琥珀色の戯言

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メジャーリーグなぜ「儲かる」 ☆☆☆☆


メジャーリーグなぜ「儲かる」 (集英社新書 529A)

メジャーリーグなぜ「儲かる」 (集英社新書 529A)

内容(「BOOK」データベースより)
イチロー松井秀喜松坂大輔ら多くの日本人選手が活躍するメジャーリーグは、過去一〇年余りで収入を四倍超にする急成長を実現し、昨今の経済危機下にあっても順調にビジネスを拡大している。なぜ、そんなことが可能なのか?そのカラクリを、初めて公表される内部資料などを含めて詳細に解説。また、全収入の五%がジャパンマネーという実態や、WBC開催の真の意図など、容赦ないグローバル戦略の全貌に迫る。メジャーリーグはいまや、単なる娯楽ではない。スマートかつ貪欲な「ビジネスエリート」が火花を散らす“戦場”なのである。

自分の贔屓のチームの主力選手が流失してしまうのはつらいですが、「メジャーリーグ」は、やはり、ベースポールの最高峰です。
そして、日本のプロ野球に対して、「『ぜいたく税』『テレビ放映権料の分配』などのメジャーのシステムを見習って、戦力均衡をはかったほうがいい」とか、「ファンサービスについて学べ」などと言われることが頻繁にあります(いや、僕も以前はそう思っていたんですけど)。
しかしながら、この新書を読んで、「メジャーリーグがお金を生み出すためのシステム」の一端を知ってみると、そのあまりにビジネスライクなところに、ちょっとガッカリしてしまったのも事実です。

どの球団にとっても収入の最大の柱はチケット販売である。だから「少しでも高値でチケットを売りたい」というのが本音。あの手この手で知恵を絞る。
 レッドソックスは、家族をターゲットにした安い価格帯の長いす席や立見席の料金をできるだけ据え置く一方で、観戦に好条件の座席は容赦なく値上げをする戦略をとった。
 2009年時点で、フェンウェイパークボストン・レッドソックスの本拠地)で最安値の座席は外野最奥部の長いす席で12ドル(1080円)。最高値は内野席最前列の325ドル(2万9250円)だ。その間を約20段階に細かく区分けしている。うち100ドル(9000円)以上の高額シートは9種類ある。
 高額シートは毎年5%ずつ定期的に値上げされ、他の観客席も球団の成績次第で値上げされる。プレーオフワールドシリーズへの進出は、翌年のチケット料金を値上げする格好の口実だ。「プレーオフ進出が視野に入るシーズン後半には、次年度のチケット料金の値上げ幅が議題になる」とカンクロ副社長は明かす。
 富裕層にはできるだけ高い値段でチケットを買ってもらう一方、家族連れの反感を買うことも避ける。巧みな両面作戦である。

これを読んだときの僕の率直な感想は、「メジャーリーグ、チケット高いなあ!」でした。

参考リンク:東京ドームシティ公式サイト 巨人戦チケット情報
↑を参照していただきたいのですが、日本で最も人気がある球団のひとつ、巨人の主催試合でも、チケット料金は最高額の「指定席S」が5900円です。
もちろん、フェンウェイパークにだって、安い席はあるのでしょうが、この本のオビに書かれている「10年余りで、4倍超の経済成長!」も、こんなに高い値段のチケット(あるいは、企業や個人が購入するシーズンチケット)に支えられているのかと思うと、なんだか悲しくなってしまいます。
「野球はアメリカの国民的スポーツ」と言われており、僕はもっとアメリカの人たちと野球場との距離は近いし、気軽に足を運んでいるものだと思い込んでいたのですけど、実際は、球場で贔屓のチームを応援するためには、かなりのお金が必要です。
「スポーツビジネス」という観点からみれば、このチケット料金の設定や、時期や対戦相手によるチケット料金変動制、移転をちらつかせて、地元の自治体にスタジアムを「造ってもらう」ことなどは、非常に「優れた発想」だとは思うんですよ。
でも、この新書を読んでいると、「金儲け主義」が横行している一方で、アメリカの野球ファンは、置き去りにされ続けているような気がしてなりません。

僕は、どんなにメジャーリーグが「ビジネスとして」すぐれていても、日本の泥臭い「野球」の世界のほうが好きだなあ、と、あらためて感じました。

ちなみに、この新書には、「WBCが日本で開催される可能性が無い理由」も書かれています。

 大リーガーの年俸は高くなり過ぎている。長旅で故障リスクが高まるため、日本開催となれば当然、傷害保険の掛け金が大きく膨らむだろう。所属球団の説得も難航を極めるに違いない。選手の特別手当を増額することも必要だ。2008年MLBリコー開幕戦で、MLBがレッドソックスとアスレチックス両球団の選手・球団職員に巨額の特別手当を支給したことを思い出してほしい。これで採算がとれるだろうか。
 また、決勝ラウンドだけを切り離して日本で開催することもあり得ない。アジア代表は一時ラウンドをアジアで戦い、二次ラウンドは米国へ。すぐさま日本へ取って返し、決勝ラウンドを行う無理な日程になってしまう。選手は時差でフラフラだ。
 万に一つ政治的な思惑で日本開催が決まったとしても、時差、気候など体にかかる負担を恐れて、出場を辞退する大物大リーガーが続出するだろう。大物が参加しないWBCなど、気の抜けたビールと同じである。

アメリカの「スポーツビジネス」の現在がわかるのと同時に、それを日本がそのまま真似したり、「メジャーリーグのほうがすべてにおいて優れている」というコンプレックスを抱いたりすることに対して、大いに疑問に感じた本でした。
野球ファンには、オススメの新書です。

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