琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】いやよいやよも旅のうち ☆☆☆

いやよいやよも旅のうち (集英社文庫)

いやよいやよも旅のうち (集英社文庫)

私の脳内をも揺るがす迷旅行記! 高野秀行(ノンフィクション作家)
ぐうたらエッセイスト、日本をいやいや旅してみた。 いきなり文庫!

ビールとテレビさえあればいい。そんなぐうたらエッセイストが、いやいや日本全国を巡る旅に。札幌(地元)から那覇(遠い)まで、一道五県を舞台に、死ぬまでしたくないことに挑戦してみました。生まれて初めての犬ぞりにジェットコースター、青木ヶ原樹海探検に、パツパツの水着でシュノーケリング……果たしてキミコさんは無事に旅を終えられるのか。ご当地ネタも満載の、爆笑必至の旅日記。


 著者の北大路公子さんといえば、インドア系というか、めんどくさいことはしない系のエッセイスト、というイメージがあったのです。
fujipon.hatenadiary.com


 この本のカバーにある、北大路さんのキャッチコピーは、【40代、独身。好きなもの「昼酒」。座右の銘は「好奇心は身を滅ぼす」。】なんですよ。
 僕はいつも「こんなに何もしないで、ただ日常を過ごしているような人なのに、エッセイが面白いっていうのはすごいな」と感心していました。
 ところが、今回は「旅行記」。
 うーむ、さすがに日常日記もネタ切れなのかなあ、と、思ったのです。
 「こういう、旅慣れていない人の旅行記だからこそ、面白いかもしれない」という向きもあるのでしょうし、確かに著者と編集者の掛け合いは妙に癖になる気がするのだけれど、正直なところ、「ありがちな作家と編集者の旅行コミックエッセイを文字だけでやると、こんな感じになるんだろうな」という印象でした。まあ、北大路さんの「新境地」としてはありなのかもしれないのですが、北大路さんのこれまでの作風を知らない人だと、単なる「薄い旅行エッセイ」だと思うのではなかろうか。

 この本は、そんな私が担当編集者に連れ出されてあちこちを回った記録である。「あちこち」といっても、ジャングルを探検したりエベレストに登ったりという壮大な話ではない。遊園地に行ったとか、市内の動物園を訪問したとかだ(本当)。いやあ動物園、冬だったので雪が多くて大変でしたよ。
 もう少し正確に言うと、我々が訪ねたのは一道五県。北は北海道(地元)から南は沖縄(遠い)までを、「嫌だなあ」と思いながら歩いた。まさに『いやよいやよも旅のうち』である。このタイトルは、当初「旅嫌いの私を旅に連れ出す」という意味だったはずだが、いつのまにか「普段なら絶対にしない嫌なこと・面倒なことを頑張ってやってみよう」という趣旨に入れ替わっていた。「何も頑張りたくないんですよ、疲れるから」との私の訴えはまったく通らなかった。
 そんなわけで、本の中の私は始終「嫌だなあ」と言っている。「ジェットコースター乗りたくないなあ」「自転車の乗りたくないなあ」「海に入りたくないなあ」。あと「原稿書かずに原稿料がほしいなあ」ともしょっちゅう言っている。心情を素直に吐露するのが旅日記の醍醐味とはいえ、煩悩までもがだだ漏れである。
 もちろん、よかったこともあった。私は動いたら死ぬ動物ではないかという、密かに抱いていた疑いが晴れたことだ。全然死なない。沖縄で海に入った時は一番元気で、あまつさえ楽しそうに見えたという。不思議だ。


 僕は本当に出不精というか、「旅行は計画しているときだけが楽しいもので、キャンセル料がかからなければ、ワクワク感だけを味わったあと、全部当日にキャンセルできたらいいのに」とか思っているのです。
 でも、実際に行ってみると、けっこうテンションが上がって、「案外ひとり旅とかもできるじゃん、やるな自分!」とアクティブに動き回ることもあります。
 この本に関していえば、「北大路さんは、旅に出ても北大路さんだなあ」と安心する面もありますし、「編集者まかせ」の部分が大きいことで、そういう「旅に出ることで新しい自分を発見する」という要素の少なさも感じました。

 豊平狭温泉は、源泉かけ流しの豊富な湯と「インドカリー」が人気である。なぜ温泉でカレーなのかはわからないが、そういうことになっている。賑わうレストランでチキンカレーとビールを注文。午前中の大活躍もあって完食できるだろうと思ったが、わりとすぐに満腹になってしまった。こっそり残したチキンを元祖K嬢に見咎められ、「食べ切れないのにどうしてチキンカレーなんて頼んだんですか。そもそも北大路さん、肉あまり食べないじゃないですか」と叱られる。「最初に言ってくれたら私が食べたのに!」との熱い訴えを聞いて胸をよぎるのは、「これがタガメの素揚げでも同じことを言っただろうか」との思いだ。
 残したタガメを前に、元祖K嬢が言う。
「そもそも北大路さん、虫食べないじゃないですか!」
「そりゃそうだよ!」
 まあ、話はあっさり終わってしまうが、とりあえずチキンとタガメは平等に扱ってほしいところである。


 「昆虫を食べる」という企画が、北海道の「冬季休業」で無しになったり、「怖そうだから、どうしてもイヤだ」と主張したことによって、富士急ハイランドのお化け屋敷に行くのをやめたりとか、「こういう企画でも、それで良いんだな」という「ぬるさ」は、ある意味斬新ではあるんですけどね。こういうエッセイって、「やりたいことを徹底的にやる」か「やりたくないことを無理にやらせる」というパターンが多いわけで、「どうしてもやりたくないことはやらない」というのは珍しい。
 この「やりたくない」北大路さんと「やらせたい」編集者との駆け引きが読みどころなのかもしれません。

「観覧車に乗りましょう」
 彼女によると、遊園地デートで壊れかけたカップルは、観覧車で仲を修復するのだそうだ。たしかにこの一日で私たちの仲もかなり危うくなっている。カップル用のゴンドラがあるというので、復縁のためならと出向いたところ、そのゴンドラが凄かった。ハート型で座席は横並び、おまけに透明である。透明。ばかじゃないのか。カップルは物陰に隠れていちゃいちゃしてこそのカップルだろう。スケスケにしてどうする。しかし私の怒りをよそに、スケスケのまま地上からどんどん遠ざかる。怖くない怖くないと自分に言い聞かせても、非常に怖い。ちょっとでも動くとバランスが崩れて観覧車ごと倒れてしまう可能性があるので、微動だにせず中空を凝視していると、元祖K嬢が外を指差しながら話しかけてきた。
「あの絶叫マシン乗りますか?」
「いやだよ」
「どうしてですか?」
「疲れたから」
「じゃああっちはどうですか?」
「いやだよ」
「どうしてですか?」
「疲れたから」
「あ、ほら後ろ向いてください」
「いやだよ」
「どうしてですか?」
「怖いから」
「大丈夫ですよ。ほらほらほら」
「立つなよ」
 と、まったく復縁の兆しは見えないのであった。


 ちょっと行数稼ぎっぽくない?


 全編こんな感じの旅行記なのですが、いまの外出自粛の世の中には、かえって心地よくもあるんですよね。
 いつでも出かけられると思うと出不精になるけれど、「出ちゃダメ」と言われると、けっこう息苦しい気がして、やりなれない散歩とかしてしまう現在の僕には、「ちょうどいい温度の読み物」でした。


ロスねこ日記

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