琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

飲食店で「ちゃぶ台返し」をしたくなってしまう人へ

参考リンク:飲食店での怒りの基準について教えてほしい(はてな匿名ダイアリー)


はてなブックマーク」では、このエントリを書いた人に対して、「持ってきたものをひっくり返すなんて怖い」「なんでそんなふうに突然キレてしまうのかわからない」という声が多いようです(このエントリへの「ブックマークコメント」はこちらを参照)。
 でも、この人の気持ち、僕にはわかります。
(僕は持ってきたものをひっくり返したりはしませんけど。後が面倒だから自制します)


 ときどき、ひとりで外食することがあります。
 そういうとき、僕はけっこう、「気付かれないまま放置されてしまう客」なんですよね。
 「ちわーっす!」って店内にオーラを放射しながら入っていくというタイプではなく、猫背でとぼとぼと店に入り、カウンターの隣に人がいない席にそそくと座り、おもむろに持参の文庫本を読み始める、というような僕の「構ってほしくなさそうな客」っぷりを考えると、気づかれないのも致し方ないのでしょうけど。


 しかしながら、こうして客観的に描写してみると「気付かれにくいよなあ」と思うのだけれども、店に入っているのに注文も取りに来てもらえない、という状況はかなりつらいものです。
 しかも、時間が経てば経つほど、「自分は何をやっているんだろう……」という気分になってきますし、店員さんも、「この人はもう注文して待っているんだろう」と思いこんでいるのが伝わってきます。
 がんばってなんとか声をかけてみると、「なんで今更注文するの?」みたいな困惑の表情を店員さんが浮かべていたりして。


 僕はもともと人に声をかけるのが苦手なのですが、その理由として、「思い切って自分なりに大声を出して『すみません!』と言っても、声が小さいのか声のトーンが聞き取りづらいのか、無視されたり「はあ?」なんて聞き返されたりすることが多い、というのがあります。
苦手なことを意を決してやったのに、かえってくるのは、「やっぱり自分の声や喋り方は聞き取りづらいんだな」というコンプレックスを再確認させられるような反応ばかり。落ち込みます。


僕の妻は、軽く「すみませーん」って言うだけで、「はいはーい」って店員さんがやってくるのに……
こういうのって、意識しはじめると、緊張してしまって、かえって声が出なくなってしまったり、声が裏返ってしまったり、異様な大声になってしまって恥ずかしかったり……


だから、なるべく店員さんにこちらから声をかけたくない。
コンプレックスをグリグリと刺激される危険が高いから。
向こうから、「ご注文は?」って来てほしい。
でも、なかなか来てくれない。
そうすると、「なんでいままで注文しなかったの?」って反応をされるのもイヤで、さらに声をかけづらくなる。
まさに悪循環です。


 ちょっと待たされたら、「まだ来ないの?」って、店員さんに軽く催促できるくらいのバイタリティというか、「自然に人と接する能力」があれば、「怒り」や「苛立ち」は、そこまで蓄積されないはずです。
「怒りを小出しにできる」人の場合は、あまり極端な行動はとらずに折り合いをつけられることが多いのではないでしょうか。


この人は、「待たされている」あいだ、ずっと自分のなかで葛藤しているのではないかなあ。

混んでいたら仕方ない。
一生懸命やってるんだからうるさく言わずに待ってあげようと思う。



これはたぶん、半分本当で、半分嘘です。
「うるさく言わずに待ってあげよう」というのは、店側への優しさのようだけど、「うるさく言って、相手に嫌われたくない」「他人に催促するような『イヤなこと』はやりたくない」という気持ちも半分くらいは含まれているはず(いや、この人が本当に僕のような「コミュニケーション不安」を抱えているのかはわからないので、あくまでも想像なんですけど)。


そんなふうに自分のなかで葛藤を続けた挙げ句、「注文自体を忘れられる」なんていう仕打ちにあったら、キレるというのも理解できるんですよ。
店に対する怒りと、そんな状況になるまで、積極的に状況と打開しようとしなかった自分の情けなさへの怒り。
まあ、だからといって、料理をひっくり返すという怒りの表現は、「自制心がない人」としてみられてしまうので、おすすめはしませんが。
料理ももったいないしね。


 僕はこの人の「怒りの基準」の最大の問題点は、基本的には「我慢する」けど、ある一定のラインを超えたら「料理をひっくり返す」という2つの状態しかない、ということだと思うのです。
 そのあいだに、「15分待たされたら『まだですか』と軽く声をかける、注文が通っていなければ帰る」などの「段階」を増やしていったほうが、いろんな場面で、ソフトランディングが可能になるはずです。
 「帰ればいい」っていうけど、いきなり何も食べずお金も払わずに席を立って出て行くというのは、けっこう勇気がいる行為なんですけどね。


 「店員さんに声をかける」と、忙しい相手に迷惑なんじゃないかと思われるかもしれません。
 でも、料理をいきなりひっくり返されるよりは、店員さんにとっても、はるかにマシでしょう(強い怒りを受け止めるのも、片づけるの大変だものね)。


 ただ、「そんなに簡単に『まだー!』って言えるのなら苦労しないよ」っていうのはまさにその通りなので、僕自身は、店を選ぶ時点ですでに、「なるべくそういう目に会わないような店、あるいは空いている時間帯」を選んでいます。
 他人には偉そうにこんなことを書いているのですが、僕はやっぱり、拒絶されるのが苦手だし、そう簡単に「ちわー!」って、ラーメン屋ののれんをくぐれるようにはなれないから。


 こういう客は、店のほうでも扱いにくくてイヤだろうな、とは思うんですけどね。

 
 基本的には、店員さんもあなたと人間なので、「お互いに溜まったストレスが暴走しないように、適度に確認しあう」ほうが無難です。
 自分が店員さんの側だったら……
 催促されるのもかなりイヤだけど、やっぱり、いきなり料理ひっくり返されるのは、もっとイヤだろうから。
 いちばん大事なのは、「とにかく早め早めに手を打つ」こと。
 「我慢しきれなくなったら、暴発するタイプの人間」であることを自覚しているのなら、早い段階での「ガス抜き」を。
 こういうことって、基本的に時間が経てば経つほど、こじれていくものですし。


 僕がずっとストレスを感じている「注文をとりにきてもらえない」なんていうのは、胸を張って堂々と店に入って、席についたら、いきなり本とか読まずに手持ち無沙汰そうに店員さんをじっと見つめる。これだけでたぶん、9割以上問題なく進行するはずのことなんですよね。
 わかっているのに、なかなか実行できないのが悲しいけれども。


 残念ながら、世の中の大部分の人は、「ひとりで店に入ってラーメンを食べる」ため、店員さんとやりとりをすることに強いストレスを感じる人間がいるなんて、想像もしてくれません。

 これはもう「自衛」するしかないのです。
「正しさを証明する」よりも、「生きやすくするための工夫」のほうが、たぶん、僕たちにとっては、ずっと大事なことだと思う。

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