琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】日本の美しい水族館 ☆☆☆

癒しと驚きが共存する水中景観を、美麗な写真でめぐる旅。
知的好奇心を刺激する、空間美を楽しむ新しい水族館ガイド!

幻想的な水族館の写真がSNSでも人気の銀鏡つかさ氏が、全国44の水族館を撮り下ろし写真で紹介!
圧倒的な美しさと臨場感あふれる写真で、水族館の“雰囲気"を存分に伝えながら、各種水槽、建物自体や順路などのつくり、コンセプトの面白さを解説します。
また、それぞれの水族館でしか見られない珍しい生きものや、トビウオやサンマなど身近だけれど実はレアな展示、空飛ぶペンギンやイルカと遊べる浮島、水面から眺めるジンベエザメなど面白い展示方法も紹介。
今まで知っていた水族館もより楽しく、知らなかった水族館にも行きたくなること必須。眺めて楽しい、本書片手に水族館を巡ればもっと楽しい、水族館本の大定番になること間違いなしの1冊!


 僕は水族館が大好きなので、この本、けっこう期待して手に取ったのです。
 とりあえず一通り、字が小さくて老眼には辛いな、と思いつつ眺めての感想としては、「インターネット時代にこれを税込1980円で売られてもなあ」でした。
 全国で44カ所の水族館が紹介されていて、海遊館美ら海水族館名古屋港水族館などのメジャーどころから、高知の室戸岬にある廃校となった小学校を改修して作られたという『むろと廃校水族館』などの面白いコンセプトの水族館まで、バラエティに富んだ内容ではあるのです。

 僕は仕事などで遠出したときに、地元の水族館や美術館に足を伸ばすのが新型コロナ前までの楽しみだったのですが、ここで紹介されている水族館の44カ所のうち、14カ所に行ったことがあります。福井県越前松島水族館、そういえば大学の最終年に行ったなあ、初めて一人旅をしたときだったなあ、ガラスの向こうで飼育員のお姉さんが手を振ってくれたことがあったな、と思い出しました。

 最近の水族館は、展示方法そのものがアート寄りというか、「インスタ映え」するような感じになっているものが多いんですよね。
 何年か前に「アートアクアリウム」という、たくさんの金魚をアートっぽい背景で見せる、というイベントに行ったのですが、その幻想的な美しさとともに、弱った金魚が少なからず浮かんでいたのをみて、「この照明がガンガン当たって、魚が狭いところに密集しているような環境は、金魚にとってはあんまり心地よいものではないだろうな」とも考えずにはいられなかったのです。

 この『日本の美しい水族館』、あくまでも「各水族館の構造や見せ方の工夫と、特徴的な展示方法」にスポットライトをあてたものです。
 要するに「魚の写真を見たい人」向けではありません。
 水槽を俯瞰した写真に「イワシと混泳するシュモクザメ」とか、「悠々と泳ぐジンベエザメ」とか、ふきだしのようなタグが付けられているのですが、こんなタグがついていないと何の魚が写っているのかわからないような写真に、意味があるのだろうか?
 説明がなくても「悠々と泳ぐジンベエザメ」だと感じる写真を見せてほしい。
 
 「全国の面白い水族館事典」として利用するには、44カ所というのは少なすぎるし、かといって、水族館の建物の写真集として楽しもうにも、写真は「ああ、こんな雰囲気なんですね」というのがなんとなく伝わってくる、小さくて迫力不足で、文章を補わないと伝わらないような写真ばかり。解説は公式ホームページに書いてありそうな売り文句ばかりだし、インパクトのある魚の写真はほとんど(いや全く)ない。
 まあ、読んでみて、1カ所でも「次に行ってみたい水族館」が見つかれば、こういう本は元は取れたような気分にはなるのですが、「水族館って、どこもこんなものだよな、最近はクラゲとかジンベエザメばっかりで」という感じなんですよ。実際は、ジンベエザメは「ばっかり」って言うほどたくさんの水族館にいるわけではないけれど。

 おそらく、著者は個々の魚や展示よりも、「水族館という施設の構造やそれぞれの見せ方の違い」に興味があるのだと思います。
 それはそれで、水族館へのアプローチの一つの方法だとは思うのです。鉄道マニアに「乗り鉄」がいれば「撮り鉄」もいるように。
 ただ、僕はこのくらいならネットで水族館サイトを見れば十分だし、あまりそそられないというか、「ここに行ってみたい!」という気分にもなりませんでした。
 水族館の構造やコンセプトを専門的に語っている、というほどの建築的なマニアックさもないし、写真も新築マンションのチラシの内装みたいな平板さ。

 悪口ばかり書いてしまいましたが、「水族館という空間や雰囲気が好き!」という人には、「こういうのが欲しかった!」という本なのかもしれません。
Amazonのレビューの中には、そういう意見もけっこうあります)
 魚をちゃんと見せようとすれば、一つの水族館だけで、一冊の本になってしまうのだろうし。
 
 「展示作品の写真がない、外観のみのさまざまな美術館の写真集」に魅力を感じる人は、この本も好きになれるのではないかな。


fujipon.hatenablog.com
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