- 作者: 藤田晋
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/04/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (17件) を見る
内容紹介
ベストセラー『渋谷ではたらく社長の告白』から8年。
ネットバブル崩壊、業界の低迷、再びのネットバブル。
絶頂の中、発生したライブドア事件、親友・堀江氏の逮捕、株価暴落、そして社長の退任を賭けて挑んだ未知の領域――。
その時、起業家は何を考えていたのか?
抱えた苦悩と孤独、そして心に沈めてきた想い。
焦り、嫉妬、不安、苛立ち、怒り、絶望――。
すべての真相を、今ここに!
魂をゆさぶる衝撃の告白。
《本文より一部抜粋》
「これでダメだったら、おれも責任をとって会社辞めるからさ」
(中略) 突き抜けなければアメーバも、おれも終わりだ。
私はそう覚悟を決めていました。
しかしそれは、その道が正しいのかどうか、その先にゴールがあるのかどうかも分からないまま走り続ける、孤独なマラソンのようでした。
「ニュース見たか? ライブドアに家宅捜索だって」
(中略)堀江さんが犯罪容疑者としてパトカーで搬送されていく姿を見て、何か自分の将来がどす黒いもので覆われたような感覚がして、茫然とその場に座り込んでいました。
人とは違う生き方をする者への、世間からの冷たい仕打ちを目の当たりにしたような気がしたのです。
起業家として、ゼロからベンチャー企業を立ち上げていくと、世間の反感を買ったり、既得権益を得ている人から邪魔されたりします。
それでも前に進み続けるためには、強靭でタフな精神が必要です。
しかし、何か巨大で抗えないものに負けてしまった……そんな感覚だったのかも知れません。
Kindle版で読みました。
Amazonでみた感想では、「自分のことばかりであまり面白くない」とか「前著『渋谷ではたらく社長の告白』に比べると、具体的なエピソードが少なく、臨場感に欠ける」などというものもあり、また、最近の見城徹との共著も「説教臭い感じ」がしていたため、ちょっと手に取るのをためらったんですよね。
でも、やっぱり気になったので読んでみました。
僕自身は「起業家精神」とは極北の人生をおくってきましたが、けっこう楽しめたんですよね、この本。
「ネットバブル崩壊」「堀江さんのライブドアの台頭と暗転」これらを、間近なところから、藤田社長はどう見ていたのか?
ネット関連企業って、正直「何をやって稼いでいるのかよくわからない会社」ばかりなのですが、この本を読んでいくと、藤田社長が「宣伝広告業が稼ぎの中心」だったサイバーエージェントを『アメーバ』を柱とする「メディア企業」に転換していったプロセスと、そのためにどんな苦労があったのかがよくわかります。
なんだかよくわからないまま、どんどん大きくなっていったようにみえるサイバーエージェントなのですが、藤田社長も成功ばかりではなくて、いろんな迷いや失敗もされているのです。
そんななかで、「転職組を重用するより、新卒を育てる方針に転換していったこと」や、「転職が当たり前の業界のなかで、社内の雰囲気作りや福利厚生を重視して、『長く働いてもらえる会社』を目指していったこと」など、「ネット企業のイメージ」とは違う、むしろ「昔の日本企業文化への回帰」みたいなやりかたも取り入れていったのが印象的でした。
サイバーエージェントは「広告業」から、「メディア業」への転換を目指していくのですが、まさに暗中模索。
収入がある程度計算できる広告業ではなく、他の企業では赤字にしかなっていないブログサービスなどの事業を柱にするなど、「正気の沙汰ではない」と周囲から反対もされたし、『アメーバ』に配属された社員のモチベーションも上がっていなかったそうです。
この本のなかには、堀江さんと藤田さんのやりとりがいくつか紹介されています。
ただ一方で、当時(1999年くらい)、二人(藤田さんと堀江さん)でこんな話もしていました。
「ヤフーと同じものが作れても、知名度が追いつけないんだよなぁ……」
「ここまで有名になっちゃうとね……」
「知名度」。
それがインターネットメディアにとってどれだけ重要かを私と堀江さんは骨身に沁みて知っていました。
高い知名度はアクセス数を増やし、コンテンツや決済などに対するユーザーの信頼度に繋がります。
その頃、笑い話のように言われたことですが、世の中にはヤフーがインターネットだと思っている人が結構いたのです。
それほどヤフーの知名度は圧倒的でした。
私が知り合った頃、堀江さんの会社はオン・ザ・エッヂという名前でした。
会社の知名度をどうしても上げたかった堀江さんは、TVCMをかなり流していた無料プロバイダーのライブドアを買収し、自らの社名を買収した社名のライブドアに変更したのです。
当時、堀江さんは言っていました。
「事業は買っても仕方ないようなものだけれど、これだけCMをやっている会社だったら買う価値がある。この名前を買ったんだ」
だからプロ野球参入を通じてテレビや新聞報道で「ライブドア」「ライブドア」と連呼されていた体験を通じて、かつて堀江さんが言っていた「名乗りを上げるのは無料なんだ」という言葉の意味を、私ははっきりと理解していました。
一円も使うことなく社名を全国に知らしめることができたのです。
駅とかでヤフーが無料高速ネット接続キットを無料で配っていたのは、10年くらい前の話なんですよね。
「もうそんなに経ったのか」というのと、「まだそのくらいしか経っていないのか」というのと。
日本のネット接続環境は、スマートフォンなども含めると、この10年で劇的に進化してきたのです。
「堀江さんは目立ちたがりだから、あんなにテレビとかに出ているんだな」と、やたらとメディアに露出しているのを見て、当時は思っていたものですが、ああやって「ライブドアの知名度を上げる」ことこそが、最大の目的だったわけですね。
ずっと『はてな』で書いてきた僕にとって、サイバーエージェントの『アメーバブログ』は、「芸能人を大勢つれてきて、宣伝をガンガンやってメジャーになった、チャラチャラしたブログサービス」だったんですよ、率直に言うと。
でも、後発のブログサービスであった『アメーバ』のページビューを増やすのは、けっして簡単なことではなかったようです。
もともと営業畑の人が多いサイバーエージェントでは、技術面がやや弱く、外注で作成したサービスもあって、ユーザー目線での開発も怠りがち。
そもそも「利益をあげているのは広告業で、メディア事業は赤字続き」だったわけですし。
そんななか、藤田社長は、自らプロデューサーとして、メディア事業に取り組んでいくのです。
今後のサイバーエージェントを支えていく、他社と差別化できる部門は、これしかない、と信じて。
自らの進退を賭けて。
とにかく、採算はいったん無視して、多くの人に見てもらえるようにしよう、「ページビュー」を増やそう。
それが大目標となったのです。
その年、私が推し進めようとした芸能人ブログの強化案には、社内は大反対でした。
他社のブログサービスでは、眞鍋かをりさんや中川翔子さんのブログが、すごいページビューを稼ぎ出し、そのブログサービスの顔になっていました。
我々のアメーバ事業部には、このようなキラーコンテンツがなかったのです。
(これを強化していけばアメーバの知名度も上がっていくはずだ)
普段はアメーバ事業部に顔も出さない私が、現場に行って説明すると、
「ブログは一般人のためのものです!」
「そんなブログ、私は見たくありません!」
会議に参加した担当者から、そんな必死の抵抗にあいました。
マイページに芸能人ブログを宣伝するコーナーを作ることを提案すると、
「なんでこんなの入れるんですか! ありえません!」
「現場のことを何も分かっていないくせに!」
部署で働く女性社員が感情的になって怒っていました。
僕などは、これを読んで、あの『アメーバ』にも、インターネットの理想に燃えた、気骨のある社員がいたんだなあ!なんて、感動してしまったんですけどね。
それでも、「企業」として、この藤田社長の判断は正しかったのでしょう。
『アメーバ』に芸能人ブログが多い理由に関して、藤田社長はこのように説明しています。
芸能人の方たちが多くブログを開設してくれるようになると、華やかに見える分、誤解も招くようにもなりました。
それは、多額の謝礼や原稿料を支払っているから芸能人が集まるし、その支払いがアメーバの赤字をより大きくしている、というものでした。
これはまったくの誤解です。
芸能人ブログも他のユーザーと同様です。あくまでも芸能活動の一環として、もしくは個人的な趣味として、ブログを開設してもらっていたのです。
ではどうして多数の芸能人ブログが開設されたのでしょうか?
それは、私自身が人気ブロガーだったからこそ思いついた付加サービスが決定打になったのです。
それは、あまりにも悪質なコメントの書き込みには、監視体制を敷いてチェックして削除するサービスをつけたことです。
これには賛否両論がありますが、ネット上に悪質な書き込みをする人のパワーは本当に凄まじいものがあるため、止むを得ないと考えています。
タレントのイメージとか言論統制とかそういうことではありません。
ひどい誹謗中傷を受けたタレント本人が傷つき、精神的に追い込まれてしまうからです。
もちろんブログも止めてしまいます。当たり前のことですが、タレントも人間なのです。
この対処方法を提案したことで、事務所側も安心してくれました。
芸能界に知りあいが多いなど、藤田社長の「人脈」の広さもあったのでしょうが、芸能人たちが『アメーバ』を選んだ理由は「セキュリティ」にあった、ということのようです。
「報酬」よりも「誹謗中傷の削除」。
たしかに、人気ブロガーだった藤田社長ならではの発想だよなあ。
予想していたような「自慢話」ではなく、「ネットバブル後を生き抜いてきた、サイバーエージェントという会社とその社長の悪先苦闘の物語」として、なかなか興味深い本でした。
「インターネットが好き」「ネット企業に興味がある」人には、おすすめです。
- 作者: 藤田晋
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/04/15
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: 藤田晋
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/08
- メディア: 文庫
- 購入: 8人 クリック: 190回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
(というか、『起業家』の前の時期の話なので、まずこちらを読んでおいたほうが良いと思います)