琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

「お通しいらないから代金引いて」


お通しいらないから代金引いてって客が来たんだけど… (憂鬱な昨日に猫パンチ 不安な明日に猫キック(2009-06-22))

↑が、かなり興味深いエントリだったので、ご紹介しておきます。

先日は「よしもとばななvs居酒屋店長」が脚光を浴びていましたが、あの話の際には、「よしもとばななが悪い」「マナーを守れ」という声がネット上では多かったように思われます。
しかしながら、↑の場合には、「この店員も悪い」「この店員は客商売に向いていない」という反応が目立ちます。
ただ、僕が気になったのは、この「反応」の多くが、「この店員への個人攻撃」になってしまっていることなのです。
いやまあ、「どうしたいんですか?」っていうのは喧嘩売っているように聞こえなくもないけれど、それも語調によるでしょうし、このお客だって、「店のルールを乱している」という意味では、よしもとばななさんと似たようなものではないでしょうか。
子安大輔さんの『「お通し」はなぜ必ず出るのか』という新書には、「お通し」について、こんなふうに書かれています。

 お通しの意味は、一般的には料理が出るまでの「つなぎ」と言われています。客が注文した料理を待つまでの間、お酒のアテとして気軽につまめるものを提供するという意味です。
 確かにそういう一面もありますが、本当の狙いは「席料を取る」ことにありそうです。
 客が頼んでもいないものをただ出すだけで、1人当たり200円から500円程度の売上を店側は自動的に計上することができるのです。客単価が3000円の居酒屋であれば、300円のお通しは実に売上の10パーセントを占めることになります(ちなみに大きな声では言えませんが、それに対する原材料費は限りなく安いはずです)。
 モノを出さなくてもテーブルチャージやサービス料という名目で合計額の10パーセント程度を取る店もありますから、お通しの実態はやはり「席料」という見方が正しいと言えるでしょう。
 先に説明したように、飲食店の利益率は10〜20%です。ということは、実はお店にとってはこのお通しが大切な利益源となっているのです。

たしかに、「お通し」っていうのは、けっこう疑問に感じられるシステムではあるんですよね。
「何か軽くお酒のアテになるもの」が欲しければ、枝豆なり漬物なり、すぐにできそうなメニューを注文すればいいはずだし、そんなまわりくどい方法をとるくらいなら、お酒や料理の価格に少しずつ上乗せしたほうがいいんじゃないかと思います。
そうしないのは、やはり、「お通し」というのが、店にとってかなり都合がいい、ということなのでしょうね。店側が消費したい食材を確実に使えてお金がとれるわけだから。
僕自身は、「お通し」そのものにはそんなに抵抗はなくて、美味しければ「この店はなかなかやりそうだな」と楽しみになり、いかにも「余った食材処理」みたいなのだと「この店はダメかな……」と不安になる程度なんですが、少なくとも、「これが日本の食文化」なんていうプラスのイメージは持っていません。
外国人のお客さんのなかには、「なんで頼んでもいないものを持ってきて、お金を取るんだ!」とクレームをつける人もいるそうです。

しかしながら、個々の店に対して、「お通しなんていうシステムはおかしいじゃないか!」と憤ってみてもどうしようもないので、お客としては、「どうしても『お通し』のシステムがイヤなら、そうじゃない店を選ぶしかない」ということなのでしょう。
そういう人が多数派になれば、このシステム自体も変わらざるをえないはず。

僕自身としては、この事例は、別にどちらが悪いとかそういうものじゃないと感じるんですよ。
「『お通し』なんて要らない」と主張する客と、「『お通し』を受け入れてもらえないようなお客は来てくれなくてもいい」という店側との交渉が決裂しただけの話なのではないかと。
このお客みたいに、あらかじめ「要らないから安くしろ」と言ってくれる人はまだマシなほうで、もっと酷いケースでは、食べたあとに「こんなの頼んだわけじゃないから払わない」ということもありそうです。

「『お通し』の分の利益がなくても、この人にこの店で飲んでもらいたい」と思えば、それなりの対応をすればいいし、そうじゃなければ、「お断り」するしかないのでしょう。
「売上の1割を占める、利益率が高い商品」ということを考えれば、店側にとっては、「お通し」というのは、客が考えるよりもはるかに大事なのです。

このような事例に対するネット上の反応をみていると、結局のところ、「客にとってのマナーと店にとってのサービスとは何か?」「そのバランスをとるには、どうしていけばいいのか?」という問題よりも、「個々のケースで、どちらが感じ悪いか」ばかりが語られてしまうようで、僕はそれがとても勿体ない気がしています。

「お通し」はなぜ必ず出るのか―ビジネスは飲食店に学べ (新潮新書)

「お通し」はなぜ必ず出るのか―ビジネスは飲食店に学べ (新潮新書)

アクセスカウンター