琥珀色の戯言

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恋文の技術 ☆☆☆☆


恋文の技術 (ポプラ文庫)

恋文の技術 (ポプラ文庫)

 単行本が出たときには、『恋文』という題材にあまり興味がわかなかったのですが、文庫化されていたので購入。
 読んでみると、なんだかすごく森見さんらしい、妄想と「学生生活への郷愁」みたいなものが溢れる良作でした。
 いやほんと、京都で大学生活を送ったことがあるわけでもないのに、なんでこんなに「懐かしい」感じがするのだろう?
 僕はもともと「手紙形式」の小説が好きで、姫野カオルコさんの『終業式』は、いまでも心に残る名作のひとつです。
 この『恋文の技術』、まあ、読んで何かの役に立つというわけでもないけれど、読み終えてみると、久しぶりに誰かに「手紙」を書いてみたくなるのが不思議です。メールでさえなかなか書けない僕にとっては、珍しい気分。

 そして。この『恋文の技術』って、延々と「主人公・守田一郎からの手紙」が並んでいるのですが、それを読むだけで、彼の周囲の人々にどんなことが起こっているのかがわかるし、また、書く相手によって、内容や言い回しが変わるところなど、まさに森見さんの「名人芸」です。
 「相手からの手紙」がなく、つねに「一方通行」なのが、技術でもあり、うまい戦略でもあり。
 それにしても、「おっぱい事件」の描写には思わず吹き出してしまいました。
 これも、森見さんの「名人芸」だよなあ。

「詩人か、高等遊民か、でなければ何にもなりたくない」
 これは俺の言葉ではありません。以前、森見さんが今出川の喫茶店にて、頭を抱えて漏らした魂の叫びですよ。あの頃、森見さんはそればっかりでした。
 当時の心中、今になってお察し致します。

まさに、森見さんの「遊び心」満載の作品です。
少しの時間浮き世を忘れられるような、楽しいものを読みたい、という方はぜひ。
僕も「高等遊民」になりたかったなあ……


終業式 (角川文庫)

終業式 (角川文庫)

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