- 作者:原田 マハ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/12/25
- メディア: 文庫
Kindle版もあります。
内容(「BOOK」データベースより)
ピカソやゴッホ、マティスにモネ、そしてセザンヌ。市美術館の珠玉のコレクションに、売却の危機が訪れた。市の財政破綻のためだった。守るべきは市民の生活か、それとも市民の誇りか。全米で論争が過熱する中、一人の老人の情熱と一歩が大きなうねりを生み、世界の色を変えてゆく―。大切な友人や恋人、家族を想うように、アートを愛するすべての人へ贈る、実話を基に描かれた感動の物語。
文庫で134ページの薄い本。気分転換に、あまり長くない物語を読みたい気分だったのです。
財政危機に陥ったアメリカ・ミシガン州のデトロイト市で実際に起こった、デトロイト美術館のコレクションの売却問題を題材にしたフィクションで、アートを愛する市井の人々と美術館員、コレクターの姿が描かれています。
豊かな時代ならば、多くの人が「アート」に目を向けるのも理解できます。
しかしながら、経済的に余裕がなくなったとき、アートは人々の命や暮らしよりも優先されるべきなのか。
たとえば、『モナ・リザ』は、人間ひとりの命よりも「価値がある」のか。
ひとりでは釣り合わないとしたら、何人分なのか。
そういう問いそのものがタチの悪い思考実験であることは承知しているのですが、僕は、そういうことをつい考えてしまうのです。
連日、市民からの問い合わせや苦情が殺到している。──ほんとうにDIA(Detroit Institute of Arts)のコレクションは売却されるのか? そうなったら市民はもうコレクションを見ることができなくなるのか? 売却されたら作品はどこへ行ってしまうのか? 美術館は閉鎖されるのか?
その一方で、債権者や市の年金受給者からの圧力も想像を絶するほど激しかった。──市は売却できるものは即刻売却して1ドルでも多く換金し、自分たちへの返済に充てるべきだ。だからDIAのコレクションを売却するのは当然の成り行きだ。デトロイト市はゴッホではなく年金受給者を救うべきだ。
債権者や年金受給者が困り果てているのに、DIAはこれからものうのうと作品を展示し続けるつもりなのか?
そんな声が続々とDIAに寄せられていた。
僕自身は「アートの味方」をしたくなりますし、この作品でのデトロイト市の選択と、それを実現した人たちの善意には感動したのです。
でも、アートって、それぞれの人によって、価値が全然違うのも事実なんですよね。
僕は原田マハさんの「アート小説」が好きだったのですが、最近、ちょっと素直に読めなくなってきているのです。
とくに、この『デトロイト美術館の奇跡』は、「事実に基づいた物語」であり、2013年から2015年に起こったことにもかかわらず、登場する主要人物は、ひとりを除いて、「(こういう人がいたであろう)架空の人物」なんですよね。
原田さんの作品のなかで、ゴッホやセザンヌ、モネのような実在の画家をモチーフにしたものに関しては、フィクションの要素が含まれていても、「その時代のことを描くには、ある程度推測や想像するしかないよなあ」と、なんとか納得できるのです(でもやっぱり、ゴッホを題材にした作品で、架空の日本人が重要な役割を果たしているのを読むと、気になるのだけれど)。
しかしながら、5年くらい前の話で、記録もたくさん残っているはずの事実を、わざわざ「架空の感動物語」に仕立てる必要があるのだろうか。
ノンフィクションにすべきだ、とまでは言わないけれど、あまりにも今の近い時代を題材にし、架空の人物とエピソードによって「作られた感動ストーリー」は、かえって、現実でデトロイトの人たちが起こした奇跡を大安売りしているようにしか思えません。
織田信長は本能寺の変のあとも生き延びていて、世界征服を目指した、なんていうような「架空歴史もの」みたいなのは好きですし、「時効」だと楽しめるのですが……
原田さんは悪いことをしているわけではないので、僕と相性が悪い、としか言いようがないのですが、この『デトロイト美術館の奇跡』は、最近の話だけに、よりいっそう「なぜ?」の思いが強かったのです。
【PS4】Detroit: Become Human Value Selection
- 作者:
- 出版社/メーカー: ソニー・インタラクティブエンタテインメント
- 発売日: 2018/11/21
- メディア: Video Game