Kindle版もあります。
人口減少、災害対策、DXの発展、医療財政、教育システム、宗教法人、皇室の存続、
――日本は長い間、解決すべき問題を抱え続けてきてしまった。
世界が再び混迷の時代に突入する中、それらは「時限爆弾」として我が国を脅かす。
本書では各分野を代表する十四人のプロフェッショナルと本気で語り合い、
日本の、そして個人の生存戦略を考える。問題を解決する時間はもはや残されていないのだ。
(目次)
はじめに
新井紀子 DXで仕事がなくなる時代をいかに生き抜くか
藤井 聡 巨大地震とデフレが日本を滅ぼす前に
三浦 展 男性は結婚できると中流意識が持てる
中谷 巌 資本主義にいかに倫理を導入するか
河合雅司 人口減少が進む日本で「戦略的に縮む」方法
柳沢幸雄 毎年1000人海外へ「現代の遣唐使」を作れ
岩村 充 変容する資本主義と経済成長時代の終焉
菊澤研宗 人間は「合理的」に行動して失敗する
君塚直隆 現代の君主制には国民の支持が不可欠である
八田進二 「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考
戸松義晴 仏教は「家の宗教」から「個の宗教」へ向かう
清水 洋 「野生化」するイノベーションにどう向き合えばいいか
國頭英夫 財政破綻を目前に、医療をいかに持続可能にするか
五木寛之 「老大国」日本が目指すは「成長」でなく「成熟」
佐藤裕さんと14人のさまざまなジャンルのプロフェッショナルたちとの対談集です。
『週刊新潮』に連載されていた「佐藤優の頂上対決」を新書にしたものだそうなのですが、掲載されていた対談がすべて掲載されているのか、ダイジェスト版になっているのかは、僕は週刊誌の連載は未読なのでわかりません。
さまざまなジャンルの人の観点から「日本の現状への危機意識」が語られるのは興味深いものではあったのですが、ボリューム的には、ひとりひとりの話が「あれ?もうこれで終わり?」という感じではあったのです。
その一方で、いろんな専門家の「おいしいところだけをつまむ」ことができる対談集でもあると思います。
『未来の年表』などの著書で、人口が減っていく日本社会の変化を描いている河合雅司さんは、佐藤さんとこんな話をされています。
佐藤優:日本のGDPにおける貿易の割合は14%くらいで、韓国の半分以下です。だから明らかに日本は内需型の国です。
河合雅司:人口が減るだけでなく、2042年までは高齢化も進みますから、一人当たりの消費量や消費する品目が変わってくる。だから実数以上にマーケットは縮んでいきます。
佐藤:例えば、昨今のタワーマンションブームなどは、非常に危ないわけですね。人口が減るのにどんどん造っている。
河合:東京の郊外に行くと、200万〜300万円で買える中古マンションがたくさんあります。要するに値がつかなfくなっている。
佐藤:十分、通勤圏として考えられる場所でも、そうした物件がある。
河合:それがこの先、都心でもたくさん出てきます。もう受給のバランスが崩れている。それなのに不動産神話は強固で、いまでも6000万円、7000万円と借金してマンションを買っている。価格が維持されるためには次の世代にまた需要があることが前提です。でもその次の世代の需要は激減していくんです。
佐藤:不動産業者はわかっていて、売っているんでしょうね。
河合:もちろんわかっているでしょう。今回のコロナでみんなV字回復を願っていますが、私はV字回復する必要はないと考えています。コロナによっていま私たちは、需要が消失した人口減少後の世界を目の当たりにしているんです。V字回復したとしても、重数年後には人口減で需要が減り、同じ状況になる。
佐藤:コロナで縮んだ需要をあえて戻さず、新しい人口減の市場との均衡点を探していくということですね。
それでも住みたい、タワーマンション、なのでしょうか?
僕自身はずっと地方都市で生活していて、たまに東京に出張で来ると、こんなに店に入るのに行列ができていて、車で移動できずに満員電車に乗らなければいけないところで生きていくのは無理だなあ、と思うのです。
でも、Twitterを見ると「田舎で生活するなんて考えられない。地方都市なんて退屈でしょうがない」という人たちもいる。
どちらが正しい、というよりは、これまでの生育歴や性格による違いなのでしょうし、僕も一度くらいは「東京に出てみたかった」という気持ちはあるのですが、今のネット社会であれば、僕の嗜好や経済力レベルでは「Amazonがあって、好きな本とかが買えて、たまに博多で舞台とかを観ることができれば十分」なのです。
タワーマンションなんて、マンション内で移動するだけでもめんどくさそうだし。
資産価値として考えれば、確かに、ごく一部のすごく立地が良いマンション以外は、人口減によって空き家が増え、不動産価格は下がっていくのは当然のように思われます。
僕は最近、自分自身の人生を振り返りながら、考えずにはいられません。
「将来のための貯蓄」とか「資産になるから」とか言うけれど、生活をしている人間にとって、考えられる「未来」「将来」って、せいぜい、自分の子どもが生まれてから大人になるくらい、20年先が限界ではないか、それも「最低限の貯蓄」レベルだよなあ、と。
タワーマンションでの生活が「いまの憧れ」だから、あれこれ理由をつけて買おう、住もうとしてしまうけれど、40年、50年先のことなんで考えても仕方がない。仮に子どもに相続するつもりだとしても、子どもは多分、現金のほうが嬉しいはずです。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者である新井紀子さんとの対談では、こんな話が出てきます。
佐藤優:北関東のコンビニの店先でたむろしている子供たちはどうでしょう。彼らの近未来はあまり変わらない気もします。
新井紀子:私たちの時代の不良というのは、体力がある子が多かった気がします。ケンカが強くて根性があって、ある特定の規律には非常によく従う。そおういう子たちは人手が足りない鳶職といった、機械化できない高度技術が必要な場所で働けました。でも最近の、オレオレ詐欺の出し子で捕まるような青少年は、すごく体力がない。少年院で「クーラーのある部屋じゃないと働けない」みたいなことを平気で言います。彼らに鳶職は無理です。
佐藤:確かにそうですね。私も埼玉の鳶職の親方を何人か知っていますが、若い鳶は減っているそうです。余談ですが、その原因の一つはライバル業種があるからで、それはホストクラブです。ホストの方が稼げる。その業界も上下関係がきっちりしていて、文化として似ている。
新井:なるほどねぇ。
佐藤:一方で開成や灘、あるいは桜蔭といった超難関中学校に合格する子は、中学受験の時点で大人に匹敵する読解力を身につけています。
鳶職とホストが「仕事」として天秤にかけられている時代なのか……と驚いたのですが、以前、どうせ人の下の世話をしたり、認知症の高齢者にセクハラ的なことをされるのなら、稼げる仕事の方がいい、と、看護師を辞めて風俗で働いている女性の話をネットで読みました。どうせキツイ人間関係や状況の中で働くのなら、稼げる方がいい、というのは合理的なのかもしれません。
浄土宗の住職である戸松義晴さんは、こんな話をされています。
戸松義晴:私はこうした日本独特の風土から、アマゾンに「お坊さん便」が出品されてくるのだと思っています。
佐藤優:葬式の値段を表示して、クリックすればお坊さんがやってくる、でも、いまはなくなりましたね。
戸松:ええ、全日本仏教会から葬儀業者に対して申し入れたのは、特に他に比べて影響が大きいアマゾンから取り下げてほしい、ということでした。業者のサイトでは僧侶手配サービスとして値段を表示して今でも続けています。アマゾンではお坊さんが見つからない時、「在庫切れ」と出ていたんですよ。あれは嫌でしたね。
「在庫切れ」は確かにひどい。
Amazonではこのサービスは無くなったそうなのですが、業者のサイトでは今でも同じようなサービスが行われていて、価格も明示されているそうです。
利用者側からすれば、檀家として日頃からお寺やその住職と付き合いがある、という人ばかりではないでしょうから(というか、今の時代は、そういう人の方が少ないのではなかろうか。僕もそうですし)、こういうサービスは便利だし、ニーズがあるのは間違いないんですよね。
でも、「在庫切れ」なんて表示されるような存在に、「信仰心」を抱けるのか?
そもそも信仰心なんてどうでもよくて、外部に対して形式を整えればそれでいいのか?
最近は、簡略化された「直葬」が選ばれることも多くなっていますし、お寺の経営も厳しくなっているそうです。
「インテリジェンス」というよりは、対談の中に出てくる、それぞれの専門の世界についての、佐藤さんと対談相手の「雑談的なもの」に僕は魅力を感じた本でした。
もしかしたら、その「雑談的なもの」こそが、「インテリジェンス」なのかもしれませんが。