あらすじ
優勝者が後に有名なコンクールで優勝するというジンクスで注目される芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む栄伝亜夜(松岡茉優)、高島明石(松坂桃李)、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)、風間塵(鈴鹿央士)。長年ピアノから遠さがっていた亜夜、年齢制限ギリギリの明石、優勝候補のマサル、謎めいた少年・塵は、それぞれの思いを胸にステージに上がる。
2019年、映画館での22作目。
平日の朝からの回で、観客は20人くらいでした。
原作は直木賞を受賞した傑作なのですが、あの長さの小説をどのように2時間の映画にまとめるのだろう、と思っていたのです。
コンテストもの、というのはけっこう難しくて、みんなものすごく上手すぎでもヘンだし、下手では論外、になってしまいますよね。
そして、言葉では「いままで聞いたことがないような響き」「素晴らしい音色」的な表現をすれば(ベタではありますが)、あとは読者がそれを自身で具現化してくれるのだけれども、映像となれば、その作品に、それなりの「説得力」が必要です。
僕は日常に音楽がある人生を送ってはこなかったし、そもそも、そんなに音楽好き、というわけでもないのですが、この作品は、「音楽」が主役なんだということが伝わってきました。
4人の訳ありコンテスト出場者が、一次予選、二次予選、最終予選と進んでいくにしたがって、彼らが演奏している音楽が、明らかに「進化して」いくのです。
いや、僕のようなド素人にわかるくらい「成長」しちゃうというのは、リアルではないのかもしれないけれど、大きな舞台で人が劇的な成長を遂げる、というのは、ありそうですよね。
挫折して姿を消していた「元・天才少女」栄伝亜夜さん役の松岡茉優さん、大好きな女優さんなのですが、「なんか今回は主役なのに、ものすごく地味だな」と思いながら観ていました。
『ちはやふる』の松岡さんだったら、栄伝さんに「ウジウジしてんじゃないよ!」ってカツを入れそうでした。
でも、これだけ存在感を「消せる」というのは、逆にすごいことなのかもしれない。
キャストも、4人の参加者を中心に、「主役は音楽」(あるいは、音楽コンクールという世界)であることを前提として、自分をアピールする演技よりも、映画の観客に音楽を聴いてもらえる世界づくりを重視しているようにみえました。
原作を活かしてはいるけれど、上映時間もあって、それぞれのキャラクターの背景や内心については、最低限の描写に留められています。
それがこの映画にとっては、かえって良い方向に働いているというか、淡々とコンクールが進行していくことに、なんだか心地よさを感じるんですよね(正直、原作未読の人にとっては、ありがちなキャラが説明不足なまま深刻ぶっている、と思われそうな気もしますが)。
肝心の演奏は、聴けそうで、なかなか聴かせてもらえない。
その「もしかして、実際に演奏するシーンを流すと、『イメージと違う』とか言われるのを恐れていて、「あえてメインキャラには演奏させない作戦」の映画なのか、という不安は、クライマックスで見事に打ち破られます。
これが、「どの程度の演奏」なのかはわかりません。
クラシック・マニアにとっては、あれこれ言いたくなるものなのかもしれない。
でも、僕はすごいカタルシスを感じました。
ああ、音楽って、いいなあ、すごいなあ、って。
先週観た『ジョーカー』が、観たあと、しばらく何もしたくなる「ダウナー系」の映画だとしたら、この映画『蜜蜂と遠雷』は、上映中はコンクールのドキュメンタリーっぽい静かな作品なのに、観終えたあと、「久しぶりにクラシックのコンサートに行ってみたい!」「自分も何か演奏してみたい!」という「アッパー系」なんですよ。
いくつか気になるところはあって、審査員とか観客って、出場者の演奏中にこんなに私語が多いのだろうか、とか、斉藤由貴さん、すっかり「汚れキャラ」になってしまったなあ、とかはあるのですが、観終えて、拍手したくなりました。
斉藤由貴さん、例のパンツ仮面事件以来、かえって仕事の幅を広げたような気もしますね。
この映画、環境ビデオ(ちょっと古い?)的に、流しながら何か他のことをやるのに使えそうです。
「キャラクター」を描く映画としては物足りないかもしれませんが、「音楽」を聴かせる映画としては、けっこう良い作品だと思いました。
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