琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】深夜特急 ☆☆☆☆☆


深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫)

深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫)

深夜特急2―マレー半島・シンガポール―(新潮文庫)

深夜特急2―マレー半島・シンガポール―(新潮文庫)

深夜特急3―インド・ネパール―(新潮文庫)

深夜特急3―インド・ネパール―(新潮文庫)

深夜特急4―シルクロード―(新潮文庫)

深夜特急4―シルクロード―(新潮文庫)

上のリンクはすべてKindle版です。
Amazonマーケットプレイスでは、紙の中古の本なら、送料別で「1円」なんてのもありますので念のため。

インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは「大小(タイスウ)」というサイコロ賭博に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、いま始まった。いざ、遠路2万キロ彼方のロンドンへ!

Kindleで読んだ「おすすめの本」を紹介する企画。
この『深夜特急』、沢木耕太郎さんが書かれた「若者の旅のバイブル」として、僕もずっと名前だけは知っていました。
1986年に単行本が出たときは、僕にはまだ高い単行本を買って読むだけの経済力がなく、海外旅行にも、あんまり興味なかったんですよね正直言って。
「外国に貧乏旅行とかして、大麻とかでドロドロになって喜んでいる人の気が知れん……なんか怖そうだし……」とか思っていた記憶があります。
はじめてパスポートを取ったのは、20代半ばになってからだったしねえ。
いまから考えてみると、なんであの頃、「海外旅行に行かないこと」にあんなに頑なになっていたのか、自分でもよくわからないんですが。


僕にとっての『深夜特急』って、「こんなナルシスティックな本に影響されて旅に出ちゃう人がいるw」っていうような作品だったわけです。
食わず嫌いもいいところですね、まったく。


今回、Kindle版を読んでみたきっかけは、「Kindleで読む本を探していたら、ランキングに入っていたこの本が高評価+ちょっと安くなっていたから」です。
Kindleは、最新刊にはちょっと弱いところがあり、僕が使っているiPhoneの小さな画面では、図表や細かいデータなどは見づらい。
それに、時間があるときに、少しずつ細切れに読むので、あまり「重い」内容の本とかじゃないほうがいい。
そういう条件に、この作品は「最適」に思えたのです。


それで、まず1巻をダウンロードして、読み始めたわけですが、寝る前とか、他の本を読む合間などに、この『深夜特急』を読むのは、ここ1ヵ月くらいの僕の楽しみになりました。


第1巻の単行本が発売されたのは、1986年。
こんな古い話、役には立たないだろうな、って思っていたのですが、役に立つとか立たないとかじゃなくて、「ひとりで旅をする人間の孤独と矜持」みたいなものは、25年前もいまも、そんなに変わらないんだなあ、なんて感動してしまいました。


この作品のなかに出てくる町のうちいくつか、マカオとか香港とかシンガポールとかには、僕も行ったことがあるのですが、「行ったことがある」っていっても、沢木さんが見たこれらの町と、僕が「観光」してきた町とは、同じ場所のはずなのに、こんなに違った顔をしているんだなあ、とも思いましたし。
もちろん、沢木さんの旅から、20年くらい経ってからの訪問なので、「経年的な変化」もあるのでしょうけど。

 カシャ、カシャ、カシャ。
 ディーラーのプッシュする音が残響のようにいつまでも耳の奥から聞こえてくる。
 カシャ、カシャ、カシャ。カシャ、カシャ、カシャーン……。
 おや、と思った。
 プッシュされる時の音が微妙に違うのだ。私は賭けるのを中断し、プッシュの音に耳を澄ませた。
 カシャ、カシャ、カシャ。
 灯りがついて、出た目は小。
 カシャ、カシャ、カシャ。
 やはり、小が出る。
 カシャ、カシャ、カシャーン。

 
 三つ目のプッシュ音が、ほんの僅かながらどこかに引っ掛かるように感じられた時、大が出た。

マカオのカジノで、機械の「音」の些細な違いから沢木さんが逆転していくシーンなどは、『カイジ』みたいだなあ!なんてワクワクしましたし、売春宿に連れていかれ、幼い女の子の前で「どうする?」なんて迫られたシーンとか、映画館で途中退席しただけで逮捕されてしまうところでは、けっこう心配してしまいました。
まあ、この本が出たということは、途中で死んでしまうことはない、とはわかっているんだけれども。


でもまあ、やっぱり25年前と今では「旅」というものも、だいぶ変わってしまっているのだろうな、と読みながら考えていました。


沢木さんが、旅の途中で「日本語の本」や「日本語での会話」を渇望するのを読んで、僕にはそういう「本が自由に読めない生活」は無理だな、と思ったのですが、今だったら、世界のどんなに遠いところでも、電源とネット環境さえあれば、「日本語の本」をKindleでダウンロードすることができるんですよね。最新刊であっても。
先日読んだ『北の無人駅から』という本のなかで、北海道のユースホステルの経営者が、「いまの若い人たちは、みんなネットで情報を得ているから、『情報が集まる場所としてのユースホステル』は成り立たなくなっている」というような話が紹介されていました。
いまだったら、それこそ、世界中を放浪しながら、リアルタイムに旅行記をアップする事も可能で、実際にそれをやっている人もいますしね。


でも、だからこそ、この本ような「長い沈黙で磨き抜かれた言葉」は、かえって失われてしまったのかもしれません。


書かれていることは、「いま旅行に出るための情報」としてはあまりに古びているのですが、だからこそ、「それでもこんなに面白い」ことに感動してしまいます。
世界は、何も持たずに旅をしている人間には、けっこう優しいのだな、なんて、少し楽観的な気分にもなれますし。


電子書籍、ひとつくらい読んでみたいけど、どれにしようかな?」
そんな「最初の一冊」にオススメします。
しかし、なんで僕はこの年まで、この本読まなかったのかな……
いや、20歳くらいのときに読んでいたら、憧れるよりも「暇人はいいよな」的なひねくれた読み方しかできなかったかもしれないな……

アクセスカウンター