琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】中高年ひきこもり ☆☆☆☆

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)


Kindle版もあります。

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)

中高年ひきこもり (幻冬舎新書)

内容紹介
内閣府の調査では、40~64歳のひきこもり状態にある人は推計61万人と、15~39歳の54万人を大きく上回る。中高年ひきこもりで最も深刻なのは、80代の親が50代の子どもの面倒を見なければならないという「8050問題」だ。家族の孤立、孤独死生活保護受給者の大量発生――中高年ひきこもりは、いまや日本の重大な社会問題だ。だが、世間では誤解と偏見がまだ根強く、そのことが事態をさらに悪化させている。「ひきこもり」とはそもそも何か。何が正しい支援なのか。第一人者による決定版解説書。


 「中高年のひきこもり」に関する報道や本は、よく見かけるようになってきたのです。僕もこれまで何冊か読んできました。親も高齢化していくなかで、社会とのつながりのきっかけも無くなっていく、中高年ひきこもりたち。

 この信書は、精神科医で「ひきこもり」について長年診療を続けてきた斎藤環さんによるものです。
 これまで僕が読んできた「中高年ひきこもり」についての本は、引きこもりを「社会問題」としてとらえており、「彼らは悪くない、社会のほうに問題があるのだ」という論調で語ろうとするものが多かったのです。
 でも、そういうジャーナリスティックな切り口の本に書かれていることは、いま、悩んでいる引きこもりの当事者やその家族がどうすればいいのか、ということよりも、「社会問題を追及する」というスタンスで書かれているのですよね。
 
 この『中高年ひきこもり』のなかで、著者は、2019年に起こった川崎市の通り魔事件や練馬の父親が引きこもっていた息子を殺害した事件は、ひきこもりとしては特殊な事例だったと述べています。

 では、典型的なひきこもりはどんな人たちなのか。その雰囲気は、「モンスター」とはまったくかけ離れています。長くつきあってきた私から見れば、ひきこもり状態にある人とは「困難な状況にあるまともな人」にすぎません。
 どんな人でも、職場や家庭の人間関係でつまずいたり、仕事で大きな失敗をしたり、学業成績が上がらずに苦しんだりなど、「困難な状況」に陥って気持ちが落ち込むことはあります。そのせいで人に会いたくなくなり、しばらく家に閉じこもることもあるでしょう。それは決して非常識な行動ではありません。誰にでもあり得る「まとも」な反応です。もともとひきこもりとは、ストレスに対するまともな防衛機制でもあるのですから。


 著者は、「ひきこもり」というのは、人間がおかれたひとつの状況であり、病気とイコールではないのだ、と繰り返しています。
 むしろ、相手を「ふつうの人間」として対応していくことが状況を変えるには有効なのです。

 2019年に発表された今回の内閣府調査まで、政府は15~39歳の若者だけをひきこもり調査の対象にしてきました。2016年に発表された前回の調査では、その年齢層だけで全国に54万1000人のひきこもり状態にある人がいると推計しています。
 これに今回の調査で判明した「40~64歳」のひきこもりを単純に加えると、その総数は115万4000人。これでも十分に驚くに値する数字ではありますが、実数には程遠いでしょう。
 私がそう考える根拠の一つは、これまでに各地で行われてきた自治体ごとの調査結果です。そちらは以前から、若者だけではなく中高年も調査対象にしてきました。そして、政府の調査よりも自治体調査のほうがはるかに高い数値を示しています。


 定義のしかたにもよるのでしょうが(著者は、(1)6か月以上、自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続すること。(2)ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいこと。としています)、日本には、少なくとも100万人
以上、半年以上社会参加をせずに自宅にひきこもっている人がいることになります。
 ただし、そういう人たちのすべてが、医療の対象になるわけではないのです。
 在宅ワークをしていて収入があり、コンビニに必要なものを買いに行くことはできる(家族となら旅行に出かけることがある)というのであれば、本人が困っていなければ、あえて「治療」する必要もありません。

 まずは、ひきこもりの原因にまつわる誤解。世間がひきこもりを「ただの甘え」と見なしやすいこともあって、親は「自分が甘やかして育てたのがいけなかったのかもしれない」と考え、「もうおまえの面倒はみない」「早く仕事に就いて自立しろ」などと厳しい言葉ばかりかけるようになるでしょう。家庭内での望ましい対話のあり方については後述しますが、これはほとんどの場合、むしろ逆効果です。
 そもそも、ひきこもりの原因やきっかけを、育て方を含めた家庭環境に求めても仕方ありません。もちろん、本人の「甘え」や「無気力」のせいにしてもしょうがない。これは、仮にそれらが原因であったとしても、それについては対策の立てようがない、という意味でもあります。
 ひきこもりの原因やきっかけとして重要なのは、むしろ学校や職場など家庭外での人間関係です。
 ひきこもりの入り口である不登校について、文部科学省の学校基本調査では「無気力」をその原因の一つと報告しているのですが、そうやって子ども自身に原因を求めるのは見当違いも甚だしいと言わざるを得ません。学校に行く気力を失ったのは「結果」にすぎないのであって、本当に問うべきは「無気力になった原因」です。
 では、何が不登校の本当の原因なのか。NHKが実施した不登校の当事者への電話インタビューでは、その二大要因が明らかになりました。「友人関係」と「教師との関係」です。前者が「いじめ」を含むことは言うまでもないでしょう。後者も、単に「関係がうまくいかない」という話ではありません。その多くは、教師によるパワハラやセクハラなどの「ハラスメント」です。
 子ども同士のいじめは広く問題意識が共有されていますが、教師による「指導という名のハラスメント」が学校で日常的に横行していることはあまり知られていません。体罰を含む暴力がときどきニュースになる程度です。


 親は「育て方が悪かったのではないか」と自責の念に駆られてしまうのですが、その原因はむしろ外部にある(もしくは、育て方について考えても仕方がない)のです。
 
 著者は、家族が「やってはいけないこと」を紹介しているのですが、そこに書かれているのは、いかにも「良かれと思って、やってしまいそうなこと」ばかりでした。

 まずお金の話からしておきましょう。「小遣いを与えなければ困って働くだろう」という発想では本人を不安にさせるだけなので、お金は与えるべきです。小遣いがないと、「仕方がないから自分で稼ごう」ではなく「仕方がないからお金を使わずに暮らそう」となってしまうのです。その結果、毎日ただ起きて食事をして寝るだけの「欲のない人」になってしまいます。
 ひきこもりを長期化させる要因としては、これがいちばんおそろしい。家で暴れている人以上に、欲のない人は「無敵」です。お金は欲望の種なので、それがないと欲望そのものも消えてしまいます。欲がなければ社会参加しようという意欲も生まれません。お金を与えない親は、それによって社会参加(就労)を促しているつもりでいながら、じつは「おまえは社会参加しなくていい」という逆のメッセージを出しているようなものなのです。
 とはいえ、小遣いを無制限に与えるのもよくありません。「月給制」にして、毎月決まった額を一回だけ渡すのがよいでしょう。金額は家庭事情によってケース・バイ・ケースですが、参考までに書いておくと、私が関わっている家族会の平均額は月2万8000円です。スマートフォンなどの通信費、服飾費、散発代、交通費などをこれで賄うのは決して楽ではありませんが、それぐらいで何とかやっていける人が多いようです。


 この本を読むと、ひきこもりの当事者を責めたり、プレッシャーをかけたりすることによって、働かせよう、外に出そうというのは逆効果になることが多いようです。
 まずは本人が安心して生活できる環境を維持しながらコミュニケーションをとっていき、信頼関係を築いてから、少しずつ外部につなげていく、というのが大事なようです。
 ちなみに、順調に進められた事例でも、支援を開始してから就労したり、外部と繋がれるようになるまで、平均2年くらいかかるそうです。
 以前、死亡事故が起こった戸塚ヨットスクールのような極端な方法は、ごく一部に劇的な成功例はあるとしても、うまくいかない可能性のほうが高く、信頼関係を決定的に損なってしまうのです。

 著者は、家族が支援者に相談するのが、引きこもるようになってから平均3年くらいかかっていることについて、「もう少し早い時期に相談してほしい」と述べています。それと同時に、支援者・医療者に対しても、「本人が来られない場合でも、家族だけでの相談を受けてあげてほしい」と提言しているのです。

 「社会問題」として、著者が「社会」を断罪するために、「中高年ひきこもり」を利用するというのではなく、臨床家として、「中高年ひきこもりに、身近な人たちは、どう対処していけばよいのか」を考える入り口になる内容だと思います。
 興味がある、もしくは、いまの自分に必要だ、と感じたら、ぜひ、読んでみてください。


ヒキコモリ漂流記

ヒキコモリ漂流記

アクセスカウンター