- 作者: 二宮敦人
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2019/04/11
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 二宮敦人
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2019/04/10
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内容紹介
「リーマン予想」「ホッジ予想」……。前世紀から長年解かれていない問題を解くことに、人生を賭ける人たちがいる。そして、何年も解けない問題を"作る"ことに夢中になる人たちがいる。そして、数式が"文章"のように見える人たちがいる。数学者だ。「紙とペンさえあれば、何時間でも数式を書いて過ごせる」
「楽しみは、“写経"のかわりに『写数式』」
「数学を知ることは人生を知ること」
「問題と一緒に“暮らす"ことから始まる」
「味噌汁も数学のテーマになる」
「芸術に近いかもしれない」
「数学は、宇宙がなくなっても残るもの」
「数式は、世界共通の言語」
「歩く姿を後ろから見ても、数学者だとわかる」
「心は数学だ」
「エレガントな解答を求められる」
「人工知能に数学はできない」
「音楽と数学はつながっている」
「数学を絵にしてみた」
「今の数学は冬景色だ」
「中学生のときに、数学に情緒があると知った」類まれなる優秀な頭脳を持ちながら、時にへんてこ、時に哲学的、時に甘美な名言を次々に繰り出す数学の探究者たち――。
黒川信重先生、加藤文元先生、千葉逸人先生、津田一郎先生、渕野昌先生、阿原一志先生、高瀬正仁先生など日本を代表する数学者のほか、数学教室の先生、お笑い芸人、天才中学生まで――7人の数学者と、4人の数学マニアを通して、その未知なる世界に触れる!
ベストセラー『最後の秘境 東京藝大――天才たちのカオスな日常』の著者が、次に注目した「天才」たちの本当の姿とは。
あなたの苦手な数学の、あなたの知らない甘美な世界へようこそ。
僕は数学が苦手でした。
小学校、中学校くらいまでは、なんとかついていけたのですが、高校に入ると、数式を見るのも嫌になってしまって。
勉強すればできるはず、だと思いつつも、どこから手を付けて良いのか……という感じだったんですよね。
大人になって、あらためて考えてみると、やっぱり、もう少しちゃんと数学を勉強しておけばよかった、と感じますし、テストで点数を取らなければ、というプレッシャーがなければ、数学は、案外面白い……ということもないか……
なんのかんの言っても、本当に頭が良い人は数学ができるんだよなあ、と悲しくなります。
この本、『最後の秘境 東京藝大』の著者が、次なる「知られざる天才たちの世界」、数学者たちやその家族にインタビューしたものです。
僕にとっては、理解しがたい人々であるだけに、彼らがどんなふうに生きているのか、興味もあったのです。
リーマン予想とは、こういう問題である。
「ゼータ関数の非自明な零点の実部は、二分の一である」
難しい。何が難しいって、そもそも理解するのが難しい。正直、何のことやらさっぱりわからない。
「問題の意味がわかりませんね……ゼータ関数とは何なのか、とか……」
「そうなんですよ」
途方に暮れる僕に、黒川先生は珍しく悩ましげな顔をしてあごをいじった。
「これはかなり深刻かもしれません。数学が魅力的な分野であるためには、誰でもわかるような面白い問題がないと、専門用語を並べて作った問題というのは、たぶん誰も飛びつきません。フェルマー予想のように、一、二行くらいのものがいい。簡単に言えて、奥が深いもの。そういうものがね、なくなりつつある。
コンピューターの発展で、これまで人間の計算能力では難しかった問題が解けるようになってもいるのです。
それでも、「紙と鉛筆だけあればできる」あるいは、それさえも必要がない、という数学の世界に魅入られた人たちは、少なくとも「人生に退屈していない」ように僕には感じられました。
数学者といえば、人間嫌いで、ずっと引きこもって数式と向き合っている、というイメージがあったのですが、東京工業大学教授の加藤文元先生は、こんな話をされています。
「数学で一番重要なことは、問題と一緒に生活することなんです」
ふいに加藤先生が言った。
「二十四時間、ずっと問題について考え続ける場合もあるし、頭の片隅に置いておいて、信号待ちの時なんかにふっと思い出して、考え直してみたりもする。とにかくそばに置いて一緒に生活することです」
リラックスどころではない。生活の一部のようだ。
「共同研究も、その人と共同生活をすることなんですね、問題と一緒に。食事に行く時も、旅行中も、遊びに行っても、その問題について話ができる状態にする」
頭の中で問題と一緒に生活している者同士が、さらに一緒に生活をするわけか。
「数学では『共鳴箱』という表現をすることがありまして、いい共鳴箱を持つことは重要なんですね」
「共鳴箱、ですか」
共鳴箱自体は音を出さない。しかしオルゴール単体では聞こえづらい演奏の音色を大きく、鮮やかにすることができる。
「聞き手に向かって話すことで、自分のアイデアが育っていくことがあります。二人の共同研究でも、片方がどんどんアイデアを出して、片方はひたすら共鳴するというスタイルもあるでしょう」
「じゃあ、中には共鳴箱としての才能がすごく優れているタイプの数学者もいるんでしょうか?」
「そうですね。私自身も、たくさん共鳴箱をやっていると思います」
加藤先生はにっこりと笑う。
「作家の雑談相手になって、アイデアを引き出すのが僕の仕事」と言った編集者さんがいた。「作家の壁打ちの壁でありたいので、いつでもなんでもぶつけてくださいね」と言った編集者さんもいた。何か難問に取り組む時、人は誰かと話すことで一人では越えられない壁も越えられるようになるのかもしれない。
共鳴箱システムは、数学に限らずいろんな分野で使われている気がした。
読んでいて、数学って、案外「人間的」なんだなあ、と思うところがたくさんあったんですよ。
そもそも、問題をつくっているのは「人間」なのだし。
先生たちが数学の問題について語っていることに関しては、僕にはほとんどわからなかったのですが。
現・東北大学教授の千葉逸人先生の項より。
「僕、目上の教授とかにも全然タメ語で話すんですよ。よく奥さんに怒られるんですけれど」
実際、千葉先生は僕と話しながら、かなり意識的に敬語を使っているように思えた。今はまだコーヒーだが、酒が入ればすぐにタメ語になりそうだ。
「『あんな失礼な言い方して』とか言われてしまうんですけど。でも相手も数学者だから、似たような一面はあるので、全然平気なんです。大学にもよると思いますけど、僕の周りの数学者は、みんなめっちゃ仲がいい。フレンドリーで」
「それは、どうしてなんですか」
「やっぱり数学者同士、お互いにお互いの数学を尊敬しているからです。年齢、職階に関係なく。『こっちの先生のほうが数学上偉い』とかはほぼないし、一人一人違うテーマ、違う問題をやっていて、解釈も違う。もちろん年配の教授の方が過去の蓄積がたくさんあるけど、単発で見れば若いこの先生の仕事がものすげえとか。まあ僕の業績、『蔵本予想』を解いたことなんかもそう。自分で言うのもなんだけど」
「蔵本予想」とは、物理学者の蔵本由紀先生が提唱したもので、三十年以上誰も解けずにいた難問だという。
「ある意味では対等なんですね」
ふと、ファゴット奏者にインタビューした時のことを思い出した。その時も空いては、他のファゴット奏者に嫉妬することはないと言っていた。なぜなら同じファゴットという楽器を使っていても、全然別の音楽をやっているから。自分だけの音楽を持って「うん。嫉妬とか、ライバル心とか、上下関係とか、そういうの全くないっす。大学院生でも、ドクターくらいなら自分のオリジナルの問題を持っていて。その分野、ピンポイントに関しては、指導教官よりもその学生のほうが知っているわけです。それくらいでないと、博士号は取れない。だから僕らは、彼らのことを研究者だと見なしているし、そういう付き合いをする」
「すごく特殊な業界じゃないですか?」
「芸術に近いかもしれない。オリジナリティというか、『個性が全て』になっちゃうんですよ。だからあるところから先は教えられなくなる。僕が教えられることを学生がやっても、それは新しい業績にはならないし、新しい研究にはならないから、だから教えられないんです」
こういうのも個人差があって、「リーマン予想」のような、懸賞金がかかった予想に関しては、あるいは、大学のポスト争いでは、嫉妬とか競争心もあるんじゃないか、と勘繰ってしまうのですが、それはもう、僕には想像もつかない世界ではあります。
ただ、数学というのは、「教えられない」面があるというのは、頷けるような気がするんですよ。
だからこそ、中学入試などでは「他の受験者と差別化する決め手」になるわけで。
数学者たちの世界が理解できた、というよりは、世の中には、こういう人たちもいるのだなあ、と思いながら読みました。
こういう人たちが楽しそうに生きているのと同じ世界に生きているというのは、ちょっとだけ、幸せなことなのかもしれません。
最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常 1巻: バンチコミックス
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