琥珀色の戯言

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【読書感想】リーマントラベラー 週末だけで世界一周 ☆☆☆


Kindle版もあります。

普通のサラリーマンでも、いますぐ人生は変えられる! 週末だけで世界一周を達成した「旅するサラリーマン」が綴った働き方、生き方の選択肢を広げてくれるエッセイ、新章を加えて文庫化。

働きながら、どこへでも行ける!

キューバの街中で見つけた一番の絶景、お洒落なジェントルマンを探しにコンゴ共和国へ、サウジアラビアSNSが大炎上!?
社会人3年目にひょんなことから旅に目覚め、週末と貯金を使い、3か月で5大陸18か国への世界一周を達成した「旅するサラリーマン」が旅を通じて自分らしい生き方、働き方を見つけていく“奇跡”の物語。


 僕自身は基本的にインドア派で、誰かに連れて行かれなければ、ずっと家にいてもいいや、という感じではあるのです。
 趣味も読書とかテレビゲームとか、インターネットとかだしなあ。

 それでも、出張などでビジネスホテルにひとりで泊まるのは好きだし、水族館や美術館や有野課長を見るために意を決して出かけてもいるのです。
 出不精ではあるけれど、一度外に出てしまうと、せっかくだから、と観光の予定を詰め込んでしまう。

 著者は、広告代理店での激務を平日にこなしながら、週末を中心に世界各地(本当に「世界中」なんですよ!)を旅しています。
 僕からみると、こんなに一生懸命旅していたら、旅行の疲れをとるための休みが必要ではないか、と思うくらいなのですが、バイタリティというのは、ある人にはあるのだなあ、と感心せずにはいられませんでした。
 
 そんな著者も、2010年に広告代理店に就職した時点では、自分がこんなに「旅好き」になるとは夢にも思わず、2年間、激務をこなし、社畜的な生活を送っていたそうです。
 それがあるきっかけてひとりでロサンゼルスに行かざるをえなくなったことがきっかけで、旅行にハマってしまったのだとか。

 今までの旅を思い返すと、僕の海外旅行は毎回行く国、行く都市が変わりますが、必ず行くところがありました。それは、現地の人が行くレストラン、現地の人が行く市場、現地の人が行くクラブ……。毎回、現地の人に世界共通言語であるボディランゲージで話しかけては、オススメを聞き出し、ガイドブックにも載っていないような場所を探して街中を旅していました。その場所に着くと、現地の人の暮らしや生き方に少しでも触れたいと思い、ボディランゲージでコミュニケーションをとって、まだまだ知らない世界と接点を持ちました。
 キューバの体験、そしてこれまでの旅の共通点を振り返っているうちに、ついに僕がここまでわざわざ海外旅行に行く理由に気がつくことができたのです。
 それは、日本で知ることのなかった「さまざまな生き方」を見に行くためだったのだと。
 僕が海外旅行で印象に残っている場所や場面は全て、僕が知らない生き方を教えてくれたところでした。僕はそれが見たくて、ここまでわざわざ海外旅行に行っていたのだと気がついたのです。


 著者は基本的に「人が好き、人の日常に興味がある」のだなあ、というのが、この本を読むと伝わってきます。
 僕は日本国内でも海外でも、知らない人と接するのが怖いしめんどくさい。
 話しかけてくる人には、警戒心をあらわにして、騙されないぞ!と身構えてしまうのです。
 僕なんかに用事や興味がある人は、悪い目的があるに違いない、と。

 実際は親切な人もたくさんいるし、知らない人や文化に接してみたい人も少なからずいるんですよね。
 僕は基本的に「人類全体の歴史」や「人類の遺構」に興味はあっても、旅先ではとくに、人間に対して好奇心よりも警戒心が先に立ってしまうのだよなあ。

 なんかすごい人、バイタリティに溢れた人って、いるんだな、と仰ぎ見る、そんな気持ちで読んでいました。

 僕自身が20代の頃(もう30年近く前になりますが)、職場の先輩たちは「俺が研修医の頃は、土日も毎日病棟で患者さんを診察していたし、夏休みや正月も休んだことはない」と若手に言っていました。
 先輩たちが若かった頃は、携帯電話(スマートフォン)もなく、病院を出たら連絡の手段がポケットベルしかない、という時代でもありましたし。
 そんな環境では、「休日に休む」ことすら、肩身が狭くもあったのです。
 あらためて考えてみると、僕自身は、「とりあえず休日も出てきて仕事をしているんだからそれで良いのだろう」と、漫然と休日出勤をして時間を過ごしていたような気がします。

 今の時代は、若手にはきちんと休みを取ってもらう、という方針になっていますが、だからといって、仕事のレベルが劣化した、というわけでもないですし(休日の当直者の負担は増したかもしれませんけど)。
 平日の勤務時間内には集中して仕事をし、ちゃんと成果をあげて、休日は好きなことをする。
 ちゃんと自分の仕事をきっちりこなして、同僚ともうまくやれていれば、誰がどのくらい休んだか、なんて、周りは全然覚えていないのです。本人が気にしすぎているだけで。

 本当に自分がやりたいこと、やるべきことを、最低限のルール(あるいは契約)の範囲内でやっている人に、世界(というか現在の日本)は、けっこう寛容なのです。
 「仕事があるから」「お金がないから」「他の人に迷惑をかけるかもしれないから」
 そんな「理由」ばかりを思いついて、「こういう人は『自由』でいいなあ」と羨むばかりの人生は、もったいない。

 僕は世の中に「働き方改革」の波が起こるずっと前の2012年から、自分の働き方を変えて、「自分らしい生き方(=リーマントラベラー)」を見つけました。
 このときに痛感したのは、働き方を自主的に変えるむずかしさ。サラリーマンというのは、自分一人の意思で決められることがあまりにも少なすぎるからです。
 しかし、サラリーマンでも簡単に変えられることが一つだけあります。
 それは、「休み方」を変えること。休日の過ごし方は自主的に変えることができます。休み方が変われば、おのずと「働き方」も変わります。そして、働き方が変われば、「生き方」だって変えることができるのです。


 なんだか、故・野村克也監督の言葉として知られている。

 習慣が変われば人格が変わる。 人格が変われば、運命が変わる。 運命が変われば、人生が変わる。

 というのを思い出してしまいました。

 たしかに、仕事をしていると、自分で自由にできることは少ないかもしれないけれど、「どう休みの時間を過ごすか」は変えることができますよね。
 というか、「休むかどうか」も、ふだんちゃんと仕事をしていて、「休みます!」と宣言する勇気があれば、今の時代は決めることができる人が多いはずです。
 
 僕が50年以上生きてきて痛感しているのは、結局のところ、人というのは、自分がやりたいことをやっている、ということで、著者は「海外旅行にどうしても行きたいし、その情報を発信したいから、弾丸ツアーでも海外に行っている」し、僕は「家でゴロゴロしていたいから、家にいるべき理由を探している」のです。

「何もしない」のは「できない」のではなく「やらない」を「できない」に変換しているだけなのかもしれません。


 著者は、コロナ禍で旅行ができなかった時期を振り返って、こう書いています。

 あともう一つ、その旅ができない間に実感したことが。それは、結局のところ、僕がリーマントラベラーとして旅を続けられるのは、やっぱり「リーマン」であるからだな、と。今も変わらずサラリーマンだからこそ、銀行口座には毎月必ず”お給料”という名の旅の資金が入ってきて、SNSなどで発信すれば共感してくれる仲間がたくさんいる。僕の大好きな旅に限って言えば、会社を辞めずに南米もアフリカも北極圏も行けたのだから、有給なども駆使すればサラリーマンだから行けない場所というのは、この世界に、きっとありません。


 選ぶものが「旅」であるかどうかはさておき、人生って、自分で思い込んでいるよりもずっと「自分で変えることができる」のです。
 僕自身の後悔と諦めとともに、読んでいる人に、これは伝えておきたい。


fujipon.hatenablog.com
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