琥珀色の戯言

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【読書感想】ワケありな映画 ☆☆☆

ワケありな映画

ワケありな映画


Kindle版もあります。

ワケありな映画

ワケありな映画

巨額の資金と、大勢のスタッフや俳優、時間を注ぎ込んで作られる映画。それだけ大きな金、人、時間が動くからには、信じがたいトラブルや悲劇に見舞われることもある。 爆破予告があり上映中止になった「ブラック・サンデー」、戸塚ヨットスクール事件で関係者が逮捕されオクラ入りになった「スパルタの海」、公開直後に監督の妻と子供が殺された「ローズマリーの赤ちゃん」、わいせつをめぐり監督が訴えられた「愛のコリーダ」など、映画そのものよりも、そのトラブルが目を引くものも少なくない。 本書は、古今東西の「ワケありな映画」を46本収録。読了後、何気なく観ていた映画の「裏側」が気になる1冊。


 最近の「お蔵入りになった映画」といえば、出演している有名俳優の薬物とか犯罪という不祥事の影響で、というのが多い気がします。
 その一方で、『靖国 YASUKUNI』や『ザ・コーヴ』のように、「反日映画だ」ということで上映反対運動にさらされて上映が見合されることもあるのです(この2本は、結局、日本でも劇場公開されています)。

 この本では、46本の、なんらかの理由で劇場公開されなかったり、ごく短期間で打ち切られたり、出演者やスタッフが次々に亡くなり、「呪い」の存在がささやかれたりという「ワケあり」映画が紹介されているのですが、中には、最初の劇場公開のときには全く注目されなかったものの、「封印作品」として話題になり、のちにカルト的な人気を博すようになった作品もあります。
 あえてワイセツ描写に挑戦したり、作中で描かれている人物や事件に影響されて犯罪を起こした(とされる)映画も紹介されているのです。


 スタンリー・キューブリック監督の代表作のひとつ、『時計じかけのオレンジ』の項より。

 アメリカでの公開は1972年2月2日。米国映画業協会(MPAA)からハードコア・ポルノ映画にあたるX指定を受けての公開だった。乱交プレーをコマ送りにしたからといってX指定は外せないというわけだ。
 公開直後には、アメリカの新聞社30社がX指定の映画の宣伝を拒否。名指しこそされなかったが『時計じかけのオレンジ』に対する閉め出しの意図は明らかで、これに対しキューブリックは「表現の自由を侵害するものだ」という主旨の手紙を新聞社に送りつけて物議をかもしている。
 同年5月15日、大統領選挙のキャンペーンを行っていたアラバマ州知事のジョージ・ワラスが、アーサー・ブレマーという22歳の男に狙撃され下半身不随になるという事件が起きた。この事件で問題となったのは、ブレマーの車から発見された日記。
 そこには「『時計じかけをのオレンジ』を見て、その間ずっとワラスをやることを考えていた」と書かれていたのだ。彼は、アレックスのセリフにある「ウルトラ・バイオレンス」という言葉も使っていた。作品が現実の暴力を誘発したと見られてもおかしくないショッキングな事件だった。


 こういう「影響された人が犯罪を起こしてしまう映画」というのは、少なからずあるのです。それだけ、登場人物に感情移入できる作品でもあるのでしょうけど。
 最近では、2019年に公開された『ジョーカー』は、アメリカの上映館では厳重な警備体制が敷かれたことが話題になりました。


 政治的理由で公開が難しかった『靖国 YASUKUNI』は、観てみると、とくに内容が「反日」とも言い切れず、なかなか良い映画だったと述べられています。

 靖国神社のご神体は日本刀。戦中は靖国刀といういう軍刀がつくられていた。映画は、その最後の刀鍛冶職人である刈谷直治さん(当時90歳)を軸に、8月15日に靖国神社に集まる人々の様子を淡々と映し出している。英霊や天皇を称える者、旧日本軍の軍服姿で行進する一団、参拝に訪れる小泉首相(当時)、抗議運動を起こして暴行を受ける若者、台湾人の合祀の取りやめを求める台湾の人々……。
 終戦記念日、さまざまな人々の思いが交差し、もっとも熱気を帯びる場所、靖国。報道では見ることのない靖国神社の生々しい姿がある。
 やや素人感のあるカメラワーク、対象外と思われるものが映り込んでも、編集でカットせずに見せているところはドキュメンタリーとして好感がもてる。同じドキュメンタリーでも、メッセージ性が強くナレーションで語り尽くすマイケル・ムーアなどの作品とは対照をなすだろう。
 明治2年に設立された靖国神社がどのような役割を担ってきたのか、それは戦中戦後で変わったのか、変わらないのか。なにも知らなかった人間には勉強になるし、考えさせるいい映画だ。
「この映画は日本に対する私の問いかけ」という監督の意図は、十分に汲みとれるものである。


 ここまで称賛されていると、これまで「政治的に偏った、プロパガンダ映画」だと思い込んでいた『靖国』を、一度ちゃんと観てみようかな、という気になります。
 というか、僕自身も、観たことがない映画を先入観やネットでアピールされているところだけで判断していたのです。
 僕の知人にも靖国神社を訪れたことがある人が何人かいて、みんな「行ってよかった」と感想を述べていました。
 

 紹介されている作品のなかには、「何なんだこれは……」と唖然としてしまうものもあるのです。

『幻の湖』という映画の項より。

 物語は「ジョギングが趣味のソープ嬢による、愛犬殺しへの復讐」という、大手映画会社配給なら通常ありえないモチーフで、我々を無常観漂う奥深い世界へと誘ってくれる。
お市」の源氏名をもつソープ嬢の道子(南條玲子)は、琵琶湖周辺で白い愛犬のシロとジョギングするのが日課だ。しかしある日、シロが何者かに殺され、深く傷ついた道子は犯人探しに奔走する。
 さまざまな証言から、東京の作曲家・日夏圭介(光田昌弘)という男が、鯉料理に使っていた出刃包丁で殺したとわかる。
 すると道子は上京し、日夏の事務所に乗り込む。だが、何度訪れても日夏に会わせてもらえず、ついにはもっていた出刃包丁で脅すのだが、警察を呼ばれて追い出され、東京をさまようことに。
 そんなとき、かつてソープ嬢として働いていたローザに出会う。ローザは実はアメリカの諜報員で、日夏の住所・経歴を調べてくれた。日夏の趣味はジョギング。道子は得意のマラソンでの復讐を誓った。


 なんなんだこれは……
 この「あらすじ」を読むだけで、好みがはっきり分かれそうな作品ではありますが、僕は「どんな映画なのか、一度観てみたい」と思いました。
 ちなみにこの『幻の湖』、1982年の公開時には5週間興行予定だったのが、あまりに不入りで2週間で打ち切りとなり、ビデオも発売されなかったのです。
 しかしながら、1990年代半ば頃から再評価されるようになり、この本が発売された時点では、「日本映画史上屈指のカルト映画」として、多くのファンに愛されているそうです。

 凄惨な事件を起こすきっかけになったものから、カルト映画、意外と(?)まともな観ておくべき作品まで。
「ワケあり」好きにはたまらない、映画紹介本だと思います。


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