琥珀色の戯言

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【読書感想】転売ヤー 闇の経済学 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品――需要が供給を上回ると見れば、品目を問わず大量に買占めては高額で売り飛ばす。それが「転売ヤー」だ。現代社会の新たな病理となりつつある彼らは、いったいどれぐらいの利益を得ているのか。グループのリーダー、日本で“仕入れ”母国で売り捌く中国人、個人で稼ぐ日本人など、あらゆる手口でひと儲けを狙う転売ヤーたちに密着、驚愕のカラクリをレポートする。

【目次】
第1章 ポケモンカード──1枚の紙切れが価値を持つ時
第2章 PS5──転売ヤーSくんの誕生
第3章 羽生結弦グッズ──「ファン心理」は格好の餌食
第4章 ディズニーグッズ転売集団──体力勝負の「仕入れ日」密着
第5章 クリスマスに現れる「転売サンタクロース」──転売ヤーSくんのその後1
第6章 デパート外商を転売スキーム化──高級酒でロレックスを買う
コラム 転売ヤーの問題点と法規制の現状(骨董通り法律事務所福井健策弁護士)
第7章 中国SNS転売事情──インフルエンサー転売ヤーの狭間
第8章 バザー行脚で転売品を掘り出せ──転売ヤーSくんのその後2
第9章 格安スマホ転売ブーム──法改正と転売ヤーたちのいたちごっこ
第10章 クレジットカード・電子マネー──不正利用が転売の原資に
第11章 プレミアム付商品券で買いあさる──転売ヤーSくんのその後3


 プレイステーション5(PS5)、長い間買えなかったんだよな、お正月に博多のヨドバシカメラで売られているというのをSNSで見て、雪の中買いに行ったらもう影も形もなかったこともあったな……と思い出しながら読みました。

 一昔前の「転売」といえば、人気歌手やイベントのチケットの「ダフ屋」がすぐに思い浮かびます。
 人気のコンサート会場などでは「チケットあるよ〜」と、ダミ声を張り上げていたおじさんがいるのが、当たり前の光景でした。
 最近は、ネットでのチケットのリセールやオークションが一般的になったおかげか、ダフ屋の姿も見なくなりました。
 取り締まりや販売制限が厳しくなったのと、一時期に比べて、配信サービスやコロナ禍の影響で、大会場でのコンサートやイベントの集客が落ちている、という話も聞きます。

 現在でも、自動購入BOT(「ロボット」の略:コンピューターで、人の代わりに自動的に実行するプログラムの総称)という、販売サイトの情報を収集して、購入手続きまで全て自動で行えるツールを利用して人気アーティストの公演を買い占める「転売ヤー」たちもいるのです。
 時計を確認しながら、秒単位で時間を合わせてチケット購入手続きをしようとしても繋がらず、ようやくつながった数分後にはすでに完売、という目に僕も何度もあっていて、これ、最初から1枚とかしか無いのでは?と疑問だったのですが、自動購入BOTと勝負しても、そりゃ勝てないよね……売る側も転売対策として、早い者勝ちではなく期間を決めて先行予約を受け付けて、その中での抽選という方式を増やしてきているようです。

 この新書で扱われているのは、チケットなどの以前からある「転売商品」ではなく、ポケモンカードやディズニーグッズ、レアなお酒などの「コレクター商品」の転売で稼いでいる「転売ヤー」たちなのです。

 レアなポケモンカードにものすごい価格がついていることは僕も聞いたことがあります。

 2021年には、世界に39枚しか存在しない「ポケモンイラストレーター」という希少カードが527万5000ドル(当時のレートで約5億8000万円)で購入されたことを筆頭に、出現率の高いレアカードは、数百万円や数千万円で取引されている。
 最近発売されたシリーズでも定価は1パック180円だから、転売価格の高騰ぶりがわかる。
 数百円で買える”紙切れ”が数千倍、数万倍の価値に化けることもあり、新作シリーズが発見されるたびにポケモンカードを扱う各地の量販店では純粋なファンと転売ヤーが行列を成し、警察沙汰になるようなトラブルも発生してきた。

 『ポケモン』の人気の高さもありますし、「宝くじ」のような感覚もあるのでしょうね。
 高価なレアカードが話題になるおかげで、また人気が上がる、ということにもつながっているのです。

 合計1200パック(6000枚)を2人がかりで仕分けし終えたのは、作業開始から1時間半後のことだった。若干のばらつきはあるが、金属探知機が反応したパックと、しなかったパックが1ボックスにつき、およそ半々という配分になった。若い男は反応しなかった方のパックの山を乱雑に元の箱の中にまとめると、次の作業に入る。
 取り出したのはデジタルスケールだった。彼らは金属探知機が反応したパックを一袋ずつ乗せ、0.001グラム単位までその重さを記録していくのだ。
「金属探知機によるサーチは簡単ですが、わかることは”そのパックの中にレアカードが入っているか否か”だけ。これからの作業は、レアカードが入っていることがわかったパックを、さらにSR(スーパーレア)以上のカードが封入されているかどうか、可能性の高さごとにグループに分けていく」(オガサワラ氏・仮名)
 オガサワラ氏によれば、R(レア)以上のランクのレアカードにはアルミコーティングが施されているぶん、非レアカードと比べて重くなる。さらに、ランクごとに重さも違うそうだ。逆に言えば、シリーズ内で同じランクのレアカードの重さは大体一緒。それぞれの実際の重量を彼らは把握しているのだという。
「つまり、パックの重さを測ることで、中のカードの組み合わせをおおむね推測することができるんです。仮にパックの中にレアカードが1枚だけ入っている場合は、その重さでどのランクのカードが入っているかはかなりの確率で判断できる。我々が狙うのは、転売市場で取引対象になるSR(スーパーレア)以上のランクのみ。この方法でSR以上が入っていると見込まれるパックが、Aグループ。もちろん、レアカードが2枚入っていて、そのうち1枚がSR以上ということもあり得るので、一筋縄には行かないけど、SR以上のカードが含まれるパックに他にもレアカードが入っていることは稀。だから重すぎるパックは、SR未満が複数入っている可能性が高いので、Cグループ。このどちらでもないのがBグループ」(オガサワラ氏)
 仰々しいようにも見えるマスクと医療用手袋をつけての作業は、汚れがついてパックの重さが変わることを防ぐためだったのだ。


 著者は、さまざまなレアグッズを対象とした「転売ヤー」たちを取材しているのですが、彼らの実際の仕事ぶりを知ると、「転売ヤーも気楽な商売じゃないんだな」と感心してしまうのです。
 「楽して儲かる」と噂になると、みんながそこに集まってきて、より効率化、大規模化しないと商売にならなくなっていく。
 転売対象になる商品にも栄枯盛衰がありますし。
 『妖怪ウォッチ』のメダルが流行った時期、僕も子どもに頼まれてだいぶ買いましたが、当時は行列に並んで買っていたあのメダル、いま、少しでも値段がつくのだろうか。
 PS5も、品薄だった時期は、転売で1台で何万円もの利益を生み出すことができましたが、今では店頭で普通に売られています。
 なんでソニーは、あの頃、僕が本当に欲しくてたまらなかった時期に、もっとたくさん作ってくれなかったのかなあ(半導体不足とか、いろんな事情はあったようですが)。

 この本の中で、PS5の転売業者に誘われて、PS5を並んで買って、業者に買い取ってもらったことをきっかけに大学生から転売ヤーになった人の話が出てきます。
 彼はPS5を売ったときに、「業者に流すのではなくて、自分で直接ネットなどで転売すれば、もっと儲かったのに」と後悔したのがきっかけで、転売ヤーになったとのことでした。
 その後、さまざまな儲かりそうな転売に手を出し、バザーやフリーマーケットで「不要品」として出品されているアウトドアグッズなどをターゲットにして安く仕入れてネットで販売し、利鞘を稼いでいるのです。

 あらためて考えてみると、PS5の転売で、1台3万円稼げたとしても、月に10台転売して、ようやく月収30万円、福利厚生なし。
 しかも、旬の商品は、そんなに長く続くわけではないし、売る側だって、人気商品には「おひとり様1台限り、自社のクレジットカードでの販売のみ」というような制限を設けて転売対策をしています。
 ディズニーの人気商品を転売するために、ディズニーランドに行って、「夢の国」の駐車場とショップを往復し、ひたすら商品を買い集めるだけの場違いな集団の一人になるのは、精神的にかなりつらそうです。
 大規模な転売業者の幹部にでもならないと、大きくは稼げないし、稼ぎ続けるためには、マメに情報収集をして、「いま、そしてこれから、転売で稼げるもの」を常に探し続けなければならない。
 
 「転売ヤー」は目の敵にされるし、それは当たり前のことだと思う一方で、実際はけっこうつらいし、割に合わない仕事なのではないか、とも感じました。
 普通に就職したほうが、よほど収入も生活も安定しそうです。

 ただ、ゲーム感覚というか、「いかに効率よく稼ぐか」を自分で工夫、立案して、試行錯誤していく、というのは、やってみるとけっこう面白いのかもしれません。
 一時、「ブログで稼ぐ」のがブームになりましたが、ほとんどの人は、GoogleアドセンスAmazonアフィリエイトの支払い基準額にも達することなく、こんなはずじゃなかった、と退場していきました。
 それでも、自分で工夫してPV(ページビュー)数を伸ばし、薦めた商品が売れていく、というのは、毎日職場に通って「給料」をもらうより、「やりがい」みたいなものを感じやすいのかもしれません。
 月給を定期的にもらっていると「自分がどれだけ稼いでいるか、貢献しているか」なんて、あまり意識しないし。

 正直、その「転売」にかける努力と熱意を「普通の仕事」に活かせばいいのに、とも思わずにはいられませんでした。
 まあでも、人間って、そういうものではありますよね。というか、そういうことに「生きがい」を感じてしまう人もいる。
 僕だって、「ブログ書く時間があれば、勉強するか論文書くかアルバイトにでも行けばよかったのに」って、自分に対して思います。
「楽して稼ごう」と思うほど、実際には「楽して稼げる状況」から遠ざかっていく、そういうものかもしれませんね。


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