琥珀色の戯言

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【映画感想】インフェルノ ☆☆☆

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あらすじ
記憶喪失状態でフィレンツェの病院で目覚めたロバート・ラングドン教授(トム・ハンクス)は何者かに命を狙われるも、医師のシエナブルックスフェリシティ・ジョーンズ)の手引きで事なきを得る。やがて二人は、人口増加を危惧する生化学者バートランド・ゾブリスト(ベン・フォスター)が人類の半数を滅ぼすウイルス拡散をたくらんでいることを知る。彼らは邪悪な陰謀を阻止すべく、ゾブリストがダンテの叙事詩神曲」の「地獄篇」に隠した謎の解明に挑むが……。

www.inferno-movie.jp


2016年19作目の映画館での観賞。
平日の夕方からの回で、通常料金。観客は僕も含めて3人でした。

ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』に続く、シリーズ第3弾です。
主役のロバート・ラングドン教授がパートナーの女性と協力しながら、ルネサンス期の人物や絵画に秘められた暗号を解読し、世界の名所を巡りながらストーリーを進めていく、という構成は、「今までどおり」です。
毎回、「トム・ハンクスが観光する場所が違うだけじゃねーか!」とツッコミを入れたくなるのですが、観ているとそれなりに楽しめる。
フィレンツェヴェネツィアには行ったことがあるので、懐かしいなあ、とか思いながら観ていました。
フィレンツェ、一度しか訪れたことはないのですが、僕はすごく好きな街です。


というような話を「感想」として書いてしまうほど、まあ、なんというか、「お約束」な映画なんですよね。
冒頭に、こんな問いかけが出てきます。

「今、このスイッチを押せば人類の半分が死ぬ。しかし、押さなければ人類は100年後に滅びる。全てはお前次第だ―」


僕がこの『インフェルノ』にいまひとつ感情移入できなかったのは、「人口の増加で、人類は滅亡に向かう」という主張そのものに疑問を感じたからなんですよ。

人類史のなかで、人口というのは近年、急激な増加を続けてきましたが、次第に増加のペースは頭打ちになってきており、近い将来減少に転じるのではないかとされているのです。


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日本に住んでいると「人口問題」というのは過去のことのように感じられるのですが、この本で紹介されている各種のデータによると、欧米のいわゆる「先進国」の人口は頭打ちになっている一方で、アフリカではまだまだ人口は増加傾向にあります。
それでも、アフリカの人口の増加も次第に落ち着いてきて、世界の人口のピークは、120億人くらいになると予測されているようです。
そういう話を知っていると、ちょっと興醒めするストーリーではあるんですよね。
人口を減らすための方法というのも、お約束というか、前時代的な感じですし。


映画の『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズって、謎解きというか、有名な絵や美術品の前で、いきなりラングドン教授が「こういうことか!」と何かに気づき、あっという間に次の場所に移動していく、ということの繰り返しなので、観客には推理するためのヒントも時間も与えられていません。
長い原作小説を2時間で映像化するのはこうするしかないのでしょうけど、謎解きに興味がある方は、ぜひ一度「ベストセラー小説なんて!」と食わず嫌いにならずに原作も読んでみていただきたい。
インフェルノ』に関しては、ダンテの『神曲』の「地獄篇」についての予備知識があると、より楽しめると思います。
でも、知らなかったらわからないとかそういうレベルじゃなくて、小ネタに気づくことができる、というレベルなんですけどね。そもそも、『神曲』は、現代の日本人にとってあまり読みやすくもないし、読んで面白いかどうかは微妙なところです。


ただ、この映画が駄作かというと、そういうわけでもなくて、あんまりあれこれ考えずに、世界の有名観光地の映像や芸術家・美術品の蘊蓄を、トム・ハンクスのガイドで2時間観ることができる、きわめてリーズナブルな娯楽作品ではあるんですよ。
観終えて「ああ、フィレンツェ、もう1回行ってみたいなあ」と思うくらいで、人口爆発云々については、何も感慨は残らないのですが。
そもそも、ラングドン教授自身も、この「人類の半分が死ぬスイッチ」を最初から「ありえない選択肢」として除外しているので、単なる「勧善懲悪の話」にしかならないのです。
イデオロギーを語る映画じゃないのは百も承知なんだけれど。


この映画を観ながら、僕は織田裕二さんが主演していた映画『アマルフィ 女神の報酬』を思い出していたのです。
あれを観たとき、「なんだこの観光地めぐり映画は! アマルフィって、タイトルにもなっているのに、ちょっと寄り道しただけだし!」って失笑してしまったんですよ。


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ちなみにこれは7年前の『アマルフィ』の感想なのですが、われながら悪ノリしてるなあ。


インフェルノ』のヴェネツィアとか、まさにこのアマルフィみたいな扱いだし、こうしてみると『アマルフィ』を観て「だから日本映画は……」と思うのは間違っているみたいです。
ダ・ヴィンチ・コード』シリーズでは、名優トム・ハンクスロン・ハワード監督のコンビが、「ものすごくお金をかけた『アマルフィ』みたいな映画」を3本も撮っているのだから。


それでも、秋の夜長に肩のこらない映画を観たい、とりあえず2時間現実逃避したいな、という人はけっして少なくないはずで、そういう人にとっては、この『インフェルノ』って、「ちょうどいい」のではないか、とは思うんですよね。


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