琥珀色の戯言

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【映画感想】キングダム 運命の炎 ☆☆☆☆

原泰久の人気漫画を実写映画化した大ヒット作「キングダム」シリーズの第3作。

春秋戦国時代の中国。天下の大将軍を志す少年・信(しん)は秦の若き国王・えい政(えいせい)と運命的な出会いを果たし、ともに中華統一を目指すことに。魏との戦いに勝利をおさめた彼らのもとに、秦に対して積年の恨みを抱える隣国・趙の軍隊が攻め込んでくる。えい政は長らく戦場から離れていた伝説の大将軍・王騎(おうき)を総大将に任命。王騎から戦いへの覚悟を問われたえい政は、かつての恩人・紫夏(しか)との記憶を語る。100人の兵士を率いる隊長となった信は、王騎から「飛信隊」という部隊名を授かり、別働隊として敵将を討つ任務に挑むが……。

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2023年映画館での鑑賞11作目。 平日の夕方からの上映で、観客は50人くらい。けっこう人が多いなあ、と思ったのですが、そうか、夏休みなのか。


fujipon.hatenadiary.com
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 昨年の夏に公開された『キングダム2 遥かなる大地へ』の続編。
 僕は小学生の時にNHKの『人形劇 三国志』を観たことがきっかけで歴史好き、とくに中国史好きになり、学校の図書館で『史記』をひととおり読んだこともありました。中国の春秋・戦国時代というのは、さまざまな名君、名将、個性的な人物がいて、読者としてはすごく面白い時代なのです。個人的には、劣勢の側を支える人に感情移入してしまうので、『キングダム』の時代なら李牧を応援したくなります。

 映画で描かれている部分を見ると、「秦の街を攻略して住民を皆殺しにした趙は横暴」に感じられますが、その前に秦は長平の戦いで勝った際に得た超軍の捕虜40万人を生き埋めにして殺したと言われています(劇中にもその話は出てきます)。
 趙軍からすれば、「やられたことをやり返しているだけ」。
(ただし、この40万人生き埋めについては、人数が多すぎて、当時の秦軍に物理的にもそんなことが可能だったかどうか疑問だとされてもいます)

 中国の戦国時代を題材にしたこんなスケールの大きい映画が、日本発でこうしてお金をかけ、豪華キャストで撮影され、大ヒットしてあの時代に興味を持つ人が増えた、というだけでも『キングダム』には感謝の気持ちで一杯です。

 その一方で、『1』から『3』まで、毎回、「圧倒的に不利な状況を信とその仲間たちが超人的な活躍で打開し、戦局を変えて勝利に導く」という、同じようなアクション映画になってしまっていることへの物足りなさもあるのです。
 今回の『3』は、『2』に比べて、山﨑賢人さんと清野菜々さんのアクションシーンも少なめで、アクション映画としてもパワーダウンしている気がしたんですよね。
 杏さんの「なんだか説明しづらいけれど、この人が演じていることによる謎の説得力」と、大沢たかおさんの王騎の登場シーンが多かったこと以外は、『3』で進化したところはないな、という印象です。

 そもそも、あんなふうに個人や少人数の特殊部隊の超人的な活躍頼み、みたいな戦術は、「名将」がやることじゃないだろう、と。
 アクションシーンが得意な監督さんなので、自分の個性を活かした作風ではあるのでしょうけど、僕は『さらば宇宙戦艦ヤマト』かゲームの『三國無双』かよ……と思いながら観ていました。
 馮忌とか、「もうちょっとしっかりやれよ趙の『名将』って設定なんだろ!」ともどかしくなってきたし。
 映画『300』で描かれたテルモピレーの戦いのような特殊な地形なら、少人数でもやりようがあるかもしれないけれど。
 「名将」っていうのは、個人の超人的な活躍に期待するのではなくて、戦場により多くの良質の兵を集め、効率的に運用できる人のはず。大沢たかおさんの王騎の存在感はすごいけど、今回はあまりにも無謀な戦法に思えて、引っかかりまくりです。
 しかもこの映画はシリーズ3回続けて同じパターンだし。
 
 最大公約数の観客が楽しめる、わかりやすいアクション映画にしたからこそ、これだけの観客を動員できているし、続編もつくれているのは事実でしょう。
 でも、この時代を題材にするのであれば、僕はもっとドロドロした権謀術数とか、個性的な将軍や文官たちの駆け引きも見たい。
 佐藤浩一さんの呂不韋とか、現時点では「佐藤浩一の無駄遣い……」と出てくるたびに感じてしまいます。もちろん、いずれは嵐の真ん中にいることにはなるのでしょうが、このペースで映画化され、毎回、同じような「信無双ゾーン」を見せられ続けるのであれば、佐藤さんの出番はいつになることやら……

 これはあくまでも「中国の戦国時代を舞台にした、ひとりの人間の成り上がり物語なのだ」ということなのかもしれません。
 それにしても、こんな面白い時代が舞台なのに、なんかもったいないなあ、と、僕の中国史フリーク成分がボヤいてしまうのです。

 冒頭の時代背景の説明で、ナレーションの音が他の音と重なって聞き取りづらかったのですが、観た映画館の音響の問題か、僕の聴力低下が原因なのか、と思ったんですよ。
 原作を読んだ人は理解しているとしても、映画でしか『キングダム』に接しない人にとっては、世界史で少し習ったことがある程度の時代であり、簡単にでも時代背景を説明しておく必要性はあるだろうから。
 ところが、ネットで他の人の感想をみていると、「あのオープニングの説明が聞き取りづらかった」という声がけっこうあったのです。
 あまりに丁寧にやりすぎるとテンポが悪くなる、という判断なのかもしれないけれど、僕は「なんか不親切で、雑だな」と感じました。
 登場人物の名前も現代の日本人には読み方が難しいものが多いので、せめてルビくらいはふってもバチはあたらないはず。
 「ウジョウショウ・リョフイ」という音を「右丞相・呂不韋」とすぐに変換できるのは、原作を読んだ人か歴史好きだけだろうし、説明的になるのを避けたのなら、せめてテロップを出すくらいの配慮をしようとは思わなかったのだろうか。
 呂不韋が「なんか偉そうな人」というニュアンスが伝われば、作品を楽しむことはできる、ということなのかなあ。
 
 観ていて、楽しい映画ではあるんですよ、本当に。
 でも、これから続編が作られるとしたら、毎回この「飛信隊無双」を見せられるのか?とは思います。
 信の地位が上がっていけば、そういうわけにはいかなくなるはずではありますが。

 これが実写映画の『キングダム』なんだから、気に入らなければ原作マンガかTVアニメ版を見ればいいのかもしれないけどさ。


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