琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声- ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

貧困問題に鋭く切り込み、ネットで大論争を巻き起こした週刊SPA!「年収100万円」シリーズがついに書籍化!
ランクルームに住む「ワーキングプア」、劣悪環境で暮らす「ネットカフェ難民」、母の遺骨と暮らす「車中泊者」、田舎暮らしで失敗した「転職漂流者」、マスク転売をする「新型コロナで失職した男」……etc。

憧れを抱き上京したはずの東京で、絶望しながらも、年収100万円前後で必死に生きる16人の叫びを収録したノンフィクション。

各章の考察コラムには、自身も貧困出身である新進気鋭のジャーナリスト・吉川ばんび氏が担当。

誰もが転落する可能性がある現代社
それでもあなたは「自己責任」と切り捨てますか!?


 年収100万円で生活するの? しかも、東京で?
 僕自身は東京で暮らしたことは一度もないのですが、この本のタイトルをみて、そう思いました。
 家賃も物価も高そうな東京で、どうやってこの人たちは生きているのだろうか?

 この新書、『週刊SPA!』の「年収100万円」シリーズでとりあげられた16人分に、自らも貧困家庭の出身である吉川ばんびさんの解説が収録されています。
 そういえば、最初に出てくる「トランクルームで生活している人」の話は、どこかで読んだ記憶があるのです。


 トランクルームで生活しているという44歳の男性は、地元でフリーター生活をしていたのですが、両親に「フリーターなんて無職と同じ」と口うるさく言われ、「自由」を求めて東京に出てきたそうです。東京で役者として舞台にのめりこんでいったのですが、気づけば30代。周りの同じような境遇だった仲間は就職、結婚していったのですが、なかなか踏ん切りがつかなかったこの男性は、派遣切りで仕事を失ってしまいます。景気が良いときには仲良くしていた派遣先の社長も、派遣切りのときには「おまえは役者の仕事を優先していただろう?」と冷たかったのだとか。
 仕事を失ったことによって、アパートの家賃が払えなくなり、急場をしのぐため、月1万5000円のトランクルームに荷物を置き、役者仲間の家を転々としていたのですが、頼れる先がなくなっていき、実家からも「戻ってくるな」と言われ、トランクルームに住むことになったのです。

 そしてネットカフェから、現在のトランクルームに至る。一時凌ぎのはずだったが、もう住んで2年もたつという。
「本来は住んではいけない場所なので、住環境は最悪です。冬は寝袋にカイロを貼り付け、靴下3枚ばきが基本です。夏はスーパーでもらえる保冷剤を枕元に置かないと暑くて眠れませんでした。冷却ジェルシートも欠かせません。小型扇風機でもあれば完璧なのですが、機械音で住んでいるのがバレそうなので使えません」
 髭剃り痕に赤い吹き出物の目立つ青白い顔をなでながら、落合さんがヒソヒソと話す。もちろん、24時間。昼は図書館役所などの無料施設、夜は日雇い仕事にでかけ、極力トランクルームにはいないよう心がけていると話す。それでも仕事がなく行くあてがない夜は、ここで過ごすしかない。
「カードキーには『入退室』の施錠記録が残るから、ドアの入り口に割り箸を挟んで出入りをこまかしています。最初こそバレるかもと怯えていましたが、運営会社の管理が杜撰なので、なんとか住めています。清掃業者は週に一度しか来ないので、その時間帯は居るのを避けています。ただ困るのはトイレですね。大きいほうは近くのコンビニを借りなければならないので、かなり気を使います」
 いつも空腹なのだろう、差し入れに持参したコンビニのサンドイッチを差し出すと、器用に音を立てずに包装を開け、ペロリと平らげた。ツンと鼻をつく臭いが漂うのであたりを見回すと、尿の入ったペットボトルが転がっていた。

 
 ちなみに、「このトランクルームには、ほかにも住んでいる人がいる」そうです。
 こんな生活をしていても、「生活保護を受けるのは後ろめたい。日雇いだがまだ働けるし、自分より辛い人は、まだ世の中にいっぱいいるはず」と、頑なに生活保護を拒絶しているというのを読むと、「一時的にでも生活保護を受けて住環境を立て直してから、仕事を探して自立したほうが早いのではないか」とも思うんですよね。
 
 日本では、仕事を探そうにも定住している「住所」がないと難しいし、仕事や保証人がないと住む場所を借りるのも難しい、という負の無限ループも起こりがちなのです。


 この本では、「年収100万円生活」としている、さまざまな人が紹介されています。
 この44歳の男性の半生などは、東京に出てきて夢を追いかけていたら、いつの間にかトランクルームで暮らすしかなくなっていた、という誰にでも起こりうる話ではありますよね。
 でも、「売れてもいなかったのに、役者に見切りをつけられなかった自己責任だろう」とか、「派遣先でもう少しうまくやっておけばよかったのに」とも言えなくはない。
 僕は、こういう人は、夢破れたあとでも普通に食べていけるくらいの社会であってほしいと思うのです。
 この本を読むと、「転落」してしまう人の多くは、就職先がブラック企業で心を病んでしまったり、社内でのイジメにあったりしています。
 みんなブラック企業でつらい仕事をしているのだから、社員同士は協力しあえばいい、と思うのですが、職場環境が厳しくなればなるほど、気持ちに余裕がなくなるためか、人間関係もギスギスしてくるのです。


 吉川ばんびさんは、こう書いておられます。

 私自身もいくつかの会社を渡り歩いた経験があり、息をつく暇もないほどの忙しさに追われていたり、サービス残業が横行していたりなど、社員の不満度が高い職場には必ずと言っていいほどに、「大人のいじめ」が存在した。
 ターゲットにされやすかったのは、仕事のミスが多い、人よりも仕事を覚えるのに時間がかかるなど「仕事ができない」とレッテルを貼られた人たち。社員の間で一度そういったイメージが植えつけられてしまうと、ほとんど挽回のチャンスは訪れない。 いじめられている彼ら、彼女らはいつも何かと理由をつけられて、社員たちのストレスのはけ口にされていた。ほかの誰かなら見過ごされるような小さなミスであっても「あいつがやらかした」と大騒ぎされ、怒鳴られ、執拗に責め立てられる。
 そんな噂が社内に広がっていくと、次第に「あの人は仕事ができなくて嫌われているから、きつい態度で当たってもいい」といった空気ができあがる。同僚、後輩たちでさえも、彼ら、彼女らに理不尽な態度を取ったりバカにしたりするようになっていく。社員たちには「ミスの再発を防ぐために指導する」といった目的意識はまるでなく、ただただ怒りや苛立ちをぶつけているだけだ。それがかえって相手を委縮させることになり、さらなるミスを誘発させる。
 いじめのターゲットにされた人たちは、周りから少しずつ仕事や居場所を奪われていく。「ミスをされたら困る」といった理由で本来の業務には関わらせてもらえず、物を運ぶだけの仕事や雑用だけを押し付けられる人や、窓際に追いやられた末に社長から「自分で辞めるか、辞めさせられるかを選べ」と詰め寄られ、妻と幼い子がいるにもかかわらず職を失ってしまった人も、私は知っている。


 あまりにもひどい職場環境であれば、みんなが辞めてしまえば良さそうなものなのですが、ギリギリの状態の場合、その集団のなかでの弱者をターゲットにすることで、それ以外の人間がまとまり、「あいつよりはマシだ」みたいな思考に陥ってしまうことが多いのです。
 
 そして、今の日本では、一度会社をやめてしまうと、とくに中高年では、次の職を探すことが難しい。結局、さらにひどい環境の職場を選ぶしかなくて、またそこでイジメにあう、そして心を病んで働けなくなっていきます。


 ただ、この本を読んでいると、マッチ売りの少女のような、誰がみても同情してしまうような100万円生活者というのは、ほとんど出てこないんですよ。
 もしかしたら、何かがきっかけで、自分もこうなるかもしれない、と思いつつも、「さすがにこれは、社会というより、この人自身に問題が大きいのではなかろうか……」と言いたくなる人も少なからず採りあげられています。

 ここ5年間で4回の接触事故を起こし、スピード違反で8万円の罰金を払ったばかりという56歳の配達ドライバーは、「あおり運転」を繰り返しているのです。

 50歳を目前にして何度目かの退院後、久しぶりの職場で「ヒモの旦那」という陰口を聞いてしまった。そんな日に限って、空は青く澄み渡っている。見通しのいい交差点で、対向車と林さんが接触事故を起こしたのは、その1時間後のことだった。
「前の軽自動車が車線変更を繰り返しながら走っていて、イラついていたのは確かです。しかも、運転していたのは女を連れた若い兄ちゃん。調子に乗って運転しているとわかり、右折時に追い詰めたら対向車と事故ってしまったんですよ」
 運よく大事故に至らなかったとはいえ、林さんはこの事故以降、怒りに身を任せると破壊的な行動をとってしまうようになる。妻から精神科に行くことを勧められ、医師からは「冷静さを取り戻すための習慣を見つけるべき」とアドバイスを受けるも、本人には感情に振り回されているという自覚がない。この頃から、粗暴な運転を周囲から指摘されるようになったという。
「危ないことなんかしていないのに、運転中に助手席の妻が『危ない!』と叫ぶんです。アイツはわかっていないんですよ。俺は邪魔するやつに注意してやってるだけ」
 55歳を過ぎ、妻のおかげで住宅ローンも完済した。林さんは自分の給与をそのまま小遣いとして使える生活を送っており、何ら問題ないように見える。しかし、不本意ながら主夫めいた生活を送る林さんのプライドは、傷ついていた。
「ストレス発散のため、ずっと狙っていたSUVを買いました。といっても、名義は妻ですが。それでも、ハンドルを握っている間はすべて自分でコントロールできる。これが唯一の癒やしです」
 馬力の高い新車を手に入れた林さんは、運転技術で圧倒的優位に立てる道路の上で傍若無人な態度をとり続ける。相手が弱いとみるや威圧的な態度をとる林さんだが、高級車や黒塗りの車にはおとなしく道を譲り、決してちょっかいを出さないという。


 肝臓がんを患っていたり、仕事ができる妻がどんどん出世していき、プライドが傷つけられていたり、という「事情」はあるにせよ、「こんな奴が運転する車を公道で走らせるなよ……」と僕は憤らずにいられませんでした。車に乗ると人格が変わって、粗暴な運転をする人というのはいますけど、これはあまりにもひどすぎる。
 認知症とか肝臓病の影響の可能性はありますが、だからといって、こういう人が道路を走っていると思うと怖い。
 まあ、「年収100万円」とか「貧困」とは関係ないかもしれないけれど……


 読んでいると、つい、「この人はかわいそう」「これはさすがに『自己責任』が大きいんじゃないか?」と、貧困者を「選別」してしまう自分に気が付いてしまうのです。
 「かわいそうな人」だから救われる、という基準にしたら「助ける側の都合」が優先されてしまう、と普段は意識しているはずなのに、この「あおり運転男」みたいな事例を目の当たりにすると、「こんな奴は助ける必要ない。というか、さっさと免許を取り上げてくれ……」と言いたくなります。

 ものすごく後味が悪い本なんですよ。
 でも、自分の「本心」の一端に気づかされる、そんな本でもあるのです。


年収100万円の豊かな節約生活術

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おっさんは二度死ぬ (SPA!BOOKS)

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  • 作者:pato
  • 発売日: 2019/06/29
  • メディア: Kindle

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