
かつて世界にその名をとどろかせた伝説的なカリスマF1(R)ドライバーのソニーは、最下位に沈むF1(R)チーム「エイペックス」の代表であり、かつてのチームメイトでもあるルーベンの誘いを受け、現役復帰を果たす。常識破りなソニーの振る舞いに、チームメイトである新人ドライバーのジョシュアやチームメンバーは困惑し、たびたび衝突を繰り返すが、次第にソニーの圧倒的な才能と実力に導かれていく。ソニーはチームとともに過酷な試練を乗り越え、並み居る強敵を相手に命懸けで頂点を目指していく。
2025年映画館での鑑賞11作目。IMAXで鑑賞。平日の夕方からの回でした。観客は80人くらい。
予想よりけっこうにぎわっていました。
僕が大学に入った頃、1990年頃は、日本ではF1ブームの最盛期で、『週刊少年ジャンプ』がF1の常勝チームだったマクラーレン・ホンダのチームスポンサーになっていました。
『ジャングルの王者ターちゃん』というマンガのなかで、「ものすごく目がいい」という設定の登場人物が、マシンにものすごく小さく掲げられていた『ジャンプ』のロゴを見つける、というギャグがあったのを今でも思い出します。
テレビゲームでもPCエンジンの『F1サーカス』とか、メガドライブの『スーパーモナコGP』はかなりやりこみましたし、それ以前にも、ファミコンの『F1レース』とか『ファミリーサーキット』も人気がありました。
アイルトン・セナ、アラン・プロスト、ナイジェル・マンセル……「雨の中嶋」に「納豆走法」……
大学の試験前夜のモナコグランプリで、マンセルとセナがデッドヒートを繰り広げているのを試験勉強そっちのけで観ていたのを思い出します。まあ、「勉強したくなかった」だけかもしれませんが。
アイルトン・セナの事故死を契機に、僕は少しずつF1と疎遠になり、世間のF1熱が冷め、地上波放送がほとんどなくなったこともあって、F1と疎遠になっていったのです。
近年は、角田裕毅選手の活躍(と苦難)、そして、CSでF1を観ることができる環境になったこともあって、僕はまたF1をけっこう観るようになりました。
アメリカでは、いま、F1ブームだそうで、一時は「速く走るために環境にやさしくないマシンを開発し、タバコ産業とも密接な関係がある」などとバッシングされていたF1が、「究極のモータースポーツ」として盛り上がっています。
そんな、アメリカでのF1ブームを背景に、大ヒットした『トップガン・マーヴェリック』の制作チームが再集結してつくられた、この映画『F1 エフワン』、かなり評判はよかったのですが、せっかくだからIMAXで観ようと思っているうちに、けっこう公開から時間が経ってしまいました。
F1というモータースポーツ、かつ巨大エンターテインメント産業を40年近くみてきた僕のこの映画への率直な感想は「この制作チームの『おっさんキラー』っぷりはすごいな、おっさんが見たいものを知り尽くしているッ!」と「これは良い『大人のおとぎ話』だな」というものでした。
IMAXで観たこともあり、とくにレースシーンは、「これ、どうやって撮ったんだろう? CG? それにしてもすごい迫力!」とワクワクさせられました。
これまであまりF1と接点がなかった僕の長男も「上映時間を短く感じた」「あまり興味なかったけど、F1を生で観戦してみたくなった」と大絶賛。
この映画、ブラッド・ピットのカッコよさ、「努力・友情・勝利(?)」と、いにしえの『週刊少年ジャンプ』のマンガのような王道のストーリー展開+ところどころにおっさん心をくすぐるスパイスが効いていて、『トップガン・マーヴェリック』を思い出します。
「俺も人生に疲れているけれど、まだ、もうひと頑張りしてみようかな」と、シアターを出るとき、少し元気が出ていました。
「昔からF1を観てきた人間としてのこだわり」的には、「テレビゲームじゃあるまいし、そんなに簡単に他の車を抜けるわけないだろ」とか、「F1でのトップチームと中堅、下位チームの力の差が、短期間にちょっとしたパーツの変更で埋まるんだったら苦労しないだろ」とか、ツッコミたくなってしまうんですよ。
現在(2025年7月)のレッドブルのように、「短期間に急激に弱くなってしまう」ことはあっても、「シーズン中のドライバー変更やマシンの改良で劇的に速くなる」ことは、まずありえない世界です。
アイルトン・セナやミハエル・シューマッハ、マックス・フェルスタッペンのように「彗星のようにあらわれて、すごい結果を出すドライバー」も、10年にひとりくらいはいるんですけどね。ただ、彼らは早々に速いクルマがあるチームに移籍しています。
F1って、基本的に「上手いドライバーが、より良いマシンを選びやすい」状況になる世界なので、「鬼に金棒」「雑魚につまようじ」みたいな、新自由主義的な格差社会になりやすい。
そもそも、30年のブランクがあるドライバーが、いくら「天才的」であっても、現代のF1レースでいきなり通用するとは思えません。映画のなかでも、テクノロジーの結晶のような、速く走るためのシステムが出てくるのですが、現代のF1って、「天才ゲーマー+超強靭なアスリート」たちがしのぎを削っているのです。
ただ、この映画『F1』は、圧倒的な迫力のレースシーンとともに、「実際はありえないとは思うけれど、もしかしたらこんな世界線もありえるのではないかと感じる、ギリギリのリアリティ」を保っているんですよね。
ソニーは破天荒な人間のように見えるけれど、身体のコンディションを維持するためにストイックな姿勢を崩さないし、チームに対しても、「人を説得するスキル+モチベーションが高まる実績」を駆使していきます。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という山本五十六さんの有名な言葉があるのですが、ソニーはまさにこれを実行しているのです。
「F1はこんなに簡単なものじゃない」とは思いつつも、F1界の全面的な協力を得てつくられた「おっさんホイホイのおとぎ話」に僕は魅了されてしまいました。
現実のF1が甘くないからこそ、こんな「『週刊少年ジャンプ』の昔のマンガみたいなF1映画」は、すごく楽しいし、僕のようなオールドF1ファンを元気づけてくれるのです。
F1の予備知識がほとんどない僕の長男もけっこう楽しんでいたみたいですよ。
できれば、IMAXで観てほしい。
角田選手が、映画のなかでも事故にあったドライバーのひとりだったのは、「映画でもこういう扱い、というか、悲しいがリアル志向なんだな……」と。
登場するドライバーも主人公のチーム以外はみんな実名なんですよ。ルイス・ハミルトン選手もこの映画のプロデューサーとして参加しています。
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