- 作者: 秋元康,鈴木おさむ
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/06/13
- メディア: 新書
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内容紹介
あなたは今の仕事を天職だと思えますか?
AKB48を生みだした秋元康と、「SMAP×SMAP」など数々のヒット番組をつくり出した鈴木おさむの2人が、「仕事=天職」について存分に語り尽くします。
2人にとって、仕事に夢中になれるかどうかは、企画書がうまく書けたり、プレゼンがうまくできたり、人脈の作り方を習得したりすることで決まるものではありません。
この企画がヒットするかどうかマーケティングしたり、世の中の流行を探ったりすることでもありません。
答えは、もっと「自分」の中にあります。
周囲からいくら「売れない」と言われてもAKB48を生み出すことにワクワク感しかなかったと言う秋元、
自分が心から好きだと思って発信していたことが「ワンピース」の映画の脚本につながったという鈴木。
テレビ番組、映画、小説、舞台、作詞……、2人がかかわるすべての仕事には、「好奇心」や「どんなことをしてでもやりたいという気持ち」が隠れています。
入院した際には病室でうち合わせをして乗り切った、借金の苦労も面白く話してネタにした、ひょんなことからちゃんこ屋を開いた、など奇想天外な仕事話も満載。
人気放送作家としてリスペクトし合う2人だからこそ、仕事に対する本音や仕事中の秘話もすべて徹底的に語り尽くしました。
「好きなことがわからない」「やりたいことが見つからない」「いまの仕事をこのまま続けていいのかどうか」……、仕事に悩めるすべての人に送る、究極の仕事哲学本です。
秋元康さんと鈴木おさむさん。
いまをときめく「メディアの寵児」である二人による「仕事論」。
小さい頃から勉強ができて、「官僚」になることを目指していたはずの秋元さんは、中学受験に失敗したことをきっかけに、放送作家の道を歩むことになります。
もし、秋元さんが麻布中学に合格していたら、『おニャン子クラブ』も『AKB48』も存在しなかったかもしれません。
受験のとき「塾で自分が教えていた同級生たちは合格したのに、仲間内で自分だけが落ちた」そうですから、人間、いろんな巡り合わせがあるものだな、と考えてしまいます。
秋元康:天職に就いてるなって思える人はみんな、好きだからやってる。好きかどうかでまずふるいにかけられる。だから、おさむもそうだし、成功した人はみんなそうなんだよね。それはそれでおもしろかったなと思ってるから。でもまわりは「その頃は大変でしたね」と思うんだよ。
AKB48も、「秋元さん、よくがんばりましたね」とかって言われるんだけど、僕は逆にそこではたと気づくの。あんなものやり始めちゃって、売れなくて、大変だって見られてたのかと。でも本人はぜんぜんそんなふうに思ってない。これやったらどうなるんだろうなとか、こんな歌出したらどうなるんだろうとか。すごく楽しかったわけだから。
「『天職』とか言っているけれど、この人たちは、『面白い仕事』をやっていられるから、そんなふうに思えるんだろうな」って、僕は考えていたのです。
まあ、それは半分くらい事実だと思う。
でも、この対談を読んでいると、ふたりの好奇心というか「仕事や人生に楽しみを見つけ出す能力」みたいなものに、圧倒されるところもあったんですよね。
鈴木おさむさんは、「もし放送作家にならなかったら、実家のスポーツ店の跡を継いでいた」そうなのですが、秋元さんは「でも、おさむだったら、イベントとかを積極的にやったりして、店の経営を楽しんでいたんじゃないかな」と仰っています。
僕のこれまでの人生で出会った「楽しく仕事をしている人」の大部分は「この人は、きっと他の仕事をやっていても、それなりに成功したり、楽しんだりできる人」なんですよね。
それにしても、テレビ番組をつくるような「メディアの世界」というのは、ちょっと異質というか、「普通の感覚では、普通の番組しか作れない世界」なのだな、とも感じます。
鈴木おさむ:僕は才能よりも、おもしろい人生を歩んでいるやつに嫉妬するんですよね。19歳でこの仕事に入ってニッポン放送で仕事を始めたんですけど、いちばん最初に受けた衝撃は、その番組にサブ作家が僕以外にもう一人いて、僕の三つぐらい年上の人だったんです。その人が、なべやかんの明治大学替え玉受験で、替え玉をやってクビになった人だったんですよ。
秋元:はははは。
鈴木:「こいつなんのやつか知ってるか?」って言われて。あれって世間をゆるがす大ニュースだったじゃないですか。僕はそんな人が日の光を浴びて生きてると思ってないわけですよ。それなのに、「こいつはなあ、替え玉のやるなんだよ」ってみんなが大爆笑して、「すげーだろう」って言うんですよ。えっ!? って。刑事事件になったし、その人は逮捕されてるわけですけど、この世界ではそれが武勇伝になる、そこに対して僕は猛烈に嫉妬をしたんですよ。
秋元:片岡飛鳥がおさむに、借金の話をおもしろく話してみろよって言ったのと通じるよね。
「こういう世界」に対して、「そんなの武勇伝にしてしまって良いのか?」というのと、「あまりにモラルに縛られていたら、(視聴率がとれる)バラエティ番組なんてつくれないのだろうな」というのと。
替え玉受験をした過去があったにせよ、それで一生日陰者、というのはかわいそうだな、と思うけれども、それが「ネタ」になってしまう世界もあるのです。
そして、そんな過去に「嫉妬」するくらい、「おもしろい人生」にこだわり続けるクリエイターがいる。
鈴木:よくツイッターに「どうやっったら作家になれますか」っていう質問がくるんですけど、それには僕、絶対答えないですね。
秋元:それを言ってるあいだはダメだよね。
鈴木:それを言ってるうちはダメだ、っていうことを書くとまたもめるから(笑)、書かないですけど。
秋元:どうしたらなれるって人に聞いてるやつはダメで、そこで何か思いつくやつが放送作家なんだよ。
秋元:成功者と呼ばれる人たちは、やったかやらないか。J・K・ローリングが書き始めなければ『ハリー・ポッター』は始まらないわけじゃない。でも95%の人は、「今度、魔法の学校の話を書こうと思う」で終わる。ふつうは、誰にも頼まれていないし、出版できるかどうかもわからないのに書き始めたりしないよ。
鈴木:テレビの演出家で、映画監督の三木聡さん、あの人も放送作家なんですよね。映画を撮るようになって、あるとき、あるフリーのディレクターが、「ずっと僕も映画撮りたいと思っているんですよ」って、三木さんに言ったんですって。そうしたら、「簡単だよ、脚本書けばいいじゃん、明日」って言われたそうなんです。で、言われたそのフリーのディレクターはもう何年も書き始めていないんですけど(笑)。
秋元:是枝裕和監督もそうだよね。ADをしていた頃はボロクソに言われてたんだって。悔しいし、撮りたいじゃない。それで、休みの日に自分でカメラ持って、ドキュメンタリーを少しずつ少しずつ撮りに行って、それがテレビドキュメンタリーの賞をとった。そのとたんにまわりの見方も変わるし待遇も変わる。
苦しい中でも、自分で撮りに行こうと思うかどうかだよ。僕もそうだったけど、放送作家はレギュラー番組の台本を延々と書いて、書き終わったあとに、どうするか。飲みに行くか、女の子と遊ぶか、寝ちゃうか。そこで、さらに書けるかどうかの差なんだよ。それは、つらいよな。
結局のところ「やるか、やらないか」だし、それも「やるなら今でしょ」なんですよね。
資格をとったり、家を建てたりするのには、それなりの「下準備」が必要なのでしょうけど、「小説を書く」なんてことは「もうちょっとアイディアを練ってから」なんて考えているうちに、どんどん年をとってしまうばかりです。
それにしても、J・K・ローリングさんは、『ハリー・ポッター』の第1巻をよく書ききれたなあ、とあらためて感心してしまいます。
「魔法学校の話」なんて、「そんなありきたりの物語を素人が書いても、どうしようもないんじゃない?」とか、絶対言われただろうし。
そういうふうに「実行」できるのも才能なのかな、と諦めかけたり、そこで「才能」にしてしまって思考停止してしまうのが自分の悪いクセなのだよな、と反省してみたり。
そう簡単に真似できるような生き方ではないと思うのですが、「なかなか最初の一歩が踏み出せない人」のうち数パーセントくらいには、もしかしたら「効果」があるかもしれません。
いや、バカにしているわけじゃなくって、そのなかの数パーセントって、すごい数字ですよ、きっと。