琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】ノックス・マシン ☆☆☆



こちらはKindle版。ただし、紙の本に収録されている4編のうち、2編しか入っていません(その分、値段は安くなっています)
[asin:B00GZK5BTY:detail]

内容(「BOOK」データベースより)
上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール、「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる…。発表直後からSF&ミステリ界で絶賛された表題作「ノックス・マシン」、空前絶後の脱獄小説「バベルの牢獄」を含む、珠玉の中篇集。


『このミステリーがすごい! 2014年版』第1位!
とりあえず、毎年1位の作品は読んでみることにしているのです。
で、読み始めたこの短編集『ノックス・マシン』なのですが……


うーん、率直に言うと、あんまりよくわからなかった……
この作品集、アガサ・クリスティエラリー・クイーンなどの古典ミステリへのオマージュ、そして、SF的な要素が溢れているんですよね。


収録作品は、収録作品
「ノックス・マシン」
「引き立て役倶楽部の陰謀」
「バベルの牢獄」
「論理蒸発〜ノックスマシン 2」
の4編なのですが、僕は『引き立て役倶楽部の陰謀』は面白かったけれど、『ノックス・マシン』の2編は△、『バベルの牢獄』は、何が書いてあるのか、あんまりよくわかりませんでした。

 ヴァン・ダインは起立して、法廷に臨んでいるように一同の顔を見回してから、
「ここにお集りの皆さんは、今から十三年前、アガサ・クリスティという名の女流作家が、伝統ある<引き立て役倶楽部>に対して、探偵小説史上最悪の侮辱を加えたことをよもやお忘れではありますまい。端的に申し上げるなら、われわれ引き立て役の権威が地に堕ちてしまった最大の原因は、クリスティ女史が1926年に発表した『アクロイド殺し』と称するペテン小説によるものであります」

これを読んで、ちょっとニヤニヤしてしまったあなた!
チリンチリ〜ン、合格です。
あなたはたぶん、この『ノックス・マシン』を読んでも、ちんぷんかんぷん、ということはないはず。


「『アクロイド殺し』って、何?」と思った人は、手を挙げて!
あなたはたぶん、この小説の良い読者になるのは難しい。というか、世の中には、こういうミステリマニアがニヤニヤするための小説っていうのもあるんです。
どうしても読んでみたい、と思われるのであれば『そして誰もいなくなった』『アクロイド殺し』『Yの悲劇』くらいは、最低、予習してきてください。


……という本なんですよ、これ。
うーむ、こういうのって、園子温監督の映画『地獄でなぜ悪い』と同じで、「わかっている人が、『オレはこれ、わかるもんね!』って、優越感に浸ることによって高得点をつけ、作品の評価が底上げされる種類の作品」なのではないかと。
くすぐられちゃうんですよね、「マニア」って。


ちなみに、『引き立て役倶楽部の陰謀』は、この4編のなかでは、もっとも「ミステリマニア度が低い人向け」なので、他の3編は、推して知るべし。
しかし、『バベルの牢獄』は、伊藤計劃さんの『ハーモニー』みたいなトリックなのかと思ったら、結局最後まで、よくわかんなかったなあ。


僕の場合、途中まで『ノックスの十戒』って、『風の歌を聴け』のデレク・ハートフィールドみたいなものなのかな、と思いながら読んでいました。
ヴァン・ダインの二十則」のほうは、知っていたのですが……
この「十戒」のなかの

5.中国人を登場させてはならない

という、今の世の中ではちょっとマズいのではないか、という項目をモチーフにしたのが、『ノックス・マシン』。
ちなみに、Wikipediaによると、実際にこれは「十戒」に入っているのですが、現代的な解釈としては、

中国人という意味ではなく、言語や文化が余りにも違う他国の人、という意味である。

とのことです。
まあ、20世紀前半の人にとっては、中国人をはじめとするアジア人というのは、宇宙人とそんなに変わりないくらい「理解しがたい存在」だったということなのでしょうね。


で、この現代人にとっては「なんだか違和感ありまくりの項目」をモチーフに、法月さんが創造したのが『ノックス・マシン』の世界。


前述したように、かなりハードルが高い本です。
『このミス』で1位になって、「年に1冊くらいミステリでも読んでみようかな」という層にまで手に取られてしまうのは、この作品にとっては、あんまり幸運ではないのかもしれません。
そういう人たちには「面白くない」以前に「何が書いてあるんだか、よくわからない」だろうから。


1位になったのはこの本の責任じゃないのだけれども、「作品の善し悪し以前に、もっとこう、万人向け、1位向けの本って無かったのかよ、だいじょうぶなのか、日本のミステリ……」とか、ちょっと思ってしまいました。


このミステリーがすごい! 2014年版

このミステリーがすごい! 2014年版


そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


Kindle版もあります。これは今読んでもゾクゾクします。未読の人は、ぜひ。

アクセスカウンター