シニアひとり旅 インド、ネパールからシルクロードへ (平凡社新書)
- 作者: 下川裕治
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2019/06/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
シニアひとり旅 インド、ネパールからシルクロードへ (平凡社新書0914)
- 作者: 下川裕治
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2019/06/16
- メディア: Kindle版
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内容紹介
ビザの煩雑さ、移動手段、衛生面や治安に対する不安など、かつて、インドや中央アジアへのひとり旅はハードルが高かった。だが、旅がしやすい地域となったいま、この地を再び訪れると、若い頃にはわからなかった人情や歴史の深さに心がひきつけられる。混み合う列車の旅でインドの人々の優しさに気づき、シルクロードのバザールでは、悠久の時の流れに思いを馳せる――。
肩肘を張らずに次なるアジアへ、シニアならではの旅に出かけよう。
僕自身は、若い頃にバックパッカーとして世界を放浪してみたい、と思ったことはほとんどないし、クーラーが効いている部屋のなかで、本を読んでパソコンをいじっていれば幸せ、という人間だったのです。
その反動からか、貧乏旅行とか冒険の話を「読む」のは大好きなんですよね、ずっと。
読んでいるだけでお尻が痛くなりそうな海外での過酷なバスや鉄道の旅を続けている著者の本は、書店でみかけると、つい買って読んでしまうのです。
自分では将棋を指すわけではないけれど、コンピュータによる「評価値」をみながらネットでの将棋中継を眺める、という「観る将」という人たちが存在するのですが、僕はさしずめ「読みバックパッカー」といったところでしょう。
この本のなかで、著者は、「定年後や子育てに一区切りつき、長い旅に出ることが可能になったシニア層」に向けて、ひとり旅でのインドをはじめとする「ちょっと難易度が高そうな目的地」を紹介しています。
旅の体験記だけではなく、その土地での注意点や交通手段などにも触れられていて、タイトルにある地域に行ってみたい人は、目を通しておいて損はなさそうです。
もっとも、著者はかなり「ひとり旅スキル」が高く、経験も積んでいる人なので、同じことをやるのは、初心者には難しそうではありますが。
僕なんか、空港の金属探知機チェックに引っかかっただけで、パニックになってしまうので。
日本人バックパッカーの間でも、「アジアを歩くなら、まず、カオサンに行け」といわれた時期もある。ここへ行けば、アジア旅のさまざまな情報が手に入った。安い日本食の食堂も何軒かあった。カオサンは、日本人バックパッカーの聖地だった。
しかしここ数年、カオサンにやってくる日本人は一気に減ってしまった。バンコクでは、カオサン以外に多くのゲストハウスができたことも一因だが、やはり日本の若者が旅から離れていってしまったことが最大の原因かと思う。
かつて、日本人バックパッカーがたむろしていた一画にも行ってみた。日本人で埋まっていたゲストハウスの何軒かは、シャッターが閉められていた。
なんだか複雑な気もちで、カオサンの路地裏を歩いた。歩き疲れ、ゲストハウスの一階にある店に入った。
カオサンの表通りは、欧米人やタイ人の若者でにぎわっていた。話す声が聞こえないほどのレゲエが店に響いていた。しかしそこから十分ほど歩いた、その路地裏は、ほっとするほど静かだった。テーブルを埋めているのは、欧米人のシニアばかりだった。皆、ぼんやりとビールを飲んでいる。
この本を読んでいると「日本の若者の海外旅行離れ」みたいなものが伝わってくるのです。
海外のブランドショップで「爆買い」する日本人が批判されていた時代もありましたが、いまは日本が「爆買い」される側になりました(というか、中国人による「爆買い」も、もう下火になっているようです)。
日本人にとって「異境」であり、カルチャーショックを受けるほどの経済格差があった地域も、どんどん豊かになってきていることがわかります。
ハリドワールというヒンドゥー教の聖地に、年に一回向かう日本人の知人が口にした言葉を思いだした。彼はヨガ教室に通っていて、そこが主催するヨガツアーに参加していた。
「ハリドワールはガンジス川に沿った聖地だから、インド各地から観光客がやってくる。ここで沐浴をするのが習わしなんですが、若い人が最近、やらないんです。彼らはヒンドゥー教徒だから、沐浴の意味は知っています。ただ、川の水が汚いっていうんだそうです。たしかにバラナシあたりを流れるガンジス川は汚れてますが、ハリドワールは上流ですから、かなりきれいです。いまの若者はシャワーでしか水を浴びたことがないようなんですね。宗教的な儀式が、生活習慣の変化のなかで崩れはじめているんですよ」
サリーを捨ててスカートに走り、川での沐浴を嫌う。そんな若者がインドの中間層を中心に増えているようだった。
その世界に入り込めば、インドの旅はずいぶんとハードルがさがってくる。紙はなく、桶の水を尻に流して洗うインド式トイレに苦戦することもない。中間層のインド人世界のトイレは、洋式の水洗である。彼らの清潔感はかなり高くなってきている。宗教的な習慣が前面に出てくることもない。カフェに入れば、本格的なコーヒーが待っている。道端に座って、素焼きのカップからチャイを飲む世界とは違うのだ。
もちろん、日本人がイメージする、「昔ながらのインド」が残っている地域もあるそうですが、全体としては、世界はどんどん「平準化」しているのです。
若者の海外旅行離れには、「どこも一緒」というか、良くも悪くも、どこに行ってもそんなに変わりない、という感覚があるのかもしれません。
昔に比べて、自由に使えるお金も、普通に働いていれば給料が上がっていくという確信もない時代だし。
この本を読んでいると、日本では「世界はどんどん豊かになってきている」という情報が、アップデートされていないようにも感じます。
その一方で、世界にはまだ、いまの日本で生活していると、想像もできないような状況に置かれている人たちもいるのです。
新疆ウイグル自治区の現状について。
<鉄格子>
これはカシュガルの街に限ってのことだが、すべての店舗に鉄格子がとりつけられている。食堂や銀行、雑貨屋、洋品店、靴屋……と、とにかくすべての店に鉄格子なのだ。これは、ウイグル人の暴徒が入ることを防ぐ目的だといわれている。この鉄格子は、外から開けることはできない。客はまず、顔がわかるように鉄格子の前に立つ。店員がチェックし、「この人は大丈夫」と判断して鉄格子を開けてくれる。こうしてやっと店に入ることができる。それは誰でも同じことなので、観光客も鉄格子の前に立たなくてはいけない。
もっとも雑貨屋などはそれが煩雑で、昼間など、鉄格子を開けてところもある。ウイグル人の靴屋や洋服屋などは、客を店内に入れることを諦め、鉄格子に服をハンガーで吊るしたり、鉄格子の間に靴を挟んで売っている店も出てきている。
中国政府によるウイグル人への弾圧、というニュースを見たことがあっても、それが実際にどのように行われているのかまで知っている人は少ないはずです。
その場の雰囲気とか人々の緊張感、みたいなものは、ネットでは伝わりづらい情報でもありますし。
LCCの普及もあるし、昔よりは選択肢は広がったにもかかわらず、多くの人が「内向き」になってしまった。
勉強とか旅行っていうのは、年を取ってから、若い頃にしておけばよかった、って後悔しがちなものではあります。
どちらも「遅すぎる」ということはないのだとしても。
- 作者: 下川裕治
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 中経出版
- 発売日: 2019/03/22
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鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす(新潮文庫)
- 作者: 下川裕治
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- 作者: 蔵前仁一
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