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【読書感想】爆速経営 新生ヤフーの500日 ☆☆☆


爆速経営 新生ヤフーの500日

爆速経営 新生ヤフーの500日


Kindle版もあります。

爆速経営

爆速経営

内容(「BOOK」データベースより)
201X年までに営業利益2倍―。その目標に「高速」を超えた「爆速」で挑む。社長打診は突然だった。一瞬ひるんだ宮坂だったが、巨大組織の舵取りの決意を決めた。高収益だがつまらない会社―。そんなヤフーを変えた若き経営陣の改革の軌跡。


2012年の3月1日、ヤフーを創業から15年間率いてきた井上雅博さんが、社長とCEOからの退任を表明しました。
代わって社長・CEOに就任したのが、当時の執行役員のなかで最年少だった、宮坂学さんでした。
宮坂さんは、そのとき、44歳。
超優良企業だったヤフーで、なぜトップ交代が行われたのか?
そして、新しい経営陣は、何を目指しているのか?

 それ(ヤフージャパン設立)から17年。今ではポータルサイトYahoo! JAPAN」へのアクセスは月間で536億ページビュー(2013年4〜6月期)に達する、日本最大のアクセス数を誇り、名実共に日本を代表するポータルサイトという地位を、17年間維持し続けている。
 

(中略)


 2013年3月期の業績は、連結売上高が3429億円。営業利益が1863億円。自らはカネをかけて情報(コンテンツ)を作らず、既にある情報を効率よく編成して提供する、いわゆるプラットフォームに徹するビジネスモデルによって、売上高営業利益率54%という驚異的な利益率水準を維持している。通期の業績も、サービス開始以来の16期連続の増収増益記録を現在も更新中。親会社である米ヤフー(本書ではヤフーインクと呼ぶ)が、米グーグルや米フェイスブックなどとの覇権争いに敗れ、経営の立て直しを迫られているのとは対照的に、ヤフージャパンは堅調に成長を続け、日本を代表するネット企業として権勢を保ち続けている。


 世界的には、ヤフーはけっして順風満帆とは言い難いのですか、日本ではまさに「ポータルサイトの代名詞」として君臨しつづけているのです。それにしても、扱っている主力商品が「情報」であるとはいえ、売上高営業利益率が50%を超えているというのはすごいですね。
 しかも、サービス開始以来、16期増収増益中。
 そんななかで、なぜ、社長交代が行われたのか?
 井上前社長の健康問題ということなら納得できるのですが、そうではなく「経営上の判断」で、この交代劇は行われたのです。

 注目の度合いで言えば、新聞やテレビへの露出も急激に増えた。試しに、2013年4月の宮坂体制から1年間、日本経済新聞の朝夕刊に掲載されたヤフーの記事を調べてみた。検索で引っ掛かった記事数は446本。新体制発足前の1年と比べると、4割増加している。記事の数が世間の関心に比例していると仮定するならば、ここ1年でヤフーは再びメディアの注目を集める存在になった。
 その理由は1つに、宮坂率いる新経営陣の平均年齢が41歳と、旧体制に比べて10歳以上も若返ったという話題性が挙げられるだろう。宮坂の社長就任時の年齢は44歳。チーフ・モバイル・オフィサー(CMO)の村上臣は、当時35歳だった。東京証券取引市場1部に上場する企業の中でも、とりわけ若い世代が牽引するフレッシュな企業として世間では受け止められた。
 だがそれ以上にあるのは、「成熟企業」と思われていた5000人規模の大組織が1年で明らかに変わった、という驚きによるところが大きい。業績、協業、サービス、そして何よりも社内の雰囲気は従前のそれに比べて一変した。それは、「ヤフーをよく知る者ほど、その変わりように『ほう』とうなり声を上げる」というアスクル社長の岩田彰一郎のコメントによく表れている。


 ヤフーが、この改革で目指したもののひとつとして、「スマートフォン時代への対応の遅れをとりもどすこと」があったと、著者は述べています。
 ヤフーは、ずっと経営状態は安定しているけれど、その一方で、組織が大きくなり、新しいことをやりづらい雰囲気になってしまっていた。
 そして、ずっとパソコンでのポータルサイト運営を柱としてきた経営陣は、スマートフォンへの時代の流れを受け止めきれるかどうか、不安があった。


 この交代劇のすごいところは、決定的な綻びが出てからではなくて、経営としては順調で、うまくいっているときに、あえて井上前社長が辞任し、後進に道を譲ったことだと思います。

 2012年3月の退任発表の会見上、井上氏が退任の理由についてこう漏らしたからである。
「携帯電話は発信専用で、いつもカバンに入れたまま。ソーシャルサービスとかはどうも苦手で、だんだんとYahoo!JAPANの中で自分が使わないサービスが増えてきて、いつも引け目を感じていた」

 Yahoo!JAPAN創立時には、井上さんのインターネットの知識は、まさに「最先端」であり、時代を牽引し続けた人なんですよね。
 同じ「ネットサービス」でも、17年という年月は、かなりの変革をもたらしてきているだなあ、と感慨深いものがありました。
 なかでも、「パソコンからスマートフォンへ」というのは、大きな変革期ととらえられています。僕などは、どちらも頻繁に使っているのですが、最近は「ネットはスマートフォンで」という人が少なくないのです。
 自分で文章を書いたり、ブログをやったりするような「発信」を重視するのではなく、ネットサーフィンだけできれば良いのならば、スマートフォン(あるいはiPadのようなタブレット端末)で十分なんですよね。
 パソコン慣れしていると、スマートフォンの物足りないところばかりが目についてしまいがちたのだけれども。

 
 そういう「時代の変化」に対応するために、ヤフーは、あえて「新世代の人たち」へのバトンタッチを実行したのです。
 井上さんの引き際も見事だよなあ、と感服せずにはいられません。
 時代についていけなくなっても、これまで成功してきたやりかたを捨てられず、傷口を広げてしまうカリスマ経営者は、少なくないのですから。


 この本のなかで、宮坂社長就任後、「201X年までに営業利益2倍」という目標をかかげて改革をすすめていく新生ヤフーの経営が紹介されています。
 「201X年」=「2019年まで」に営業利益を2倍にするためには、毎年10%以上の営業利益増加を続けていかなければならないそうです。
 ネットが一般的なものとなったということは、ある意味「成長の余地」が減ってきた、という面もあるのではないかと思うのですが、この本を読んでみると「目のつけどころで、チャンスはまだまだあるんだな」と感心せずにはいられません。
 その一方で、この仕事っぷりをあと5年も続けたら、過労死してしまうのではないか……などと、ちょっと心配にもなるんですけどね。
 それまで「安定した大企業」の一員だったヤフーの社員のなかには、「こんな無理をしなくても」と考えている人もいそうです。
 ただ、「IT企業というのは、そういうギラギラしたところがないと、魅力を失ってしまう」のかもしれませんよね。

 
 この本、組織を「改革」しようとする人にとっては、ヒントが詰まっていると思います。
 川邊副社長は『ビジョナリー・カンパニー』という経営書の中のこんなフレーズに大きな影響を受けたそうです。

「大事なのは、誰をバスに乗せるかである」


 適材をバスに乗せて適所に座らせ、「不適材」はバスから降ろす。そうすればおのずとバスの行き先は決まる。危機に際して「戦略を変えよう」「製品を変えよう」「ブランドを変えよう」「技術を変えよう」などと思ってはいけない。最初にバスを見るべきである。厳格な能力主義によって最高の人材をバスに乗せ、最適の席に座らせているかどうかチェックする。経営が傾いているとすれば、能力主義を貫いていない証拠である――。
 もともと編集プロダクションで働いていた宮坂も、古書店巡りが趣味というほどの読書好きだ。『ビジョナリーカンパニー』も当然、読んで知っていた。経営者が自分の判断でコントロールできるのは、つまるところ人事しかない。チームで互いに補完し合える人材を選べるかどうかで、プロジェクトの行方は決まる。宮坂もまた、そう考えていた。

「経営者が自分の判断でコントロールできるのは、つまるところ人事しかない」
 ああ、これは本当にそのとおりだなあ、と。
 新生ヤフーは、派閥やそれまでの慣習にとらわれずに、有能な人材を抜擢したからこそ、順調なすべり出しを見せているのです。
 
 
 また、宮坂社長、川邊副社長は、就任後、こんなアドバイスを受けたそうです。

 人事評価制度の要諦は3つしかない。
 まず、頑張る人が報われるということを社内に周知させること。
 そして、実際に頑張った人に報いること。
 さらに、どうしたら報われるのか、その基準を明確にすること。

 これはもう、ヤフーに限らず、すべての組織に言えることです。
 でも、こんなシンプルなことが、実践できている組織は、そんなに多くはありません。
 しかし、これは正しいのだけれども、こういう組織で働いていると「報いられないのは、頑張っていないからだ」ということになりますから、けっしてラクな道ではないはずです。

 スマートフォンの世界では、もはや1分1秒単位で収支を見ながら、打ち手を変えていく時代に入っている。すさまじいスピードに、宮坂は心底感心していた。
「高速を超えて爆速だな、これは」
「いや、そうですね」
「本当に爆速だな」
「爆速ですね」
「うちも爆速でいきたいな」
「そうですね。爆速でいきましょう」
 後に新生ヤフーを象徴する「爆速」という言葉は、この2人の焼き肉店談義から生まれた。

 「爆速」の果てにあるのは、栄光か転落か?
 スマートフォンに「本気」になったヤフーの挑戦は、まだはじまったばかりです。

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