琥珀色の戯言

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予約をしていない村上春樹ファンと、彼の書店巡礼の日


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

楽しみにしていた村上春樹さんの新刊、週末はいろいろあって書店に行けず、ネットで「やっぱり売れている。品切れ続出!」なんて話を読んで、ちょっとハラハラしていました。
いやでも、いくらなんでも、僕が住んでいる人口20万人くらいの地方都市ならば、何軒か回ったら一冊くらいは残ってるはず!
というわけで、仕事を終えて、4月15日月曜日の19時くらいから、いろんな書店をめぐって、村上さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を探してみました。



……本当は、今日は『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の感想の予定だったんですけどね……


それで、バカ売れしている(らしい)村上春樹さんの新刊を求めて、いろんな書店を回ってみると、意外といろんなことに気付いたんですよね。僕にとってはなかなか貴重な体験だったので、ちょっとまとめてみました。


1軒目:中規模の郊外型地方書店チェーン(全部で10店舗くらい)のひとつ

 店内に入ると、文芸書コーナーに『多崎つくる』の大きなポスターと、店員さん手書きの「絶賛発売中!」の貼紙が。
 この書店、けっこうこのあたりでは店の規模のわりに文芸書が多く、お客さんはあまり多くないのでかなり有望視していたこともあり。ああ、よかったよかった……と思いきや……あれ、肝心の本がありません。
 「絶賛発売中」のポスターはあるのに、「売り切れ」の表示はない。
 ということは、どこかに置いてあるのかな、レジ前に平積み?などと思いつつ店内をひたすらウロウロ。
 結局、見つけることはできなかったので、たぶん「売り切れ」だったのでしょう。
 しかし、「売り切れ」のアナウンスはまったくなされておらず、それをわざわざ店員さんに確認するのもためらわれ(「ああ、この人も話題に乗り遅れまいとしている『にわかハルキスト」なんだな、フフッ」なんて思われているのだろうと想像するだけで、恥ずかしくなってしまうのです!)、結局「売り切れだろう」と判断して店を出ました。
 売り切れなら売り切れだって、貼り紙でもしておいてくれればいいのに、話題作なんだからさ……ちょっとひどい店だな……
 と思ったんですけどね、このときは。



2軒目:ショッピングモール内の全国規模の書店チェーン

 ああ、売り切れ売り切れ。
 文芸書コーナーの平積み台の一角が空っぽになっており、そこに「『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』売り切れです。予約受付中」の貼紙が。
 まあ、売り切れなのは残念ですが、ごく普通の対応だな、という感じです。
 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を探しに来た僕にとっては、無いなら無いとはっきり言ってもらったほうが助かります。
 すぐに退店。



3軒目:TSUTAYAの中規模店

 レンタルDVD、CD、中規模の書店あり。レンタルコミックやゲームの取り扱いはなし、というクラスのTSUTAYA
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は一冊もなかったのですが、驚いたのは、この「いま旬のベストセラー小説」に対して、店内でまったく言及されていないことでした。
ポスターなし、売り切れの告知なし、平台の空きもなし。
もしかしたら、ここは元々一冊も入荷していないのか?
文藝春秋との付き合いがないのだろうか?などと邪推してしまいましたが『abさんご』は平積みされていました。
それにしても、これだけ話題になっている新刊が、ここまでスルーされていると、かえって不思議な感じです。
この店の周囲だけ、「そんな本は存在しない」のか?と疑問になってしまいました。
まあ、TSUTAYAにとっては、何年かに一度の「村上春樹フィーバー」なんて、力を入れるメリットはあまり無いのかもしれませんが。



4軒目:ショッピングモール内の全国規模の書店チェーン(というか紀伊国屋

 まあ、この書店は名前を出しても問題ないでしょう。
 近隣で一番大きな書店でもあり、村上春樹新作『タイトル未定』の段階で予約を取っていました。
 さすがにそれで予約をとるのはいかがなものか?と苦笑したのですが、あのとき本当に予約しておいたらよかった!
 入ってすぐの平台に大きなスペースができていて、「『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は売り切れです。次回入荷予定は4月下旬です。次回分の予約を受け付けております」との貼紙が。
 ここは、この近隣ではいちばん配本数も多いのだろうけれど、お客さんも多いはずで、残っていないだろうと予測はしていました。むしろ、まずここから売り切れただろうな、と。
 店に入ってすぐに「売り切れ」がわかるようにアナウンスしていることと、次回入荷予定が明示されていることなど、さすがの対応です。
 予約はしませんでしたけど、好感度は高かった。



5軒目:某大手電器店内の「ポイントで本が買える」書店

 フッフッフッ、こういうところこそ「穴場」なのだよ諸君。この地域の書店情報は、すべて私の頭の中に入っているっ!
 少なくとも平日はいつも閑散としている書店というか本売場なので(というか、最近は大型家電量販店そのものが、けっこう閑散としていることが多いのですが)、意外とこういところに残っているのでは……と期待していたのですが……
 なんとここも「完全スルー」でした。
 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が本当に出版されていたという痕跡ひとつ見当たりません。
 もちろん本はないのですが「売り切れ」などのアナウンスも一切なし。
 まあ、もともとあんまりやる気が感じられない書店ではあるのですが……
 雑誌とマンガ、文庫メインの品揃えだから、しょうがないのかな……
 「めんどくさいから、ウチは村上春樹の新刊になんか関わりたくない!」という意思すら感じられました。



6軒目:某レンタルDVD、CD店(というかゲオ)

 看板に「BOOKS」とひっそり書いてあったので、意外とこういうところにあったりして……と思って入ってみたのですが、結果的には、「レンタルコミックしか置いてない店」でした。
 うーん、それで「BOOKS」って表示されてもねえ……



7軒目:中規模郊外型書店 
 この地域に何軒かのチェーンを持っている店なのですが、まさかの「完全スルー」でした。
 本は一冊もなく、「売り切れ」のアナウンスもなし。
 『1Q84』の文庫が並んでいたりもしたので、店主の趣味で村上春樹は無視することにしているわけではなさそうなんですが……
 おそらく、店員さんに頼めば教えてくれると思いますが、そこまでしてここで買う気には……ならないです。



8軒目:小規模ショッピングモール内の書店

 いちばんいま住んでいるアパートから近い書店。  
 これでここにあったりしたら『青い鳥』だな、なんて思っていたのですが、そんな劇的な話はまったくなく。
 驚いたことに、この店も「完全スルー」(置いてあった痕跡なし。ポスターなどの販促物なし。売り切れのアナウンスもなし)だったのです。
 

 というわけで、8軒まわって(実は日曜日にも羽田空港で2軒まわったのですが、もちろん売り切れでした)、まだ実物は一度も見ることができず……
 こんなに「品切れ」ばかりなのは3DSの『どうぶつの森』以来。


 ところで、こうしてダラダラと書いてきたのは、村上さんの宣伝をしたいわけではなく、売り切れにクレームをつけたいわけでもありません(もちろん、欲しかったんですけどね)。
 一冊の大ベストセラーを求めて地方都市のいろんなタイプの書店めぐりをしてみると、「リアル書店の現在の問題点」みたいなものを感じたんですよ僕は。


 新聞やYahoo!ニュースなどで話題になっていた『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』にもかかわらず、その「売りかた」や「売り切れている状況への対応」は、書店によって、かなり異なります。
 紀伊国屋をはじめとする「大規模書店チェーン」は、マンパワーもあるのでしょうが、「売り切れのアナウンス」と「次回入荷の予測」「予約のアピール」がしっかりしていました。
 それと比較すると、中規模の書店、郊外型書店は、「とりあえず本を並べて売っている」という感じで、ほとんど店側からの「仕掛け」がありませんでした。
 もしかして「売り切れ」って書かないほうが、お客は店内を見て回ってくれるのではないか、とかレジで声をかけてくれるのではないか、と期待しているのかもしれませんが、それは、特定の本を探している側からすれば「めんどくさい」「不親切」でしかありません。
 「どうせ、在庫が無い本は売れないんだから」って思っているのだろうか……
 僕は、中規模郊外型書店でも、個性的な品揃えやPOPなどで積極的にファンをつくって、にぎわっている店を何軒か知っています。
 「村上春樹の新刊」みたいに「どこの書店でも売り切れ」なんていう本は、年に1冊もないというか、少なくとも文芸書では村上さんの作品くらいのものなんですよね。
 だから、そういう「嵐」にいちいち対応するよりは、じっと身を屈めて、過ぎ去っていくのを待つだけのほうが、ラクなのかもしれません。
 でも、そういう「ただ本を並べて売っているだけ」では、もう、生き残れない時代になってきているのも事実です。
 にもかかわらず、TSUYATAやゲオはさておき、本がメインの商品のはずの「中規模郊外型書店」の「冷静さ」が、なんだかとても不思議に感じられました。
 「わからなかったら、客は聞いてくるだろ」って思っているのかもしれないけれども、「おそらく売り切れているもの」を、わざわざ尋ねてみるというのは、けっこう敷居が高い。
 そもそも、テレビゲームやCDだったら、売り切れならば「現在在庫がない」ことが、なんらかの形で明示されていることがほとんどです。
 本という商品は、そんなに売り切れることがないから、あるいは商品の種類が多すぎて対応しきれないからなのかもしれないけれど「売り切れ」が明示されることはほとんどありません。
 客のほうが、店内を歩き回って確認するか、店員に尋ねなければならない。
 こういうのって、「今後、リアル書店が生き残るためのヒント」になるんじゃないかなあ。
 今回、実質7軒まわって、完全スルーが4軒、「絶賛発売中!」って宣伝しながら「売り切れ」の表示なしが1軒。
 僕からみた「まともな対応をしている店」は、大手の2軒のみ。
 最初の店では「これはひどいな」と思ったんだけど、むしろ「それが中規模書店の標準」だったのだろうか?


 しかし、もし紙の本と同時に電子書籍版が発売されていたとしたら、僕は居ながらにして本を買えたし、出版社側も「読みたいと思っていたけれど、買えないで待っているうちに熱が冷めてしまう」ことによるチャンスロスを減らせるはずなんですけどね……
 なんだかもったいない話でもあります。
 村上春樹さんの電子書籍に対するスタンスはわからないのですが……
 リアル書店も「出版社に護られている」のだとしても、もう少しお客のほうを向いてほしいものです。
 こういうときって、考えようによっては、「自分の店を他所と差別化するためのチャンス」でもあるはずなのだから。


 中規模書店がどんどん潰れていっているのは、「品揃え」以外にも理由があるんじゃないかと、あらためて考えさせられた書店巡りでした。

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