かい見城徹」というのは少し意外だったのですが、若い社会人にとっては、この「見城さんがこだわっているビジネスマナー」とか「人との付き合い方」は、けっこう参考になると思います。

 僕は、あるミュージシャンと深い関係になり、しばしば会っているのに、十年以上何の仕事の依頼もしなかったことがある。その人の本を出せばどんなテーマでも確実に売れる。しかし、僕はあえて仕事の話をしなかった。ありきたりの仕事はしなくなかったからだ。
 適当な仕事でお茶を濁せば、その後、いい関係にはなり得ない。
 ある時、その人は、僕に人生に一度きりの重大な悩みを打ち明けてきた。僕は親身になって相談に乗り、最後にそのことを書くべきだと言った。逡巡した挙げ句、その人は承諾してくれ、その本は、発売5日にしてミリオンセラーになった。その人の一番出したくないものを出させるのが、編集者の仕事なのだ。それが大きな結果につながる。
 その人の名前は郷ひろみ。本は『ダディ』という。
 離婚届提出日に本は発売され、離婚の事実と経緯を人々はその本によって知ったのだ。

離婚届が出された日に発売された『ダディ』。
そんな「プロモーション」が可能だったのは、見城さんと郷さんの『深い関係』があればこそ、だったのです。
幻冬舎の本には、「下世話」というか、「スキャンダラスなもの」が多いように感じられます。
でも、先日の『逮捕されるまで』のように、読者としては、踊らされているとわかっていても、やっぱり興味が抑えられないんですよね。

全部真似はできないとしても、「ここまで相手のことを観察し、知ろうとしている人もいるのだ」と意識するだけで、日頃の「人との付き合い方」も、変わってくるはずです。
「名刺交換」などについては、還暦の見城さんと、もうすぐ40歳の藤田さんではちょっと考え方がちがっていて、藤田さんが「これだけmixiフェイスブックが一般的になってきているのだから、旧来の『名刺交換』には、それほど重きを置いていない」というようなことを書かれていたんですけどね。
一昔前の「ビジネス書」には、「電話では失礼だから、直接会いにいくように」なんて書かれていましたから、「儀礼」も「時代によって変わっていく面」はあるのです。
でもまあ、見城さんの年代の人が、いまの日本の企業のトップにいるということを考えると、「相手に合った対応」ができることは、ひとつの武器になるはずです。

僕は、見城さんの『編集者という病い』、藤田さんの『渋谷ではたらく社長の告白』の両方をすでに読んでおり、このおふたりへの予備知識があったのでけっこう愉しく読めたのですが、「こういう暑苦しい人、めんどくさい生き方は受けつけられない」という人も少なくないはず。
(僕にとっては「あまり自分の職業と接点が無い人たち」ということで、抵抗を感じにくいところもあります)
でも、本当は、そういう人たちこそ、このふたりのような生き方を、ちょっと参考にしてみるべきなのかもしれません。
やっぱり、「できないと思うようなことを、あえてやってみせる人」って、魅力的ですしね。

この本のなかで、藤田社長は、堀江貴文さんのこんなエピソードを紹介しています。

 僕の友人でもある、堀江貴文さんは、例の事件の後、しみじみと言っていました。
「反感の持つパワーが、これほどまでに強いとは思わなかった」
 当時の自分があまりにも合理的に物事を推し進めたため、あのような結果を招いたことを、堀江さんは言っているのです。その時堀江さんは、初めて、ビジネス社会に存在する隠れたマナー(掟)の重大さに気づいたのだと思います。

どんな大企業の「偉い人」たちでも(いや、だからこそ、なのか?)、そういう「感情」みたいなものからは逃れられないし、「合理性」だけでは、世の中を変えていくのは難しい。
それでも「立ち向かっていく」ことにこだわり続けている堀江さんは、すごい人だとは思うけれども。

この本、全部真似することはないし、そもそも、世の中の99.9%の人間には、「そんなことできない」はず。
それでも、「極端な人」の思考に触れることは、けっして悪いことじゃないのです。
このふたりと実際に付き合うのはかなり大変でしょうけど、その「一端に触れられる」のが、本というもののメリットなのかもしれませんね。


編集者という病い (集英社文庫)

編集者という病い (集英社文庫)

渋谷ではたらく社長の告白 (幻冬舎文庫)

渋谷ではたらく社長の告白 (幻冬舎文庫)

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