創造的脱力 かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論 (光文社新書)
- 作者: 若新雄純
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/11/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
創造的脱力?かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論? (光文社新書)
- 作者: 若新雄純
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: Kindle版
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内容紹介
従来の社会システムの多くは、耐用年数がすぎ、人や組織の在り方を窮屈にしている。多様なスタイルや解放的な文化をつくりだしていくには、この「かたい社会」のシステムや人間関係を、中心ではなく周辺部分からゆるめていく脱力的なアプローチが不可欠だ。ゆるい就職・NEET株式会社・鯖江市役所JK課……脱力的で実験的なプロジェクトの実態と、携わった当事者の生々しい感情の交錯から「新しい何か」の萌芽を探っていく。
新しい時代には、新しい時代に合った働き方があっていいはず……なのですが、実際には、経済的な停滞や将来への不安もあって、正社員志向は根強く、「ちゃんとした会社で働いている」というのがひとつの人間の判断基準であり続けているのです。
著者は、「学校を卒業したら、とりあえず週5日が会社や仕事で埋まってしまう」というのは、本当に健全なことなのだろうか?と考えたのです。
「正社員」というマジックワードが、人々に誤った選択を強いているのではなかろうか?
いまの世の中「正社員」だからといっても、安泰とは限らないのに。
2014年の夏、僕は人材サービス会社と組んで、「ゆるい就職」という実験的なサービスをはじめました。これは、新卒や20代の若者に「週休4日で月収15万円」の仕事を紹介するという実験的な取り組みです。つまり、週三日だけ働いて最低限必要なお金を稼ぎ、余った時間はもっと自由に使ったらいいんじゃないか、ということです。
このサービスは、開始直後からさまざまなニュースメディアで取り上げられ、すごい反響がありました。別に僕は政治家ではないので、日本の若者全てにこの働き方を強制しようなんて考えたわけではありません。こういう選択肢もあっていいのではないか? という一つの提案です。それでも、「甘いうたい文句でだましている」「こんなものは日本の若者をダメにする!」といった批判的な意見もたくさん寄せられました。労働のあり方やスタイルに対しては、まだまだ「こうあるべき」という限定的で硬直した考え方が根強いようです。
「ゆるい就職」のウェブサイトには、「これは人材派遣および契約社員紹介サービスです」「正規雇用など安定した就職を希望している方は間違っても応募しないでください」「仕事そのものはそんなにゆるくありません」などとかなり大きな注意書きをしました。
僕もこの「ゆるい就職」をネットで見たのですが、正直、「そんな中途半端な働き方じゃ、将来困ることになるんじゃないの?」というのが率直な印象でした。
若い頃の苦労は、買ってでもしろ、とかいう先輩、僕も若い頃は大嫌いだったんですけどね。
自分が年を取ってみると、こういうものなのかな。
ちなみに、説明会には150人の若者が参加し、男女比は7:3、学歴は「いわゆる早慶MARCH」以上が35%以上を占めていたそうです。
学歴だけなら、有名企業に正社員として採用されそうな人たちが、なぜ、「ゆるい就職」に興味を示したのか?
志望動機をざっくりいうと、三分の一が、音楽や芝居などの趣味や芸術活動を本格的に続けたい人、三分の一が、起業や新しい活動をはじめるための準備時間がほしい人、残りの三分の一が、今後やりたいことをゆっくりと摸索したいという人でした。そして、みんな共通して、勤務地や労働時間、職務などに自由の利かない正社員という「ロックされた」働き方に疑問を抱いていました。
「正社員志向」が強いなかで、こんなふうに「若いときに選んだ仕事が人生の中心になってしまうこと」に疑問を感じる人も少なからずいるのです。
これを読んで感じたのは、彼らはけっこう積極的に「他にやりたいことがある」という理由で、こういう「ゆるい就職」を選択肢のひとつとして考えているのだな、ということでした。
とにかく大きな会社、有名な会社に就職しておけば、というよりも、ずっと自分自身のことを熟考しているようにみえるのです。
著者は、これ以外にも、さまざまな「話題になる働き方」を仕掛けています。
2014年の春には、福井県鯖江市で、地元の女子高生が主役となってまちづくりを行うプロジェクト「鯖江市JK課」を提案し、公共事業として採択されています。
なんだそのふざけた企画は、そんなものに税金を使うな!と言いたいところなのですが、実際に女子高生たちが参加することによって、鯖江市には、さまざまな恩恵がもたらされています(知名度の上昇、といったものも含めて)。
JK課メンバーたちは、先生や大人によって用意された「与えられた問題」を解いていくのではなく、自分たちで「問題にした問題」の解決を考えていくわけです。彼女たちは、それにハマったようでした。
その後におこなわれた記者会見では、こんな質問がありました。
「自分たちの悩みからサービスが生まれることに気づいたということですが、みなさんは他に、鯖江市で暮らしていてどんな悩みがありますか」
これに対して、あるメンバーが「そういえば、朝の通学で利用している市営バスが、始業二分前に学校の前に着くので、教室に入るのがいつもギリギリです」と口にしました。
この答えには、同席していた牧野市長が驚いたようで、「えっ? いつから? もっと早く教えてよ!」といって、サービスの改善をその場で約束しました。そのバスダイヤは何年も前からだったようで、思わぬところで市営サービスの問題点が露呈したというわけですが、このやりとりで会場は大いにわきました。
それまで、まちでふつうに暮らす女子高生たちには、困っていることがあっても、「問題を問題にする」機会がありませんでした。というより、悩みを発信することでその解決や改善につなげるという発想すらなかったのだと思います。まちで大人たちがつくったサービスに問題があっても、仲間内でぶつぶつと不満をいってやりすごすのがふつうです。もちろん、市役所のホームページには問い合わせできる電話番号が書かれています。けれども、そんなところに女子高生がわざわざ連絡するはずはありません。それが、「ゆるい市民」のリアルな日常です。
市民バスのダイヤ修正は、市がすぐにでも解決できるような問題でした。それにもかかわらず、市営バスの一番のヘビーユーザーである高校生にとってなんとも不便な状態が、何年間も放置されていたのです。
自分たちで「問題を見つけ出す」というのが著者のやりかたで、それはきっと、参加した女子高生たちの意識を大きく変えることになったはずです。
変えようとすれば変わるものって、案外たくさんあるのに、それを変えようという気持ちや、どうやったら変えられるのかがわからず、そのまま「現状維持」になってしまうことって、本当に多いのです。
また『NEET株式会社』というのも、かなり話題になりました。
これは、「34歳以下のニートを集めて、全員が取締役の実験的な会社をつくる」というプロジェクトです。
NEET株式会社のメンバーたちは、とことん収益性は低いものの、いくつかの独特でマニアックな事業(というよりも活動)をつくってきました。ブラック企業と戦うオンラインゲームや、「下には下がいる」ことを実感してもらうための「ニート人生ゲーム」なるものなど、本当にさまざまです。
その中でも特に世の中に注目されたものに、「レンタルニート」という事業があります。これは、取締役の一人である「なかさま」というハンドルネームのメンバーがはじめた取り組みで、一時間1000円で自分を「遊び相手」として貸し出すというものです。
この新書を読んでいると、著者が「いろいろな人々の、いろいろな生き方」を考えてきたということがよくわかります。
ネットでも、「社畜かニートか」みたいな極端な比較になりがちなのですが、実際は、「仕事はしたいけれど、残業や休日出勤ばかりで身を削るようなのは嫌だ」という人から、「みんなと一緒に仕事をするのは難しいし、長時間労働も無理だけれど、自分にできる範囲で少しでも役に立ちたい、稼ぎたい」という人まで、仕事に対する向き合い方には、さまざまなグラデーションがあるんですよね。
これからの世の中では、それをうまく掬い上げて行くことが求められているのです。
現時点では「社畜側」にいる僕にとっては「そんなことで将来どうなるんだ……」と言いたいところもあるのですが、自分の将来だって、絶対安泰とはいえないと思うと、「やりたいことをやりたいうちにやる」というのは、生き方として間違ってはいないような気がします。