琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

せんべろ探偵が行く ☆☆☆


せんべろ探偵が行く (集英社文庫)

せんべろ探偵が行く (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
“せんべろ”とは、千円でべろべろに酔っぱらえる店のこと。酒をこよなく愛するらも団長を先頭に、酒さえあればご満悦の中年探偵団が居酒屋巡礼の旅に出た。せんべろの聖地・大阪は新世界から始まり、東京、金沢、博多など、安くて気取らず、美味いアテを揃えた店を探して日本全国を駆けめぐる。文庫化に際し、らもさんゆかりの“せんべろ名店”で開催された爆笑座談会を収録。ラストオーダー決定版。

中島らもさんが亡くなられたのは、2004年7月26日。
もう、7年も経つんですね……

あのときは、「まだまだこれから」という51歳の「若さ」で、らもさんが亡くなられたことがすごく悲しくて、もったいない気がしたのですが、単行本発売から8年経って、ようやく文庫化されたこの本を読んでいると、「ああ、あの事故がなかったとしても、らもさんは、そんなに長くはなかったのかもしれないな……」と、なんだか少し合点がいきました。
いやほんと、体調悪そうなんですよ、らもさん。
取材の何度か欠席したり、遠出できないから、「自宅飲み」になっていたりもするし。


飲んだら体が悪くなるのはわかっているけれど、飲まなければ「中島らも」じゃない……
あの日、らもさんは、ようやくそのジレンマから解放されたのかな、って。

この本の取材は2001年から2003年の間に行われているのですが、全国各地の「とにかく安く飲めて、肴の質も良い店」に、著者の小堀純さんが、らもさんやらもさんのマネージャーと一緒に出かけ、そこで飲んだくれるというエピソードの積み重ねです。
らもさんの名前は、著者としてクレジットされていますが、実質的には、メインに書いているのは小堀さん。らもさんは、ところどころにエッセイを書いていたり、「登場人物」として酒の肴にされている場面が多く、「中島らもの本」とは言い難いものがあります。
だからこそ、「晩年の中島らも」を他者の目でみた、貴重な資料でもあるのですけど。

 ”酒の肴何が偉いか”論争を、血走った目で読んでいると某大学の某教授が、おかしなことを仰るのだ。
「私の酒の肴は”水”です」
 酒の席でもあり、ガヤガヤともしていたのだろう。教授はそれ以上多くは語らなかった。
 大体おれは酔っぱらうために飲むのであって、うまい酒、フルーティな酒、舌にまとわりついてくる酒、これらみんなお引き取り願いたい。
 肴なんかはあればあったで結構なことだが、なければないで一向構わない。
 この前落語を聴いていたら、ある咄家が自分の師匠である六代目松鶴の酒の飲み方について話していた。それによると師は酒のつまみのないときに「サクロン」を舐めつつ、大酒を飲んだという。
 おれはこの話には大いに感銘を受けた。

こういう「どこまでが本当かわからない話」が、らもさんの魅力ではありますよね。
「ソースを出せ!」なんて不粋なことを言わずに、読者も「心地よく騙されてしまう」。
いまの時代であれば、肴がなければコンビニで何か買ってくればいい、ということになるのでしょうが。


この本、取材から10年近く経っているだけに、閉店している店も多く、「史料的価値」は高くても、現在の「立ち呑みガイドブック」としては、ちょっと物足りないところはあります。
むしろ、中島らもファンが、小堀さんたちと一緒に、らもさんを懐かしみながら、しみじみと読む本なのでしょう。
それこそ、お酒でも飲みながら。


巻末には、らもさんゆかりの人たちが集まって思い出を語り合う「せんべろ座談会」が収録されています。

大村アトム:せんべろの頃でしたか。忘年会やろういうて、らもさん、また店にギター持って来て。気持ちよく唄ってはったと思ったら、晶穂くんに催涙スプレー渡して。


小堀純らもさんが自由な言論つらぬこうとして、連載が中止になったりした頃やな。もの書きとして、言論、表現の自由を守り、正々堂々と生きていくからには、いつ右翼に襲われるかもしれんから”武装”しようと。家族にも危険が及ぶだろうからと晶穂くんと早苗ちゃんにも武器渡してたよな。


ガンジー石原ナイフやらスタンガンやら用意してね。


大村:それで店ん中で晶穂くんに「使い方教える」云うて、みんなの前で催涙スプレー使ったんですわ。狭い店ん中でね。そしたらもの凄くて、みんな涙は出るわ、咳は出るわで。


小堀:寒いのに窓開けて、他のお客さんもたいへんやったけど、らもさんだけ何ともない。


石原:やっぱり薬物には強かったんや、らもさんは――。

仲間たち、そして、らもさんを愛する人たちにとっては、中島らもという人そのものが、最高の「酒の肴」なのかな、という気がしてくる、そんな一冊でした。

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