琥珀色の戯言

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【読書感想】「カルト宗教」取材したらこうだった ☆☆☆☆

「カルト宗教」取材したらこうだった (宝島社新書)

「カルト宗教」取材したらこうだった (宝島社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
ライフスペース」によるミイラ事件、「ホームオブハート」での児童虐待事件、「神世界」グループによる霊感商法事件―オウム事件以降もカルト宗教によるトラブルは、数多く起きている。ライフスペースの記事を書き、「グル」からクレームを受けた著者は、それ以来14年間にわたりカルト問題を取材し続けてきた。セックス教団の5泊6日の合宿に参加、宗教団体が主催する偽装就職セミナーへ潜入取材、教祖様の実家探訪…。まったく関係ない人間から見れば、奇妙奇天烈としか言いようがない彼らの実態とは何なのか。体当たりで取材を挑み続けた著者が綴る、カルト集団との交流(笑)&暗闘記。


『やや日刊カルト新聞』の主筆藤倉善郎さんが書かれた新書。
冒頭の大学時代の「ライフスペース」とのやりとりの部分には、思わず笑ってしまいましたが、その後、教団からの抗議を受けて、「自分が所属する大学に迷惑をかけるわけにはいかない」と記事を削除したことと、それに対する藤倉さんの「反省」は、こうしてブログに文章を書いている人間のひとりとして、すごく考えさせられました。

 当時の私は、裁判をしてまで「ただ一般報道をまとめただけ」のウェブサイトの文章を守ろうとは考えなかった。関係のない北大新聞会や大学までが巻き込まれかねない状況だったからだ。私自身も裁判をするだけの時間やカネを持ち合わせていなかったし、北大新聞会にいたっては、そんな負担がかぶさってくればサークル存続が危うくなる。
 ところがこの少し後、私は紀藤正樹弁護士から間接的に「抗議されて記事を取り下げてしまうようでは信用できない」と批判された。こちらの事情を無視して、「カルトとの闘い」を強要するのかと腹が立った。
 しかしライターとなったいま、紀藤弁護士の言葉は正論だと思っている。
 カルト的団体が無茶苦茶な理屈で、彼らの都合の悪い情報を削除させようとする。インターネットだろうがなんだろうが、目的を持って物を書く人間が、これに屈していいわけがない。そのときの対応次第で、覚悟のほどが判断されるのは当然のことだ。
 この騒動で、私は2つの反省と教訓を得た。ひとつは、「一学生の分際で学長室に直接電話をかけてはいけない」ということ、そしてもうひとつは、「関わりあいになったら危険なのではないかと思える団体からの抗議にこそ、安易に屈するべきではない」ということだ。


 この新書は、「カルト教団の実態」を詳しく紹介するというよりは、『やや日刊カルト新聞』の活動や、藤倉さんが、これまでにどう「カルト教団」と接してきたか、ということが書かれています。
 第2章では、「ラエリアン・ムーブメント」という教団のセミナーへ潜入したときの話が紹介されているのですが、これがなかなか面白いのです。
 「セックス教団」などと呼ばれることもある、このラエリアン・ムーブメントセミナーの冒頭で、フランス人の教祖ラエル氏は、こんな話をしたそうです。

「変化を楽しむことでニューロンは増えていくのです。たとえば、催淫剤などなくても、パートナーを変えることでいくらでもセックスを楽しめる。天才というのは、何百人もの相手とセックスを楽しんでいるものです。この合宿のテーマは”遊ぶこと”。性器もパートナーも、この世にあるものは全て”おもちゃ”です。ローマ法王の両親は、『さて、法王を作ろうか』と真面目な顔をしてセックスしたわけではありません。父親が母親のおっぱいで遊び、母親が父親のキンタマで遊んで、それで法王が生まれたのです。全ては”おもちゃ”である、この地球という惑星は”遊び場”なのです」
 このレクチャーに宗教的な理屈はない。要は「楽しくやろうや」という話だ。

 ここまで読んで、この5泊6日、参加者400人のセミナーで、どんな「酒池肉林」が繰り広げられるのか……と期待した僕は、見事に肩すかしをくらってしまいました。
 まあ、人間って、「やっていいよ」って言われても、なかなか「じゃあフリーセックス!」ってできないものですよね、たぶん。
 そういう「実際のセミナーでのヘタレ感」というのは、参加してみないと語れないものだと思います。


 個々の教団の人たちも、「洗脳された狂信者」ばかりではなく、ひとりひとりはけっこう話せる人だったりもして、でも、そういう人たちが「教団」となると、信じられないようなことをやってしまう……
 『やや日刊カルト新聞』の面白さは、あくまでも相手を「人間」として取材していることなのではないかと思います。
 この新書に紹介されていたエピソードのなかで、『やや日刊カルト新聞』の記事になったときに読んで吹き出したのがこれ。
(『週刊文春』の記事に対して、リレー断食デモを行っていた統一教会の信者たちへの、藤倉さんたちのカウンターアタック!)

週刊文春は謝罪しろ!」
「捏造記事書くな!」
週刊文春つぶすぞ!」
 こんな信者たちのデモを見ながら思いついたのが、彼らの目の前で暴飲暴食してみよう、という企画。
 この頃、統一教会批判者を尾行してプライベートを盗撮しブログで晒す、「白い旅団」なる集団(個人?)が活発に活動していた。統一教会問題に取り組む人々の間で問題視されていたこの「白い旅団」をもじって、私たちは「面白い旅団」というパロディ団体を結成。文春前で断食デモを行っている統一教会信者たちの前に立った。

 私たちは、断食という行為に対して強く抗議します。みなさんが断食をやめるまで、私たちは命をかけて暴飲暴食を繰り返す決意です。止めても無駄です。私たちに暴飲暴食をやめて欲しければ、しっかりご飯を食べてください。


 こんな抗議文を、デモのリーダーである統一教会の古参信者・井口康雄氏に手渡し、私たちは彼らの目の前でメッコール統一教会系企業が販売している韓国のドリンク)と一気飲みしまくり、松屋の牛丼やキムチを頬張り、デザートにプリンを食べた。
 もちろん、デモだからシュプレヒコールも忘れない。
「断食やめろ〜!」
「おかわり〜!」
 リーダーの井口氏は、これを見て
「吉本並みに面白い」
「久しぶりに笑った」
 と笑顔で応じた。
 デモを終えると、統一教会信者たちは私たちに向かって、
「お付き合いいただきありがとうございました!」
 と言って拍手を送ってくれた。私たちは「健康にだけは気をつけて」と声をかけ、断食中の信者でも口にできるミネラルウォーターのボトルを配った。
 食べ過ぎて苦しそうにしている私に、井口氏が優しく声をかけてくれた。
「断食より暴飲暴食のほうが身体に悪いんじゃない?」(井口氏)
「そんな気がします」(私)
 立場の違う者同士に友情が芽生えたのか、それともただの馴れ合いか。


「おお、統一教会っていっても、けっこうジョークがわかるんだな」と思いながら読んでいたのですが、のちにこの件は「文春の差し金」として、週刊文春が抗議を受けることになったそうです(実際は『週刊文春』とは無関係)。
まあ、断食中にそんなことされたら、ムカつくのが当たり前か……


しかし、「組織化されたカルト教団と闘う」のは、本当に難しい。
藤倉さんも抗議を受けて謝罪したり(ただし、記事が間違っているというのではなく、相手の教祖の外見に対する(○○に似ている)というような罵倒や教団に対して「パープリン」と表現したことに対して)、家宅捜索を受けたりもしています。
実際に「個人がカルトと闘う」のは、よっぽどの覚悟と法律家などのバックアップがなければ厳しい。
そんななかで、屈せずに闘い続ける『ほぼ日刊カルト新聞』は、心強い存在です。
自分ひとりでは、「訴えるぞ」って言われて内容証明を送られてきたら、「裁判になって、仮に勝ったとしても、時間的にも経済的に負担がかかるし、勝っても得るものはほとんどないし……」と、考え込まざるをえないから。


カルト教団と闘うには、「ひとりで闘う」のではなくて、なるべくみんなで力を合わせていくことが大事だと思います。
大手メディアでさえ、広告の関係などで、「カルトっぽい教団」を批判できない世の中では、「自衛」していくしかありません。
カルトと闘う、あるいは、カルトへの感染を予防するための基地として、これからも『ほぼ日刊カルト新聞』には、がんばっていただきたいし、僕も支援していくつもりです。


参考リンク:著者インタビュー『「カルト宗教」取材したらこうだった』(やや日刊カルト新聞)

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