琥珀色の戯言

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SPACE BATTLESHIP ヤマト ☆☆☆☆



あらすじ: 2194年、外宇宙に突如として現れた敵・ガミラスが地球への侵攻を開始し、人類の大半が死亡してしまう。5年後、地球が放射能で汚染される中、かつてエースパイロットとして活躍していた古代進木村拓哉)は、はるか彼方のイスカンダル星放射能除去装置がある事実を知り、宇宙戦艦ヤマトで仲間と共にイスカンダル星へ向かう。

参考リンク:SPACE BATTLESHIP ヤマト 公式WEBサイト

2010年22本目の劇場鑑賞作品。
公開から2週間経った水曜日のレイトショーで観てきました。

観客は50人程度。
中高年の往年の『宇宙戦艦ヤマト』ファンが多いという話を聞いていたのですが、僕が観に行った回は、20代くらいの人が多かったです。

正直、キムタクが古代進を演じると聞いたときには、「どう考えてもミスキャストだろそれは……トレンディドラマみたいな話になっちゃうんじゃないか? なぜか森雪がエースパイロットになってるし……」と愕然としたものです。
そして、前半は観ているのがかなりつらかった。
リアルタイム(あるいは、初回放送からあまり時間が経っていない時期の再放送や映画のテレビ放映)で、『宇宙戦艦ヤマト』を観ていた僕としては、この『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の「軽さ」には、辟易せざるをえなかったのです。
「古代さ〜ん!」と再会を大喜びする後輩たちの姿は、まるで大学のサークルみたいだし、艦橋のクルーもすごい。ガミラスの攻撃を退けるたびに、キャッキャとみんなで歓声をあげるのです。
相原役のマイコさんが、レーダーから目を離して「やりました!」なんてみんなとニコニコしている瞬間に、「ドゴーン!!」と、新たなガミラスからの攻撃が!
ガミラスのミサイルが接近してきていました!」
おい、レーダーから目を離すな、マイコ! 貴様それでも軍人か!

この『ヤマト』の乗組員たちのノリの軽さには、観ていて、お前ら、「地球最後の希望」なんだろ?
なんでこんな危機感のカケラもない連中を乗組員に選んだんだ? そこまで地球の人材は枯渇しているのか?
そんなふうに感じずにはいられませんでした。
僕が地球に残された側の人間だったら、「こんなヤツらしかいないのかよ、勘弁してくれ……」と絶望していたことでしょう。
いやまあ、『フルメタル・ジャケット』みたいな『ヤマト』になっても、それはそれで困っちゃうんですが、キムタク古代進なんて、ほんと、やりたい放題。
美人エースパイロットを救うためなら、ヤマトを危機にさらすのもお構いなしで、しかも、そのパイロットをかどわかすんだから。
「俺は味方を見殺しにしてしまった……」なんて悩んでるようにみせかけて、行きつくところは、黒木メイサとのラブシーン。
お前、本当は、オリビエ・ポプランじゃないのか?
これ、実は『宇宙戦艦ラブワゴン』?

こういう、公私混同型のリーダーっていうのは、軍隊にとっては最低です。
そりゃあ、艦内の風紀も乱れるわ……
斉藤なんて、かわいそうに、軍人というよりジャンキーになってるし。

自慢の特撮も、お金がかかるのか、極力宇宙空間での戦闘を廃したものになっており、すべての敵は、波動砲で消し飛びます。
アニメでは、「1ドットボタンを押すタイミングがずれたら、みんな宇宙のチリ!」という緊張感あふれる設定だった「ワープ」も、お手軽にボタン1発。
まあ、これは原作アニメでも、最後のほうは簡単にワープ濫発状態だったので、しょうがない面はありますけど。

そして、シナリオも、お約束の味方が次々と死んでいく、レミングスドラマ。
ガミラス側はつくりこむ予算が無かったのか、何が敵なんだかよくわからず、『マトリックス・レボリューションズ』の機械の敵みたいなのがワラワラと出てくるのみ。
アナライザーは、『アイアンマン2』みたいになってるし、高島礼子さんの佐渡先生は、なんだか中途半端。
で、「イスカンダル」って、結局何なの?


このように、ツッコミどころ満載の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』なのですが、実は、観終えて僕はけっこう満足してしまったんですよね。
ひとつは、この映画の作り手、出演者たちの多くに『ヤマト』への愛情が感じられたこと。
この映画って、考えようによっては、いいオトナたちが、何十億も使って、子どもの頃に憧れた『宇宙戦艦ヤマト』を自分たちで演じてみた作品です。
ほんと、「豪華なヤマトごっこ」なんですよこれ。

冒頭のシーンをはじめとして、原作の音楽がけっこう使われていますし、あの「ヤマト」が実写で動いて、波動砲を撃つというだけでも、やっぱり感動的ではあるんです。
学生サークルみたいな乗組員たちにも、最初は腹が立ちますが、観ているうちに「まあ、軍隊だって、敵をやっつけたら、ちょっとは喜ぶだろうし……」とか、なんとなく感情移入しちゃうんですよね。
だってさ、みんなヤマトの乗組員のコスプレしてるし。
そして、この映画の最大のポイントは、こうしてキムタク主演で映画化する際にも『宇宙戦艦ヤマト』の最大の特徴である「過剰で暑苦しく、理不尽なまでの自己犠牲の精神」(要するに「積極的に死ぬ理由もないのに、みんなが犠牲になって死にたがってしまう)を真正面から描いたストーリーになっている、ということだと思います。
この映画の脚本は、かなり強引でムチャクチャなんですけど、実は、アニメの『宇宙戦艦ヤマト』だって、負けず劣らず(というか、ある意味この実写版以上に)に荒唐無稽な話でした。
当時小学生だった僕でさえ、「自己犠牲の精神に感動した」というよりは、「なんだこの人が死にまくる、時代錯誤的な特攻アニメは……」と驚いたというのが本音だったのですが、そういう「過剰さ」や「時代錯誤的なところ」が、『ヤマト』の最大のインパクトだったような気がします。
それを、山崎貴監督は、ちゃんとわかっていて、こういう映画にしたのでしょう。

どんなにキムタクが軽い古代進を演じても、森雪がツンデレキャラになっても、地球に戻ってきたときの、あの沖田艦長の名ゼリフは忘れない。
ひたすら軽薄につくってはいるけれど、「『ヤマト』の本質」みたいなものは、けっこう掴んでいる映画化です。

「こんなの『ヤマト』じゃない!」って否定するのは簡単ですが、『ヤマト』って、もともとそんなに高尚なものじゃなくて、「うわーこのキャラも死ぬのか……」と、その「過剰さ」に苦笑しながら、「自己犠牲の精神」になぜか涙が出てしまう、という作品だと僕は思います。
そういう意味では、これはやっぱり、『宇宙戦艦ヤマト』なのです。

アニメの初回放映から36年、伝説として美化されすぎてしまった『ヤマト』の幻影にこだわらずに、「こういう『オトナの学芸会』もアリだよな」という大らかな気持ちで観れば、かなり楽しめる作品だと思いますよ。
アニメの『宇宙戦艦ヤマト』を知っている世代の人が、「こんなふうに『ヤマト』を実写化した物好きがいるんだな。みんなほんと『ヤマト』好きだよなあ!」とニヤニヤしながら観るのが、いちばん面白い映画ですし、そういう意味では、この映画、僕にとってはまさに「ストライクゾーン」だったのです。

キムタクの古代進も、そんなに悪くなかったですよ。それなりに、要所は締めてくれたと思います。
あんまり大真面目にみんなで「軍人」をやっちゃうと、娯楽映画にはならなかっただろうし。

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