琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】もっと試験に出る哲学: 「入試問題」で東洋思想に入門する ☆☆☆☆

ブッダから孔子老荘道元から西田幾多郎まで。入試問題を導きに基本を明快に説く!


センター試験「倫理」の厳選26問を導入に、インド・中国・日本をまたぐ東洋思想の流れをわかりやすく説く。本書が扱うのは、孔子から老荘孟子朱子学まで。最澄空海法然道元まで。本居宣長から石田梅岩吉田松陰まで。そして福沢諭吉漱石西田幾多郎までを網羅! 重要な思想家を扱った問題にチャレンジし、明快な解説とイラストを楽しむうちに、思想のポイントが東洋でどう受け継がれていったかというダイナミックな流れが理解でき、基本知識が確実に身につく。学生のみならずビジネスパーソンの学び直しに最適。西洋思想史を扱った『試験に出る哲学』(2018年刊行)とあわせて読みたい一冊。


 「倫理」のセンター試験で出題された問題から「哲学」の要点を学ぶシリーズの第二弾・東洋思想編です。

 僕は前作も読んだのですが、「センター試験の『倫理』ってこんなに難しい問題が出るのか……」と驚きました。


fujipon.hatenadiary.com


 そして、試験問題が紹介されていることによって、受験生時代からは30年くらい経っている僕も、クイズ的な興味というか、「なんとか正解したい!」と、けっこう集中して読めるんですよね。
 同じ内容が、「入試問題」なしで書かれていたとしたら、ちょっと読むのがキツイのではなかろうか。範囲が広いし、内容も、けっして簡単ではないから。

 センター試験の「倫理」には、時折、ドキッとするような問題文が登場します。たとえば、2019年のセンター倫理第4問の問題文はこう始まります。

 ある日突然、恋に落ちた。まるで運命としか思えないその出来事を、どう考えればいいのか。運命の捉え方次第で、私たちの生き方も大きく変わる。運命についての考え方を、西洋近現代思想のうちにたどってみよう。(2019年センター本試験・第4問)


 志望大学の合否がかかった大事な試験の問題文。その出だしが「ある日突然、恋に落ちた」です。一瞬、たじろいだ受験生もいたかもしれません。が、それ以上に「なんとしても問題文を読ませたい」という問題作成者の執念めいたものが、ここからは伝わってきます。


 センター試験がはじまった頃に受験した僕としては、まさに隔世の感があるわけですが、緊張しているときに、いきなりこんな問題に出会った受験生は、面食らっただろうなあ。
 
 自分自身が試験問題を作る側になってみてわかったのは、出題側は、受験者を落とそうというわけではなくて、いちばん大事なことを勉強して、知っておいてほしい、と本気で思っているのです。
 そして、ちゃんと勉強して、がんばった人が、報われてほしい、とも。

 著者は「はじめに」で、「東洋思想」というのが一冊にまとめられていて、2~3時間で概観できるような本というのはほとんどない、と書いておられます。
 この本に関しても、駆け足であることは否めないし、けっこう難しい(とくに仏教の思想は、難解だと感じました)。
 受験参考書にはならないけれど、僕のような「哲学というものが、どのくらい自分の中に入っているのか確認したい」という大人には、「学びなおす、あるいは、ちょっと知ったかぶりをするきっかけ」にできると思います。

 次に引用するセンター試験の問題は、ブッダに始まる仏教の最も基本的な考えかたを問うものです。本節ではこの問題を導きに、ブッダの思想を見ていくことにしましょう。

【問2】仏教の開祖ブッダ(ゴータマ)は、人生に不可避の苦として生老病死を挙げ、これらを苦にとするあり方を離れることの重要さを説いている。この背景にある仏教の考え方の記述として最も適当なものを、次の(1)~(4)のうちから一つ選べ。


(1)苦の原因は、自分が何であるか知らないという点にあるが、自分といわれるものの本質は、この世界のものを存在させる原因や条件の相対的あり方を超越したものであると認識されなければならない。


(2)苦の原因は、自分が何であるか知らないという点にあるが、すべて存在するものは原因や条件に依存する相対的なものであり、自分といわれるものも変化する相対的なものであると認識されなければならない。


(3)苦の原因は、自分でないものを自分と思うところにあるが、自分といわれるものは、自他の区別を可能にする原因や条件の背後にある根源的なものであると認識されなけばならない。


(4)苦の原因は、自分でないものを自分と思うところにあるが、我々の本質をなす自分といわれるものは、存在するともしないとも言えない不可知的なものであると認識されなければならない。


       (1999年・センター本試験 第1問・問3)


 これ、この本に収録されている問題のなかでは、まだ、わかりやすいほうなんですよ。
 読みやすい新書で、なるべく簡単に書かれてはいるのですが、それでも、哲学というのは、考え始めるとキリがない。
 そもそも、著者の解説が100%正しい、とも言いきれない。
 センター試験の問題の「正解」はあるとしても、人生がかかった入試で、こんな問題に立ち向かっていくと、頭がこんがらがってしまいそうです。
 受験対策としての「勘どころ」みたいなのはあるのでしょうけど、僕は世界史選択で良かったなあ、と思わずにはいられませんでした。

【問25】次のア~ウのうち、西田幾多郎の説く純粋経験に当てはまる事例として適切なものはどれか。その組み合わせとして最も適当なものを、(1)~(7)のうちから一つ選べ。


ア.Aさんは、合唱をしているうちに、自分の歌声の音程がずれていることに気づき、隣りの人の声に合わせながら歌った。


イ.Bさんは、鏡を見ながら自画像を描いているうちに、自分の姿を描いていることも忘れて、筆を動かし続けた。


ウ.Cさんは、幼少期のアルバムを眺めているうちに、今はもう忘れているが、自分にもこういう無垢なころがあったのだと思い至った。


(1)ア (2)イ (3)ウ (4)アとイ (5)アとウ (6)イとウ (7)アとイとウ

       (2016年・センター本試験 第3問・問8)


 西田幾多郎純粋経験!『善の研究』!
 僕も何度か読んでみようと思ったし、実際に読んでもみたのですが、内容は理解できないまま文字を最後まで追って、読んだことにした、というのが正直なところです。
 ブラフマンアートマンも、大学の講義で習った記憶はあるのだけれど、「ブラフマンアートマンアートマンブラフマンである」って、難しいよね……

 ただ、テストで点を取る必要がない立場になってみれば、「哲学」っていうのはけっこう面白いというか、なんでもわかりやすくなってしまった世の中で、自分に理解するのが難しいものに触れるのはワクワクする、のです。なんとなく。

 

哲学入門 (ちくま新書)

哲学入門 (ちくま新書)

アクセスカウンター