琥珀色の戯言

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【読書感想】村上海賊の娘 ☆☆☆☆


村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 上巻

村上海賊の娘 下巻

村上海賊の娘 下巻

内容紹介
のぼうの城』から六年。四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者最高傑作! 和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、娘の景は上乗りで難波へむかう。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる! 第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。


本屋大賞候補作最後のひとつ。
読む前にネットなどから漏れ聴こえてくる評判は「滅法面白い」と「登場人物にリアリティがなくて、マンガみたい」という両極端なものでした。
それぞれ、500ページ近い長さの上下刊というボリュームもあり、今回の『本屋大賞候補作のなかでは、万城目学さんの『とっぴんぱらりの風太郎』と並んで、「読みきれるかどうか不安な作品」だったのですけど、読み始めると途中でやめられなくなるくらい面白い小説でした。
いやまあ、正直言って、「歴史小説」として考えると「どこまで史実なんだこれは……」と言いたくはなるんですよね。
「第一次木津川合戦」についての大まかな経過や、主人公の女海賊・景を除く登場人物の生死については、史実に殉じたものですし、著者がものすごく資料を吟味してつくりあげた世界であるということが伝わってくるのです。
ただ、それだけに、主人公・景があまりにもマンガ的というか、なぜそういう行動をとるのか、意味不明なところが際立ってしまうのも事実。
とくに、景の一向宗門徒に対する感情には「16世紀の話に、突然20世紀の価値観が紛れ込んでしまったような違和感」がありました。

景の意思があって、それに従って物語が動いていく、というよりは、作者の「状況をこういうふうに動かしたい」という意図があって、その駒として景が使われている、そんな場面が多いんですよね。
最後まで「いのちをだいじに」なのか「ガンガンいこうぜ」なのか、わからなかったものなあ。


いや、そういう「ムチャクチャさ」も含めて、エンターテインメントとして楽しめば良いのではないかと思いますし、僕も下巻の後半の合戦の場面などは、古い言い回しではありますが、読みながら「血湧き肉踊る」という高揚感に浸っていたのです。
ちょっとクドいな、というか、さすがにそれで生きてるのは、反則だろ……とかいう場面もあるんですけどね。
読んでいて、『魔界転生』を、思いだしてしまいました。
とっぴんぱらりの風太郎』といい、「伝奇小説の復権」というのは、最近のひとつの流れなのかもしれません。


「史実に忠実で、地味な小説」だけが「歴史小説」じゃない。
歴史上の事件や戦いを舞台に、作家が想像を羽ばたかせて、読者を楽しませてもいいじゃないか、と思える読者にとっては、極上のエンターテインメントだと思うんですよ、この作品。
ありえない話、マンガのような登場人物を描きながら、これだけ読ませるものにしているのは、作者の「背景を描くことへの執念」の賜物です。


面白さでは、今回の『本屋大賞』の候補作のなかでも、ナンバーワンだと思います(もちろん、「面白さ」を指向している作品ばかりではないんですけど)。

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