- 作者: 益田ミリ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/08/03
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
イヤなことがあって、イヤだと思っていたら、別のイヤなことが。でも、そのおかげでひとつ前のイヤなことが煙にまかれてぼやけていく。イヤなことがある日も、ない日も、さいごは大好物のサバランや、デパ地下のアップルパイ、トラヤカフェのかき氷で終わらせれば元気が湧いてくるというもの。かけがえのない日常をつぶさに掬い取るエッセイ集。
益田ミリさんが、幻冬舎の公式ウェブマガジン(幻冬舎plus)に連載中のエッセイ「前進する日もしない日も」の2013年10月から2016年5月分を書籍化したものです。
全部で180ページもない、薄いエッセイ集なのですが、「何か読みたいけれど、そんなに肩がこらなくて、かさばらないものがいいな」という気分のときに書店で見かけて購入。
益田ミリさんのエッセイ(マンガ)って、気軽に読んでいると、ときどき、ものすごく人生みたいなものについて考えさせられる言葉が出てきて、胸を突かれることがあるんですよね。
ウェブマガジンでの連載ということもあってか、本当に「思いついたことをサッと文章にしている」ような感じのエッセイ集なのですが、益田さんのエッセイでいつも感心するのは「つかみ」の上手さなのです。
とりあえず、あと10分くらい会話しないと解散には早すぎる、という場が大人にはあるもの。
こういう、「ああ、確かにそういうのって、ある!」と引きつけられてしまうような書き出しが多いんですよね。
ちなみに、エッセイは、こう続きます。
用件が思った以上に早く終わり、もう伝えることはないんだけど、
「じゃあ、そろそろ行きますか」
と言うにはあっさりしすぎているので、強引に作る「余韻」の10分。
そういうとき、やめたほうがいいのは質問のやりとりである。時間かせぎのためだけに、たいして知りたくもないことを互いに質問し合っていると、特に言いたくなかった話題や、聴きたくなかった話題が出現して面倒だったりする。
この夏のわたしの「余韻」はかき氷だった。
この、圧倒的「あるある感」と、「余韻」がかき氷?という意外性。ひとつひとつがそんなに長くないエッセイだけに、こういう「上手さ」が際立っているのです。
実際、こういう「ちょっと間を持たせようとして、余計なやりとりをしてしまうこと」って多いですよね。読んでいて、僕もこういうときのために「かき氷の話」みたいなものを準備しておこう、と思いました。
本当は、こういうときに「じゃあ、これで」って言うことができればいちばん良いのだろうけれど。
いくら努力をしても話が通じない人というのがいるもの。いや、心が通じ合えない人、と言うべきか。それがわかってきた頃には中年なのだった。
もし、うーんと若い頃、そうだなぁ、中学生くらいの頃に気づいていたとしたら、もう少し楽だった場面もあったのではないか。
人は必ずわかり合える。
大人たちから吹き込まれ、そうだ、そのとおりだと真摯に受け止めていたらたくさんの擦り傷を負ってしまった。あれは大人の願望のかけらだったのである。
大人になって考えてみると、大人というのは、自分自身では信じていないような理想や願望を子どもたちには教えたり求めたりしているんですよね。それは本当に正しいことなのかどうか。
だからといって、「わかり合えない人もいるんだから、無理をせずに距離をおいたほうがいいよ」と子どもに言うのは、やはり抵抗があるのです。こういうことを繰り返しながら、世代交代が行われていくのだよなあ。
益田さんが北陸を旅したときの話。
ホテルに荷物を置いたあと、いざ、富山ブラックの店へ。チェックインのときに、フロントの若い男性に、
「近くで富山ブラックが食べられるお店はありますか?」
と聞いてみたところ、
「ぼくが一番おいしいと思うのはここです」
と、教えてくれたのである。
こういうときに、「ぼくの一番」が言えるのってかっこいいなと、わたしは思ったのだった。普通なら、「みなさまお好みがあるので一概には言えませんが、こちらと、こちらなんかは有名店でございます」、くらいでやり過ごすところを、彼は、ちょっと照れくさそうに「ぼくの一番」を発表してくれたのである。
一番好きな映画、一番好きな音楽、一番好きな俳優、一番好きな小説、一番好きな絵本、一番好きなデザート、一番好きなおにぎりの具……。
一番好きな〇〇と絶えず問われつづけているわたしたち。その答え次第で、なにかも評価されているのである。それが嫌で、はぐらかすこともあるわけだけど、本来は、もっと気軽に答えてよいものではあるまいか。なので、旅先で「ぼくの一番」で出迎えられ、なんだか妙に嬉しかったのである。
いまの世の中って、こういうときに「何を一番にするか」で相手に値踏みされてしまうような気がして、尋ねられると身構えてしまいがちです(少なくとも、僕の場合はそうです)。
多様な価値観やネットですぐに情報(ポジティブなものもネガティブなものも)を得ることができるようになったことによって、「そんなものが一番だと思っているのか」って、相手に内心バカにされるかもしれない、とか、つい考えてしまうのです。
このフロントの人のような立場だと、なおさら、「お客さんの口には合わなくて、文句言われたらどうしよう」なんて心配することもあるはず。
でも、あらためて考えてみれば、「自分の一番」に、そんなに意識過剰になる必要って、ないんですよね。
もっと、気軽に教え合っても良さそうなのに。
まあ、すぐに「自分のおすすめ」を言いたがる人には「ステマじゃないか?」とか、僕も思ってしまうのですけど。
- 作者: 益田ミリ
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