琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

アルゴ ☆☆☆☆☆



アルゴブルーレイ&DVD (2枚組)(初回限定版) [Blu-ray]

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あらすじ: 1979年11月4日、テヘランイラン革命が激しさを募らせ、その果てにアメリカ大使館を過激派グループが占拠し、52人もの人質を取るという事件が起きる。パニックの中、アメリカ人6名が大使館から逃げ出してカナダ大使の自宅に潜伏。救出作戦のエキスパートとして名をはせるCIAエージェントのトニー・メンデス(ベン・アフレック)は、6名が過激派たちに発見され、殺害されるのも時間の問題だと判断。彼らを混乱するテヘランから救出する作戦を立案する。しかし、それは前代未聞で大胆不敵、そして無数の危険が伴うものだった……。

2013年7本目。
月曜日のレイトショーで、観客は10人くらい。
2013年、第85回のアカデミー賞作品賞受賞作です。
実はこの映画、2012年の10月26日に日本で公開されていたんですね。
今回は、アカデミー賞受賞特需による再上映。
言われてみれば、テレビの映画番組で「映画の撮影のフリをして人質を脱出さようとした史実」を基にした映画が公開される、というのを観て、歴史映画、ノンフィクション好きとしては、「面白そうだな」と思ったような記憶もあります。
でも、そのときには僕の周りでは、上映館は無かったんじゃないかな、たぶん。
「映画の撮影のフリをして、人質を救出する作戦」と聞いて、僕はすっかり、「ああ、コメディタッチの映画なんだな」と思い込んでいたのです。
「事実は小説より奇なり」とは言いますが、いくらなんでもそんな荒唐無稽なアイディアを、命がけでやろうとするヤツはいないだろう、と。
で、昔の子ども向け特撮ヒーロー番組の悪の秘密結社がやっていたようなマヌケな作戦が、それ以上に隙だらけの相手のエラー連発で成功する、そんなコメディ映画、のはずだったのですが……


いやまいった。
一部にクスリとするような場面もあるのですが、笑えるシーンはほとんどありません。
全然コメディじゃなかった。


この映画、「アメリカのプロパガンダだ」なんていう評価をしている人もいるそうです。
まあ、大使館員たちがイランの人々の圧倒的な数の力に圧倒され、監禁され、「処刑ごっこ」まで行われてしまうというのをみせられると、弱い立場の人たちを応援したくなるのが世の常というものでしょう。
その一方で、このような状況に至るまでの欧米諸国のイランなどの産油国からの搾取の歴史、そして、アメリカの支援を受けてやりたい放題だったパーレビー国王をアメリカが「匿った」という歴史的な事実を考えると、大使館員を人質にとるなんて国際法にも人道にも外れたことだけれども、イランの側にだって、「やむにやまれぬもの」があったのも確かです。
もちろん、だからといって大使館を占領したり、人質をとったりしても良いってことはないのだけども。
ちょっとイランの立場を慮ってしまうのは、僕が最近『海賊とよばれた男』を読んだ影響もあるのです。
「どちら側から描くか」によって、観客の思い入れの向きは、けっこう簡単に変わってしまう。


この『アルゴ』観終えて感じたのは、「イデオロギー的な面はさておき、すごく面白い脱出サスペンスだなあ」ということでした。
クライマックスは、「息詰まるシーン」の連続です。


大使館員たちに、映画の撮影準備のスタッフのふりをさせ、空港から国外に出すという計画って、「なんだそのバカバカしい作戦は!」って思いますよね、大部分の人は。
そんな特別な人たちの「演技」なんてできるわけないし、そもそも映画のスタッフなんて、目立つはずだし。
もちろん僕もそう感じましたし、『アルゴ』は、その「おかしな作戦」を笑うコメディ映画だとばかり思い込んでいました。
ところが、実際にいろんな脱出計画について考えていくと、「国家間の戦争覚悟で特殊部隊を突入させる」以外の「平和的な解決法」としては、これが「最悪のなかでは最高の作戦」だという主人公の言葉に頷かざるをえません。
いやむしろ、「そんなバカバカしいこと、誰もやらないだろう」という先入観こそが、この計画の大きなキーポイントとなるのです。
「イメージ」とか「思い込み」って怖いよねえ。


あと、逃げた大使館員たちの情報を特定するために、大使館員たちが襲撃された際にシュレッダーで細かく切った文書を、子供たちが延々とパズルを組み合わせるように繋げていく場面は、かなり怖かった。
子どもだから、そういう単純で気が遠くなるような時間のかかる作業でも、やる子は夢中になってやるのです。
ゼロ・ダーク・サーティ』では、ビンラディンかどうかを確認しようとして、大人たちが口を割らなかったため、「子供に(遺体の顔を)確認させろ」と突入部隊の一人が指示するシーンがありました。
平和な社会というのは「子どもの『子どもらしさ』を大人が利用しない社会」とイコールなのかもしれません。


この「概略だけ聞いたら、あまりにもバカバカしい『ハリウッド作戦』」の結末がどうなるかは、ぜひ実際にこの映画を観ていただければと思います。
120分の上映時間とか、僕みたいに「イランのアメリカ大使館人質事件」の予備知識がほとんどない人間でも、ちゃんと背景はわかるけど説明過剰にならない程度の状況説明・描写とか、クライマックスの緊迫感とか、いろんな意味で「娯楽映画として、絶妙なバランスで成り立っている作品」です。


それにしてもこれ、日本人にはまず思いつかないし、仮に思いついたとしても、どこかで絶対に「却下」される作戦だよね。
アメリカって国は、懐が深いというか、きわめて合理的というか、思いきりがいいというか……

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