- 作者:養老孟司,ユヴァル・ノア・ハラリ,福岡伸一,ブレイディ みかこ
- 発売日: 2020/08/11
- メディア: 新書
Kindle版もあります。
わりゆく世界を理解するために、
22人の論客が「知」の扉を開く!イアン・ブレマー、磯野真穂、伊藤隆敏
大澤真幸、荻上チキ、角幡唯介、鎌田 實
五味太郎、斎藤 環、坂本龍一、ジャレド・ダイアモンド
東畑開人、中島岳志、福岡伸一、藤原辰史
ブレイディみかこ、藻谷浩介、山本太郎、柚木麻子
ユヴァル・ノア・ハラリ、養老孟司、横尾忠則
(五十音順、敬称略)新型コロナウイルスは瞬く間に地球上に広まり、
多くの生命と日常を奪った。あちこちで分断と対立が生じ、先行きは不透明だ。
私たちはこの危機とどう向き合えばよいのか。各界で活躍する精鋭たちの知見を提示し、
アフターコロナの世界を問い、日本の未来を考える論考集。
第1章:人間とは 生命とは
第2章:歴史と国家
第3章:社会を問う
第4章:暮らしと文化という希望
最近出る新書は「新型コロナウイルス関連本」が多くて、正直、ちょっと食傷気味でもあるのです。いま、みんながいちばん興味を持っているというか、避けて通れない話題であるのは事実なのですが。
この「有識者がコロナ下、あるいはコロナ後の世界について語る」というのも、けっこういろんな出版社から出ていて、「これはもう読んだやつかなあ」なんて、確認しないと同じものを買ってしまいそうになります(Amazonでは「あなたはもうこれを買っています!っていうのが表示されるので非常に助かるのです)。
この本に収録されているのは、朝日新聞のニュースサイト『朝日新聞デジタル』で発表されたもので、読者からは「世界の有識者はどのように考えているのか」について、大きな反響があったそうです。
「三密を避ける」「人と人との接触を極力少なくする」「ステイホーム」など、さまざまな「自粛という名目での禁止事項」が強調される一方で、「われわれは、これからどうなるのか?」というビジョンは、なかなか見えてこないんですよね。
マスク生活に慣れてしまった人たちは、何を基準に「マスクを外す」ことを決めるのか?
もしかしたら、このまま「人と接触しない生活」のほうがストレスが少ないのではないか?
ウイルスが消滅したり、ワクチンが開発されたりすれば話は変わってくるのかもしれませんが。
この本で面白かったのは、新型コロナが世界で猛威をふるうなか、「探検」に出かけていて、ほとんど人に会うこともなかった探検家の角幡唯介さんにもコメントを求めていたことでした。
明日がどうなるかわからない、毎日が未知だ、と妻は言う。以前の世界なら日常とは未来を予期できる状態をいうはずだった。明日も明後日も、きっとこれまでと同じ日々が続くと期待できるからこそ、人は心安らかに暮らすことができる。逆にその予定調和的日常に飽き足りなさを覚えるから、私は非日常的な探検行を志向する。しかしいつの間にやら、この位相は逆転し、未来予測のできない時間を求めていた私がじつはコロナ以前の予定のまま旅に出発して、逆に日常に生きていた他のすべての人々が、今日の前で何が起きるかわからないという未知なる現実に直面している。
「あなたは今、世界で一番安全な場所にいる」とも妻は言った。もちろん白熊はうようよしているし、海水に穴があいているかもしれない。だが、あと何日北進して村にはこれこれの日に戻れるかな、といった予測を私はもつことができていた。この状態こそ彼女がいう「世界で一番安全な場所」の意味であり、それは紛れもなくコロナ以前の世界の本質だったのだ。
それでも54日間かけて1270キロほど犬橇で旅を続けた。カナダには入国できなかったものの、グリーンランド内で許される北限まで行き、5月11日に村に戻った。
そして当然のことながら、その間も私と私以外の世界の間の乖離は大きく広がっていた。
私が人間界を離れた54日間は、おそらく世界中がもっとも劇的に変貌した時期だったのだろうと推察するが、その間、何が起きたのか私はほとんど知らない。5日に1回、妻には電話連絡したが、バッテリー残量の問題で会話は必要最小限にとどめていた。村に戻ってからも、あまりの情報の多さに漁る気も起きず、結局、3週間たった今も、私はその間に世界がどうなったのか詳細を知らない。
情報源は相変わらず妻との電話のみだ。村に帰り、妻から日本の現状を聞いたときは、大きな衝撃を受けた。マスクをしなければ街中を歩けないとか、不要不急の用で公共交通機関に乗ると批判されるとか、初めて聞くことばかりで、自粛警察だの他県ナンバー狩りだおん、殺伐とした言葉を耳にするたび私は慄(おのの)いた。おのずと想像されたのは「感染すること/させること」が絶対悪とみなされ、それを破った者には容赦なきバッシングを浴びせ、排除する、恐るべきディストピア社会である。
新型コロナウイルスの蔓延についての経緯や報道での情報を知らない立場にいた角幡さんにとっては、新型コロナ下の世界は『恐るべきディストピア』に感じられたのです。
まあ、僕だって、2019年の年末に「来年の春にウイルスの流行で学校が軒並み休校になり、外出もなかなかできなくなるし、車で県外に移動すると猛烈に批判される」なんて言われたら、「それ、なんていうSF小説?」って笑ったはずです。
でも、ずっと日本で生活している僕にとっては、「異常事態ではあるけれども、ディストピアというよりは、やるべきことをやっていたら、いつのまにかこうなっていた」という感じなのです。
人は、そうやって「状況」を受け入れ、流されていくしかないのかもしれません。
しかし、人がほとんどいない極地のほうが「安全」というのは、南極にいた人たちだけが生き残る、という設定の小松左京さんの『復活の日』みたいな話ですよね。
『サピエンス全史』『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリさんのコメントには、さすがに世界の知性だなあ、と感じました。
──感染が一気に拡大したのはグローバル化の弊害だという指摘をどうみますか。
ユヴァル・ノア・ハラリ「感染症は、はるか昔から存在していました。中世にはペストが東アジアから欧州に広まった。グローバル化がなければ感染症は流行しないと考えるのは、間違いです。文化も街もない石器時代に戻るわけにはいきません」
「むしろ、グローバル化は感染症との闘いを助けるでしょう。感染症に対する最大の防御は孤立ではありません。必要なのは、国家間で感染拡大やワクチン開発についての信頼できる情報を共有することです」
「中国の湖北省武漢市では封鎖を解除し、人々が仕事に戻ろうとしています。今後数カ月のうちに各国が挑戦する課題です。中国人にはぜひ、湖北省であったことについて、信頼できる情報を提供して欲しい。その経験から、他の国々は学ぶことができます。これこそがグローバルに情報共有し、国同士が頼り合うということです」
──各国は国境を封鎖し、グローバル化に逆行しているようにも見えます。
「国境封鎖とグローバル化は矛盾しません。封鎖と同時に助け合うこともできます。願わくは、家族のようになれたらいい。私は自分の家にいて、2人の姉妹も母もそれぞれの家にいます。会わないけれども毎日電話し、危機が過ぎたら再会したいと願っています。国家間も同じだと思うのです。確かにいまは隔離が必要です。でも憎しみや非難の心ではなく、協力の心のもとで隔離するのです」
「グローバル化」という言葉の定義にも関わってくるのですが、第一次世界大戦の際に大流行したスペイン風邪も、結果的に世界中に広がっていったのです。
いまの世界で、国境を完全に封鎖してやっていける国は無いでしょうし。
ある意味、世界的な疫病に対する情報の共有という「グローバル化」が進んでいないことが、いまの世界の問題であるとも言えるのです。
ブレイディみかこさんの項では、こんな話が出てきます。
ロックダウンで休校になってから、息子の中学の先生たちから毎週のように電話がかかる。それぞれの教科の教員たちが定期的に保護者に連絡し、生徒たちのオンライン学習は順調か、何か問題はないかと確認しているのだ。
「先生たちこそ、オンライン授業は大変でしょう」
と言うと、ある数学の教員はこんなことを言った。
「興味深いこともあるんです。ふだんは質問なんかしてこなかった子たちがメールを送ってくる。成績も振るわず、授業に関心もなさそうだった子に限って『ここがわからない』と言って……」
「それは面白いですね」と答えると彼女は言った。
「ひょっとして、私はそういう子が質問できない雰囲気の授業をしていたのではと半生しました。今の状況はこれまで気づかなかったことを学ぶ機会になっています」
オンライン授業の準備、教員たちとのZoom会議、保護者たちへの定期的な電話など、休校でかえって仕事は増えたに違いないと思うが、教員たちはみな熱心だ。
新型コロナウイルスが、人類にとって「災厄」であることは間違いないでしょう。
しかしながら、そのなかで、今まで見えていなかったことに気づかされた、という人は、けっこう多いのかもしれません。
この先生は「自分の授業の雰囲気」を反省されていますが、同級生の目を気にしなくて良いので、「オンライン授業のほうが、先生に積極的に質問しやすい」と感じる生徒って、案外多いのではないか、と僕は思うのです。インターネット・ネイティブの世代には、オンライン授業向きの子どもが少なからずいそうな気がします。大人にも「テレワーク向きの人」もいるはずです。
新型コロナウイルスの蔓延がなければ、仕事や学校での「習慣」を劇的に変えるのは、かなり難しい、あるいは、すごく時間がかかりますよね。
長い目でみれば、人間が、この状況から学べることはたくさんあるのです。
健康や雇用、経済のことを考えると、明るい気持ちにはなれないのですが、この経験を活かすことが、人間の未来につながるのではないか、とも思います。
- 発売日: 2020/06/02
- メディア: Kindle版
- 作者:パオロ ジョルダーノ
- 発売日: 2020/04/24
- メディア: Kindle版