琥珀色の戯言

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【読書感想】キレる! ☆☆☆


Kindle版もあります。

キレる!(小学館新書)

キレる!(小学館新書)

内容(「BOOK」データベースより)
本書では、“キレる”という感情について、「なくすべきもの」とネガティブに捉えず、脳科学的に分析しながら具体的な対処法・活用法を考察する。ここ最近、あおり運転、児童虐待など、怒りを抑えきれずに社会的な事件につながるケースが数多く起こっている。そこで、「“キレる”という感情は、人間にはそもそも備わっているもの」という視点に立ちつつ、怒りの正体を解明しながら、“キレる人”や“キレる自分”に振り回されずに怒りの感情を活用して、上手に生きていく方法を探る。


 僕は40代後半なのですが、人間というのは年を重ねると、我慢がきかなくなるというか、毎日がキレやすい自分との闘いだなあ、と痛感しています。
 もっと心穏やかに生きていたい、と思うのだけれども、それを実践するのは本当に難しいのです。

 傍から「キレる人」をみていると、なんだかみっともないし、僕自身も大声で怒鳴られたり罵詈雑言を浴びせられたりするのは大嫌いなので(好きな人もいないでしょうけど)、イライラしている自分を見せたくはない。
 ただ、仕事をしていると、常に「いいひと」であろうとすると、給料は同じなのに、仕事がどんどん増えて追い詰められていくのも事実なんですよね。
 「あの人はキレると怖いから、お願いしにくい」と思われているほうが、結果的にラクができるような気がします。

 この本で著者が前提にしているのは「キレる」と言うのは、必ずしも「悪」ではない、ということなんですよ。
 世界が聖人君子で満ち溢れているなかで、ひとりキレるのは迷惑だろうけど、それぞれが「自分の利益」をめぐって駆け引きをしていくなかでは、「戦略的にキレる」のも有りなのです。

 どうすれば、相手の怒りや感情的な言動に振り回されることなく、上手に自分の怒りの気持ちを発散させるような切り返し方ができるのでしょうか。

 これらにはテクニックと経験が必要です。
 しかし、テクニックと経験が必要だとすら思っていない人が多いのではないでしょうか。
 何も言わず我慢して、丸く収めるのが最善の策だと考えている人が多すぎると思うのです。

 世の中には、我慢するという人の善意を利用して、相手を支配しようとする人がいます。そういう人は、相手が我慢すればするほど、その人からいろいろなものを搾取しようとするのです。

 やり方は人それぞれだとしても、相手の身勝手な怒りや不条理な言動には、上手にキレて、抵抗する必要があるのです。

 実は私もキレて抵抗することが苦手です。
 ですから、この本を通して、どうキレて、どのように抵抗すると、相手と良好な関係を保ちながら、自分を大事にすることができるのか、考察していきたいと思っています。


 この本を読んでいて感じるのは、僕にマツコ・デラックスさんや有吉弘行さんみたいに「程よく、タイミングよくキレる」ことや「ユーモアで切り返す」みたいな芸当は無理だよなあ、ということなんですよ。
 最初から無理、って言っていては始まらないのかもしれないけれども、それをうまくやるには、ある種の「才能」が必要なのだと思います。
 ある程度は、トレーニングや意識付けで可能なのだとしても、著者も言っているように「距離を置ける相手であれば、近づかないようにする」ほうが多くの人にとっては現実的でしょう。


 著者は、悪質なあおり運転についても、脳科学的に考察しています。

 実は高級車に乗ったときほど、テストステロン値が上がることが観測されています。
 実験ではフェラーリカローラを比べています。
 カローラではそれほどテストステロンは増えないのですが、フェラーリではテストステロン値が高くなりました。そして、街乗り用の小さな車をガンガンあおりまくったのです。
 これは高級車だけでなく、トラックなど大きい車に乗ったときにも同様にテストステロンが増えることが考えられます。
 原因として挙げられるのが、高級車は自分のほうが優位だと思いやすい車だからです。より”俺のほうが強い”という意識から、テストステロンが増えていくのです。


(中略)


 あおられるだけでなく、相手が車から降りてきて、車をバンバン叩いて「車から降りろ」などと怒りをあらわにするような状態は、ドーパミンが放出されている状態なので、何を言っても聞く耳を持ちません。
 理性の利かない”キレている猿”の状態です。こういう状態の人からは逃げるのが一番大事です。一刻も早く警察を呼んで解決はプロに任せましょう。
「話せばなんとかなるのではないか」などとは考えてはいけません。確かに普段は話をすればわかるようないい人なのかもしれませんが、怒っている瞬間は”本当にいい人”ではありません。その人から永久に逃げるか、いったん逃げるのかはさておき、怒っている状態のときは話し合いを回避したほうがよいのです。


 「いいひと」「理性的なひと」って、他者に対しても「話せばわかる」って思いがちなんですよね。
 でも、世の中には「話してもわからない人」や「話しても通じないタイミング」というのがあるのです。

 村上春樹さんが、「夫婦喧嘩で仲直りするコツは?」という質問に対して、「あなたが平謝りに謝るしかない」と答えておられたのを思い出しました。

(『村上さんのところ』(村上春樹著/新潮社)より)


あのですね、こちらに向かって驀進(ばくしん)してくる機関車に向かって怒鳴ったりはしませんよね。それとだいたい同じことだと思われたらいかがでしょう? 無駄なエネルギーは使わないようにして、身の危険は素早く避ける、これしかありません。人生の知恵です。がんばって平謝りしてください。


 僕はこれをニヤニヤしながら読んでいたのですが、今は「これこそ偉大なる先人のサバイバル術なのだ」と確信しています。


 キレている人の「キレのピーク」は脳科学的にもそんなに長くは続かないみたいですし。

 日本では、もめ事を起こした人をそれだけで「ダメな人だ」と思ってしまう風潮があります。子どものころから、「周りに迷惑をかけてはいけない」「事を荒立てるのはよくない」「世間を騒がせるのはダメ」「波風を立てない」「喧嘩はいけない」と教えられて育つからかもしれません。
 もめ事を起こすのは、問題意識があり、主張できる自立した人だから、という側面はあまり評価してもらえません。
 まず自分の意見を言うことは、もめ事ではありません。もしもめたときには議論していけばよいはずなのですが、なぜかやっかいな人と思われてしまいがちな不思議の国に私たちは住んでいます。そうならずに切り返すための技術を身につけたいものです。
「自分さえ我慢しておけば」と思うほうが一時的には楽なのかもしれませんが、言いたいことを言わないでいると、不満が蓄積して大きくなり、怒りになります。それが爆発したときには”もめ事”どころではなく事件に発展して、自分自身を大きく傷つけることにもなります。
 自分の不利益が見えてきたら、テクニカルに切り返すべきです。さもないと、相手は搾取してもよいターゲットとして見て、さらに攻撃をエスカレートさせてきます。
 さらに”攻める快楽”ということもあります。「あいつには何を言ってもいいんだ」と思い、”モラハラという快楽”を搾取する上司や夫、あるいは妻です。これはドーパミンの分泌によるものです。「何を言ってもいいんだ」と思わせないため、キレて、きちんと言い返す必要があります。
 よく観察してみると、会社でも一目おかれている人は、上手に言い返しているのではないでしょうか。
 どこでどう返していいのかわからず、ストレスを抱えて自宅に戻ったときに家族にキレるのは論外でしょう。戦略的にキレるとは、その対象を正しく選ばなければなりません。
 適切な場所で、適切な相手に、適切にキレることです。


 大事なのは、TPOをわきまえてキレる、ということなんですね!
 ……って、それはもう、僕が悩んでいる「キレる」とは別物なのでは……
 とりあえず、「キレる」ことそのものが「悪」ではない、だからこそ、そのコントロールしがたいものをうまく手なずける練習をしたほうがいいですよ、ということみたいです。


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