琥珀色の戯言

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【映画感想】メアリと魔女の花 ☆☆☆

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あらすじ
無邪気で不器用な少女メアリは、森で7年に1度しか咲かない不思議な花“夜間飛行”を見つける。この花は、魔女の国から盗み出された禁断の花だった。一夜限りの不思議な力を得たメアリは、魔法大学“エンドア”への入学を許されるが、あるうそをついたことから大事件に発展してしまい……。


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 2017年の映画館での17作目。平日の夕方からの回で、観客は僕も含めて4人でした。
 まあ、子供、ファミリー向けの映画だと思うので、平日夜はこんなもの、なのだろうか、それとも、「ジブリの後継者」としては、ちょっと物足りない集客なのかな……
 初週の興収は、『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』に次ぐ2位だったそうですが、これから夏休みで上昇気流に乗れるかどうか。


 『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の米林宏昌監督が、スタジオジブリから独立してつくった「スタジオポノック」の第一作です。
 正直に言うと、予告編の時点で、「ああ、これは僕にはあまり面白くないんじゃないかな」と思っていました。
 『アリエッティ』『マーニー』は、嫌いじゃないし、悪い映画だとは思わないけれど、大傑作、とも感じなかったし。
 僕の場合、スタジオジブリのアニメーションに、そんなに強い思い入れがなくて、宮崎駿監督の作品で、ベスト3は『風の谷のナウシカ』『カリオストロの城』『紅の豚』(次点『もののけ姫』)という懐古厨なので、あまり参考にはならないかもしれません。
 ジブリの作品って、『ドラゴンクエスト』と同じで、ブランドの力で観客の評価が底上げされている気もしていたのです。


 個人的な期待度としては、DVDレンタルで十分なんだけど、「スタジオポノック」へのご祝儀と感想を書くために観にいきました。


 それにしても、オッサンがひとりで映画館でアニメをみることが、そんなに変じゃない時代をつくったジブリはやっぱりすごい。
(息子たちには「興味ない」と一蹴されました。行くなら『カーズ』の新作だろう、と)


 観終えての感想。
 うん、まあなんというか、そんなに悪くはなかった。
 これまでの米林監督作品を覆っていた「不安」とか「憂い」みたいなものをあえて取り払って、説教臭い要素も極力排除して、素直な冒険譚にしたのは正解だったと思います。
 その一方で、あらためて思い返してみると「この映画ならでは」という記憶に残る絵もストーリーもなかったんですよね。


 米林監督は、新しいスタジオの第一作として、失敗は許されない、というプレッシャーのなかで、「ジブリの正統後継者」であることをアピールしようとしたのだと思います。
 失敗は許されないから、『宅急便』で実績のある「魔女+クロネコ」に『千と千尋』のような敵役、『ハウルの動く城』のような魔法学園(ちょっと『イース』ぽかったかも)など、ジブリへのオマージュを詰め込んで、伝統の飛行シーンもふんだんに取り入れました。
 主人公以外のキャラクターが、なんだか絵的に平板にみえるのと、ラスポスがしょぼくてありきたりなこと、『ゲド戦記』か!と言いたくなるような、「実は身近な人が〇〇でした!」というご都合主義など、がっかりするところもたくさんあったんですよ。
 ただ、やっぱりこれは「ジブリの絵」だと思うし、この作品が成功しないと、ジブリの遺伝子は絶えてしまうのではないか、と不安でもあります。


 ほとんど同じ実力のアニメーターを揃えて作ったはずだし、静止画では遜色ないようにも見えるのに、映画館で動いているところを見ると、『メアリと魔女の花』のキャラクターには、ジブリほどの「生命感」がないのです。
 メアリはそんなに悪くないんだけれど、それ以外のキャラクターは、手抜きのようにみえてしまう。


 僕は前述したように、「ジブリ大好き」じゃないんですよ。
 でも、この『メアリと魔女の花』をみると、宮崎駿監督って(高畑勲監督も)、すごかったんだな、映画って、同じようなスタッフでも、監督の力で、こんなに違うものになるんだな、と感じました。


 今作に関しては「ジブリっぽい作品」をつくらざるをえなかったのであろう米林監督にハンディキャップはあったはずです。
 これから、素晴らしい作品を出してくる可能性は十分にあります。
 『君の名は。』の新海誠監督だって、商業的に成功を収めるにはだいぶ時間がかかりましたし。
 

 降板した監督の代打として、急遽、「これなら作らせてやる」と言われ、短期間で完成させた初監督作品が『ルパン三世 カリオストロの城』だったという怪物と比べるのは、かわいそうだよね。
 でも、本当にすごい人というのは、そういうものなのかもしれないな、とも思うのです。



 正直、僕はこの『メアリと魔女の花』が想定している観客とは極北の存在でしょう。。
 「映画慣れ」していて、「こんなのベタだ」というようなマニアじゃなくて、夏休みの子供たちが、100分間、魔法の世界を楽しんでくれれば、それでいい、そういう映画なんだよね、これ。


 「ジブリと比べて云々」はさておき、「いま、本当に子どもたちが楽しめる、数少ない劇場アニメ作品」ではあるのです。
 『アンパンマン』と『君の名は。』の間の年齢層を埋める作品としては、よくできているんじゃないかな。
 ただ、「ジブリの後継者」として、それなりのお金をかけてつくると、「そこそこの成功」では許されないところはありそうです。
 男の子だったら、「『ポケモン』か『カーズ』のほうがいい!」って言うはず。
 いまの女の子は、こういう「魔女もの」にワクワクできるのだろうか。
 さりとて、大人がみて「よかった!」と思えるほど、守備範囲が広くもない。


 本当に「悪くないんだけど、悪くないものを観るために、わざわざ映画館に行くっていうのもねえ……」って、感じなんですよ。
 シネコンの普及で気軽に入れるようになったとはいっても、映画館で観る映画には、なにか「特別なもの」を期待するじゃないですか。
 そうだ、SEKAI NO OWARIの大ファンの人は嬉しいんじゃないかな、きっと。


 残念、みたいなことばっかり書いてしまいましたが、スタジオポノックには「ジブリの遺伝子」を残していってほしいし、2作め以降にも期待しています。
 あんまり期待しすぎないで観ると「そんなに悪くないじゃん」って思える作品でしたよ、こんなオッサンでも(あんまりフォローになってないかな……)


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