琥珀色の戯言

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【読書感想】彼女がエスパーだったころ ☆☆☆☆

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ


Kindle版もあります。

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ

内容紹介

進化を、科学を、未来を――人間を疑え!

百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――。
デビューから二作連続で直木賞候補に挙がった新進気鋭作家の、SFの枠を超えたエンターテイメント短編集。


 宮内悠介さんの『盤上の夜』を読んだとき、ボードゲームをこよなく愛する僕は「これだ!」と思ったのです。
 『ヨハネスブルグの天使たち』は、正直、僕にとってはちょっと難しかった……

 
 この短編集『彼女がエスパーだったころ』は、「百匹目の猿」「スプーン曲げ」「水からの伝言」など、さまざまな「オカルト」を題材にしています。
 オカルトを盲信しているわけではない、というか、むしろ懐疑的ではあるのだけれど、これらのオカルトに惹かれてしまう人々や「オカルトが人生の一部になってしまった人々」が、すごく親近感を持って描かれているんですよね。
 『水伝』を彷彿とさせるエピソードでは、その「ウソ」もちゃんと解説されているのですが、そのうえで、それを心の拠り所にしている人たちを全否定はしていない。
 なんというか、湯川准教授がいない『ガリレオ』みたいなものなのですが、著者は、オカルトの「説明できるところ」と「今の段階では、まだ全否定はできないところ」の間、みたいなものが、丁寧に描かれているんですよね。
 「オカルト」なんて、みんな何かのトリックだろう、と思いつつも、その「いかがさしさ」も含めて、なんだか否定できないというか、惹かれてしまうところがある。
 トリックを書くのではなくて、それに魅力を感じている人間を描くのが、小説の仕事であり、この作品の魅力でもあるのです。
 読んでいて、『百年の孤独』を思い出してしまいました。
 なんだか、現代のマコンドをさまよっているような気分になったのです。


 表題作『彼女がエスパーだったころ』より。

 スプーンが曲がると気づいたのは五歳のことだという。
 とはいえテレパシーや瞬間移動ならいざ知らず、スプーンなどが曲がったところで生活上の約には立たない。そこで新卒採用でソフトハウスに就職したものの、いわゆるデスマーチに初年度から巻きこまれ、ストレスから鬱病となり、衝動的に、大量のスプーンを曲げては放る動画をウェブに公開したところ、超能力があるとかないとか以前に、その技術と器量の無駄遣いが人心を打ち、たちまちエスパー界のゆるキャラの地位が確立された。

 なんだか本当に「妙にリアル」なんですよこの小説。
 「スプーンが曲げられる」ことだけで、もう、人々を驚かせることはできない。
 「ありきたり」の「超能力」を持ってしまった人の悲喜劇。

 
 人によっては、なんだか「すっきりしない」と思われるかもしれませんが、僕はこの小説の「カオスさ加減」がけっこう気に入っています。


盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

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