- 作者: 佐藤優,井戸まさえ
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: 単行本
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内容紹介
【発売直後から大反響! 発売初日に大増刷! 】
知の怪物vs.5児の母・政治家が語り尽くす「子どもの教養はこうして育てる! 」。
「教養=読む力+書く力+話す力+聞く力」それぞれの具体的な鍛え方を徹底解説!
「佐藤さんのような教養人にどうすればなれるんですか?」
この質問に丁寧に、具体的に答える1冊です。佐藤優初の子育て・教育本!
★「頭のいい子」はこうして育つ!
・おすすめの絵本や児童書、偉人伝や伝記を具体的に紹介
・子どもを本好きにさせる秘訣、読む本をステップアップさせるコツは?
・本以外では百人一首・かるた・パズル、習い事では習字がおすすめ
★「勉強のできる子」はこうして育つ!
・中学受験でエスカレーター式の学校をすすめない理由は?
・高校選びは「偏差値+校風」を見て
・大学では「学問」か「技能」のいずれかを身につけさせる
★「やさしくしっかりした子」はこうして育つ!
・お小遣いはお金教育の第一歩。必ずお小遣い帳をつけさせる
・ゲームは依存症の入り口になりかねない。親子にとって最初の試練がゲーム
・携帯やネットで子どもを野放しにしない。「監視」はしないが「監督」する責任は親にある
4歳男児の父親として、「育児」には日々悩んでいるのです。
書店でこの本を発見して、少し立ち読みしたあと、「何かの役に立ってくれれば……」と購入。
実は、この本の前提条件のところで、僕はちょっと立ち止まってしまったんですよね。
「佐藤さんのような教養人にどうすればなれるんですか?」
僕は佐藤優さんのことを、数少ない「本物の知識人」だと尊敬していますし、著作もよく読んでいます。
しかしながら、自分自身、あるいは息子のこととして考えてみると、「あなたは、佐藤さんのような教養人になれたら、本当に幸せになれると思っているのですか?」と、自分自身に問いかけずにはいられなかったのです。
もちろん、佐藤優さんは不幸だ、という意味ではありません。
「佐藤優じゃない人に、佐藤優のような生き方をさせようとすると、中途半端な知識人になってしまったり、人生を楽しめなくなってしまうのではないか?」と怖くなってしまうのです。
その一方で、「普通の生きかた」を目指すのは、いまの世の中では、かえって人生を難しくしてしまう可能性もあるような気がします。
そもそも、親は、どの程度子どもに「介入」すべきなのか?
この本は、「スパルタ教育」を志向しているものではなく、「どんな本を、どんな順番で子どもに読ませると良いのか?」とか、「テレビゲームやテレビは、どう扱うべきなのか?」という身近な問題について、佐藤さん、井戸さんなりに答えを出してくれている、興味深い内容ではあるんですけどね。
「子どもに最初に読ませたい絵本」の話。
井戸まさえ:子どもが最初に出会う本として、佐藤さんはどんなものがおすすめですか?
佐藤優:子どもの間で抜群に人気があって、いまでも売れているのは『うんこ!』でしょう。理屈抜きに、子どもは「うんこ」という言葉が大好きで、過剰に反応をするからです。普段は使ったらいけない言葉なんだけれども、この絵本を読む限りはふんだんに使える。読んでいても怒られない。
子どもが興味を持つ本を取り上げることは、学習効果を上げることにつながります。それからこの本は、エコロジー、循環ということにもつながっていきます。
ただし、子どもがいちばん最初に触れる本が『うんこ!』でいいのかという問題はありますね……。しかし、子どもの関心を引いて、長くきちんと受け入れられ続けている本は、それなりに読む価値があります。
井戸:佐藤さんが子どものことにお好きだったという絵本、浜田廣介の『むくどりのゆめ』も名作ですよね。お母さんがいないという、不幸ではないけれども、喪失したものに対する思いが描かれた本ですね。
- 作者: サトシン,西村敏雄
- 出版社/メーカー: 文溪堂
- 発売日: 2009/12
- メディア: 大型本
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むくどりのゆめ (大人になっても忘れたくないいもとようこ名作絵本)
- 作者: 浜田廣介,いもとようこ
- 出版社/メーカー: 金の星社
- 発売日: 2005/10
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この『むくどりのゆめ』、たしかにあらすじを読んでいるだけで涙が出そうになるような絵本なんですよ。
佐藤さんは、この絵本について、「お父さんは、お母さんが死んでいるのに、子どもには遠くを旅しているとウソをつくわけですね。ウソが絶対に悪いとはいえないということを考えるうえでも、とてもいい本です」と仰っています。
子どもの絵本を読んでいて、僕も不意に涙が出そうになることがあるのです。
絵本の物語って、必ずしもシンプルな勧善懲悪なものばかりではなくて、「これで本当によかったのだろうか?」と大人でも考えてしまうものが少なくありません。
僕は子どもの頃から、ワイルドの『幸福の王子』という絵本が好きというか、ずっと取り憑かれているような気がしていているのです。
いまだに「あの王子とツバメは、『幸福』だったのだろうか?」と、ときどき考えてしまいます。
ちなみに、僕の息子が覚えているであろう「最初の絵本」はこれ。
がたん ごとん がたん ごとん (福音館 あかちゃんの絵本)
- 作者: 安西水丸
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1987/06/30
- メディア: 単行本
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とても参考になる本なのですが、中には僕からすると「佐藤さんはそんなふうに思うのか……」というような「本の見方」もあるんですよね。
「子どもに読ませたくない本」について。
佐藤:差別とか、人をバカにすることにつながるようなものはよくないですね。それから、セックスやドラッグに関するもの、戦争や暴力を礼賛するようなものは、早い段階ではすすめられません。
売れているもの、人気のあるものの中にも、そういうものが見受けられます。たとえば「こびとづかん」というのがあるけれど、あれは異質なものを揶揄しているので、僕には違和感があります。
同じように、僕は「アンパンマン」もあまり好きではないんです。バイキンマンというのが出てきますが、絶対的に悪いやつがいて、それでみんなでやっつけるというのは、いじめにつながりかねないと思うからです。「バイキンマンの側になったら……」ということを誰も想定していないわけで、そちらの立場からしたらたまったものではないですよね。
そういう部分で、僕にはどうしても違和感があるのですが、実際に子どもを育てていらっしゃる井戸さんはどうですか?
井戸:アンパンマンは、暴力で解決するところは私にも少し抵抗がありました。
ただ、暴力的なものはあまり読んでほしくない一方で、疑似体験としてそういうことを知っておくのも大事かなとも思うんです。だからそういう意味では、うちではあまり厳しく「これは読んではいけない」という禁止はしていませんでした。
僕も「こびとづかん」には、なんとなく居心地の悪さを感じていたんですよね。その理由が、これを読んでわかったような気がしました。
ただ、「アンパンマン」についての佐藤さんの見方は、ちょっと「過剰反応」のようにも感じます。
やなせたかしさんの著書を読むと、「アンパンマンはバイキンマンを『退治』するけど殺すことはない。次の回には、またバイキンマンは登場してくる。彼らは『共生』しているのだ」と書いてあります。アンパンマンも「敵をやっつけるのではなく、お腹を満たしてくれるのが、真のヒーローなのだ」という、やなせさんの「ヒーロー観」が反映されたものだそうですし。
これを読むと、佐藤さんは「徹底して平和主義を子どもたちに伝えようとしている大人」なのだなあ、とも思うんですよね。
それが佐藤さんの良心なのかもしれないし、生きてきた時代を反映しているのかもしれませんね。
戦後の「平和教育」を受けてきた僕には、佐藤さんの危惧も理解はできるのです。
ただし、子どもがある程度大きくなったら、読書で「悪の疑似体験」をすることも必要だ、と仰ってもいるのです。
「やはり、世の中には争いや悪の誘惑も存在するのだから」と。
「悪事を実体験してみる」のはあまりにも危険で迷惑ですから。
このようにして、「子どもにどんな本を読んでもらいたいか」が子どもの成長に沿って語られていきます。
この本の後半は、角田光代さんの『八月の蝉』を題材にして、「親子問題」を語っておられるのですが、これに関しては、『八月の蝉』を読んでいることが前提であり、僕は既読ですがあまり好きな小説ではなかったこともあり、あまり心に響くところはありませんでした。
あと、この本には、佐藤さんのこんな話が出てきます。
佐藤:図鑑でも読む訓練になります。ここで重要なのは、「編集者」なんです。要するに、プロの手が加わった、編集者の手が加わった文章を読む訓練をすることが大事なのです。
編集者というのはジャッジメントの機能を持つ。基本的に編集者は保守的です。だから、編集者の手が加わったものに私的な言語は成立しない。言語というのは公共圏のものだという暗黙のルールがありますから。だから、インターネットのブログをいくら読んでも、日本語力は向上しないのです。
なんだと!と息巻きたいところではありますが、たしかに、このブログなども、読み返してみると「なんて酷い日本語!」と頭を抱えてしまうことが少なくありません。いちおう更新する前に一度は読み返しているのですが、それでも、誤字脱字、紛らわしい表現などを完全に駆逐することはできなくて。
出版産業の衰退に伴い、「校正」という文化は、どんどん失われつつあるようですが、やはり「校正された文章を読む」のは大事なのではないかと僕も思います。
自分では「読んでいる」つもりで、ネット上の文章ばかりを目にしつづけていると、時間とともに、その「誤差」は大きくなっていくでしょうし。
とりあえず、「子どもにどんな本を読ませればいいのか?」と悩んでいる人にとっては、参考になる一冊だと思います。
とはいえ、うちの息子も「読みたい本しか、読んでくれない」のだよなあ。いや、読んでくれるだけマシなのか……