琥珀色の戯言

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【読書感想】誰がJ-POPを救えるか? ☆☆☆


誰がJ-POPを救えるか?  マスコミが語れない業界盛衰記

誰がJ-POPを救えるか? マスコミが語れない業界盛衰記


Kindle版もあります(僕はこちらで読みました)。

誰がJ-POPを救えるか?マスコミが語れない業界盛衰記

誰がJ-POPを救えるか?マスコミが語れない業界盛衰記

内容紹介
2010年代になり、J-POPはさっぱり売れなくなってしまった。
売れているのは3つだけ。AKB48と嵐とK-POPだけである。完全なファンクラブによる組織票の世界だ。
いつから、こんな事態になってしまったのか?
それはなぜなのか?
近い将来、レコード会社はおそらくなくなるだろう。CDも消えるだろう。
本書には音楽業界人にとってタブーである事実もかなり多い。だが、誰かが言わなければ、このまま日本は「失われた30年」に向かって突き進んでいくことだろう。その原因はハッキリしているのだが、なぜか表だってメデイアで語られることはなく解決法の模索は先送りされてきた。現場はがんばっているのだが縦割りで横の情報の共有や連携がない。
今、真剣に手を打たないと、家電業界同様、音楽業界も外資(ワーナーやユニバーサルなど)に見限られシンガポールや上海に日本本社を移転されてしまうだろう。
J―POPがガラパゴス化しているのにいちばん気づいていないのが音楽業界の上層部たちだからだ。おそらくこの1~2年が勝負になる。


音楽業界の闇と利権構造をエンタメ界の生き証人である著者が解き明かす。


<目次>
第一章 ソニーがJ-POPを殺した
第二章 韓流がJ-POPを殺した
第三章 つんくがJ-POPを殺した
第四章 音楽著作権がJーPOPを殺した
第五章 歌番組がJ-POPを殺した
第六章 圧縮技術がJーPOPを殺した
第七章 スマホがJーPOPを殺した
第八章 世界の不況がJ-POPを殺した
第九章 マスコミがなくなる、がJ-POPを殺した
第十章 平成10年代生まれがJーPOPを救う


「誰がJ-POPを殺したのか?」
 正直、音楽ファン、J-POPファンではない僕にとっては、けっこう読みづらい本でした。
 著者は作詞家としての実績もあり、日本のエンターテインメント業界に詳しい人だと思われるのですが、「いかにも事情通ぶった語り口」と、「事実と個人的な恨みで書かれている部分が曖昧であること」、そして、「登場人物の名前をわざわざカタカナで書いているような、バブル時代っぽい文章」が、なんだかすごく感じ悪くって。
 内容は、けっこう面白いところもあるんですけどね。

 

 マツオカはエンタメの編集者なのでソニー・ミュージックにはかなり詳しいが、製造業ビジネスに関しては経済部の記者などに比べて、さほど造詣が深いわけではない。だが、そんなマツオカでも1995年、ソニーCEOがオオガ(大賀典雄)からイデイ(出井伸之)にバトンタッチされたあたりから雲行きが怪しくなったことくらいはわかる。
 1998年からソニー主催のゴルフコンペ「ソニーオープン・イン・ハワイ」を開催。日本国内から米国本土から、招待客と役員は夫婦招待でファーストクラスである。バブル時ならまだしも、2003年に株価が急落したソニーショックを挟んで、ハリウッドごっこをされての2012年のリストラ劇には誰もが閉口している。まさにユーザー、すなわちコドモ置き去りのセレブ気取りソニーである。
 1999年の犬型ロボット、AIBOへのこだわりもおかしかった。社内では悪評しきりだったし、役員の前での披露では必ず動かなくなった欠陥商品だ。だが強引に発売し、ソニー信者を惑わす結果となった。今、各家庭でAIBOはどうしているのだろうか。

 うーむ、ソニーの「迷走」は確かだと思うんですよ。
 iTunesへの楽曲提供の遅れも、著者が指摘しているように「致命的」でした。
 とはいえ、「オオガ(大賀典雄)」なんて書くくらいなら、最初っから「大賀典雄」って書けばいいのに、その気持ち悪いカタカナ書き、なんとかならないのかな……とか、そういうところで、読んでいて不快になるわけです。
 このゴルフコンペの話はしょうもないなあ、と思いますが、AIBOって、そんなにソニーにとってマイナスだったかなあ、とも感じますしね。
 僕は買ってないので、評価しようがないのですが、ソニーのイメージにとって、そんなにマイナスにはなっていないのではなかろうか。
 ソニー憎けりゃ、AIBOも憎い!
 とにかく、もうちょっといろんな個人的な感情を抑えて書いてくれていればなあ、と思うところ満載なんですよね、この本……
 著者の主張も「とにかく俺様や年長者、実績がある先輩を、もっと敬え!」みたいな感じで、辟易してしまうし。
 それはもっともな話ではあるんだけれど、年長者の側からそう言われてしまうと、「老害」なんて言葉が浮かんできてしまうのも事実です。


 この本を読んでいると、音楽CD(レコード)が突出して売れていた時代は、1990年代だけだった、ということがわかります。

 細々とテレビでも続いた歌番組はあり、80年代を通してレコード会社にアイドル歌手たちは存在してはいたのだが、その頃のトップアーティストでチャート1位の常連であった松田聖子(1980年デビュー)でさえ、シングル実売数は30万枚レベルだった。

 いまは「CDが売れない時代」だと言われていますが、CDシングルでミリオンセラーが濫発されていたのは、カラオケブームとトレンディドラマのタイアップに沸いた、1990年代だけ、なんですよね。
 むしろ、「あんなにCDが売れていた時代」のほうが、異常なだけだったのかもしれません。
 たしかに、アルバムも売れなくなって、「シングル曲だけを配信で購入する時代」ではあるけれども。


 ただし、CDは売れなくなっても、世界から音楽がなくなってしまっているわけではないのです。

 では印税とは、いくらくらい入るものなのか。
 それははじめから法律で定められている。小売の6%である。シングルCDが1枚1000円だとすると、1枚売れて、全員で60円である。たいていカップリング曲と2曲入りなので、別々の作詞家、作曲家計4名が書いているとすると、6分の1ずつ、一人10円、ということになる。(音楽出版社は両方にからんでいるので20円となる)。
 だからいまどき珍しい10万枚のヒット曲になったとしても、一人あたり10円×10万=100万枚にしかならない。おいしいのは、実はJASRACが鋭意、徴収してくれる二次使用料(テレビ、ラジオ、有線、カラオケ、実演など)である。これがヒット曲の場合、CD印税の4〜10倍になる。


 覚えておこう。CDの印税には、
1.録音使用料(レコーディング・ライツ、CDの売り上げ)
2.演奏使用料(パフォーミング・ライツ、二次使用料)
 の二つがあり、2がおいしい、のだと。
 だからカップリング曲(昔ならB面曲)ではダメなのだ。A面とB面で天と地ほどの差がある、といわれる所以である。

 これだけいつの時代もコドモたちは音楽を必要とし、毎日、音楽は流れ続けているのに、なぜこんなにレコード会社は不況なのか。
 調べてみると、実は二次使用料の量はそんなに変わらない。JASRAC使用料はリーマン・ショック以降漸減傾向にあるが、使用料収入、約1000億円超はこの10年間、堅持している。
 

 すなわち、この音楽産業不況下で、唯一、儲けが安定している部署が音楽出版社なのだ。不況でもデフレでも、世界中で音楽は流れ続ける。二次使用料は発生し続ける。

 つまり「CDが売れない」ことを業界は嘆いているけれども、そのことは、音楽業界にとっては、もちろん痛いけれども、致命的な問題ではない、ということなのです。
 あの「村祭りのカラオケ大会ですら、使用料を徴収する」という噂の悪名高きJASRACですが、考えようによっては、彼らが存在しているからこそ、音楽産業は成り立っている、とも言えるんですよね。
 作詞作曲まで全部自分でやっている人でもないかぎり、10万枚の大ヒットで100万円では、とうてい「割に合わない」ですよね。
 全部自分でやっていたとしても、音楽出版社の取り分を除けば、400万円か……


 まあ、いろいろ気になる表現は多いこの本なのですが、こういう事実を知ることができるという意味では、貴重な一冊ではありますね。
 「先輩を大事にしろ!」などと主張されている一方で、「初音ミク」とか「ニコニコ動画」などについても、ちゃんと知識があり、言及もされていますし。

 シングルの時代は、動画投稿サイト、ユーチューブでも同じことだ。1曲単位でユーザーは音楽ビデオを鑑賞する。動画鑑賞はパソコンで各自やってみればわかるが、3〜5分が限度だ。10分ものになると「長いな」と前頭葉の中の小さな自分がボヤき始める。
 中編、長編の需要は出てくるはずだが、3〜5分ごとのインターバルが今のところは必要だ。
 怖いのは、再生を示す下段の長い横棒の上を進む丸いボタンを、コドモたちが早送りするようになったことだ。リモコンのビデオ早送り、と同じ要領だ。
 K-POPの音楽プロデューサーを取材したときに「大切なのはユーチューブの早送りに対処すること」といわれて驚いたことがあった。

 ああ、これは僕にもよくわかる。
 あまりに多くの情報が得られるようになった現在は、「音楽ならいきなりサビやキャッチーなフレーズ、ニュースならいきなり本題」じゃないと、前置きの部分が、すごく面倒に感じてしまうのです。
 同じような人は、少なからずいるんじゃないかな。
 3分とか5分とかの曲でも、最初から最後まで、なかなか聴き通せない。

 
 正直、これを読んでいると「J-POPを誰が救えるか?」というより、「J-POPは滅ぶのが歴史の必然ではないのか?」という気もしてくるのですが、現在のコンテンツビジネスに興味がある人は、読んでみて損はしないと思います。
 いやほんと、けっこう読んでいて鼻につくところもあるんですけどね……

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