琥珀色の戯言

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第9地区 ☆☆☆☆☆


参考リンク:『第9地区』オフィシャルサイト

2010年6本目の劇場鑑賞作品。
4月17日の昼間に観賞。観客は50人くらい。
ちょっとマニアックなイメージがあったのですが、評判が良いこともあり、けっこう賑わっていました。

あらすじ: ある日、ほかの惑星から正体不明の難民を乗せた謎の宇宙船が、突如南アフリカ上空に姿を現す。攻撃もしてこない彼らと人間は、共同生活をすることになる。彼らが最初に出現してから28年後、共同居住地区である第9区のスラム化により、超国家機関MNUは難民の強制収容所移住計画を立てるのだが……。

冒頭の「宇宙からの難民=エビ」が南アフリカ共和国の上空に飛来し、人類に「保護」されるまでのドキュメンタリー調の映像を観たときには、ああ、これは差別問題を扱った、真面目な映画なんだな。あの「アパルトヘイト」で知られていた南アフリカ共和国が舞台というのが、ひとつの「趣向」なのだな……と思いました。

ところが、真面目なドキュメンタリー風だったのはその冒頭の部分だけで、そこからは、チープさと味わいが入り混じった、ひたすらB級テイストなんだけど目が離せないSFアクション映画(+ユーモア)がはじまります。
住民と「エビ」たちに軋轢が広がっていくなか、難民キャンプの移設責任者になった男にある悲劇が……というストーリーなのですが、出てくる登場人物は、それぞれがみんな自分の利益のために動いていて、主人公すら、ちょっと感情移入しにくいキャラクターです。
でも、愛せないけど憎めないんだよなあこの映画の登場人物たちは。
人間の集団というものの恐ろしさを描いている作品で、個々のシーンは、まさにB級SF映画なんだけど、その「B級っぽさ」が、この映画にはとてもよく似合っているのです。
これまで「差別される側」だった南アフリカの黒人たちが、「エビ」たちが来たことにより、今度は「差別する側」にあっさりと転じてしまう様子には、なんだか少しせつなくなりました。

あの『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが製作を担当したこともあり、「エビ」たちの造形は「正直気持ち悪いけど、すごく不快なわけじゃない」という絶妙ポジション。しかしながら、けっこう、ドロドロ・グチャグチャ系の描写もあるので、『エイリアン』シリーズが苦手な人は、観ているのが辛いかもしれません。

この映画、観ているあいだは、ドタバタ・アクションのように感じられるのだけれど、観終えてみると「人間は、差別をせずにはいられない生き物なのか?」とか「人間は『見た目』を越えることはできるのだろうか?」というようなことを考えずにはいられなくなる良作です。
なんとなく、『ウイングマン』の最後の、あおいさんのことを思い出してしまいました。
もし、あおいさんがああいう選択をしなかったら、広野健太は、どちらを選んでいたのだろう?

「B級SF映画に抵抗がない」人であれば、ぜひ一度観ていただきたい映画です。

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