琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

女いっぴき猫ふたり ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
33歳の漫画家・伊藤はアメショのニャコ(9歳)、黒猫のクロ(9歳)と三人ぐらし。帰省する以外ほとんど家を出ない伊藤の、恐ろしいほどちっさーい世界を描いた脱力感たっぷりの猫マンガ。実は手塚治虫文化賞短編賞の受賞作だということは、思った以上に知られていない…。描き下ろしマンガ「伊藤家、現在のねこ事情」も収録。

この『女いっぴき猫ふたり』を読んでいると、世の中には「日常を切り取る力」が凄い人っているものなのだなあ、と感心せずにはいられません。
このマンガのなかで、伊藤理佐さんは、本当に「ほとんど動かない」のです。
にもかかわらず、家のなかで観察した2匹の猫の様子や、集金に来た近所の人に「いい奥様」だと思い込まれて、それを否定できないためにプレッシャーを感じ続ける話、そして、倹約家だと思いきや、いきなり、家に300万円(!)の本棚をつくってしまう話など、小さなネタから大きなネタまで、各種取り揃えて書かれているんですよね。
おおらかでめんどくさがりな感じがするのに、映画館で急に義憤に駆られる話では、「えっ、伊藤理佐さんって、そんなことするの?」と、ちょっと驚いてしまいましたし。

所々に挿入されている、「マンガ業界の人の話」も、なかなか興味深かったです。
かわぐちかいじ先生の話とか、

「幸せは金にならんが、不幸は金になる」

とのたまった、「昨年の手塚賞を受賞したマンガのセンパイ」(わかる人にはわかる微妙なシルエットが笑えます)の話とか。


僕は「犬派」なので、猫の生態は実感としてはよくわからないのですが、伊藤さんの猫への愛情と、「でも、猫には依存しすぎない」という距離感が、とても印象的でした。
こういう「動物モノ」のエッセイって、どうしてもちょっとウェットになりがちなのですが、伊藤さんのなかでは、「人間と猫とはフラット」なのかもしれません。
むしろ、伊藤さんのほうが、「猫より猫的」な部分があるし。


それにしても、あの『やっちまったよ一戸建て!!』の家が、300万円の本棚まで造った挙げ句に、あんなことになってしまうとは……
人間の「放浪癖」みたいなものって、自分の城を持ったくらいでは変わらない、ということなのでしょうね。


ちなみに、巻末には書き下ろしの「伊藤家、現在のねこ事情」が収録されています。
1歳の娘がいる伊藤さんが、この『女いっぴき、猫ふたり』を読んで、「この人(当時の自分)、”いつでも海にいける”じゃん」と羨ましく思ってしまうというのに、僕も頷いてしまいました。


肩が凝らない「ひとりぐらしマンガ」として楽しく読める、すばらしい作品だと思います。
あなたが猫好きなら、なおさら面白く読めるはず。

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