- 作者:さほ, 山本
- 発売日: 2020/06/30
- メディア: 単行本
Kindle版もあります。
毎日が落とし穴だらけ…!
露出狂おじさん、免許失効、悪質エステに整骨院…
電車の中で、Twitterで、旅先で、学生時代に…
いつ何時でも、なぜかトラブルばかり引き寄せてしまう
山本さんの実録ハプニング・コミックエッセイ!!文春オンライン大人気連載に、
大炎上したあの区役所との闘いを大幅描きおろし!!
山本さほさんの「ついてない、というか割に合わない出来事ばかりの日常」を描いたエッセイマンガ、なのですが、まあなんというか、運転中にクラクションの音が聞こえるたびに「あっ、僕、なんかやらかした?」とうろたえてしまう人間としては、なんだか他人事じゃない感じでした。
「トラブルを引き寄せてしまう体質」というのが本当にあるのかどうかはわかりませんが、なんとなく、「この人は多少のことではクレームをつけてくることは無さそう」と思われていると、損することが多いのではないか、とは感じるのです。それがわかっているけれど、「もしかしたら自分が悪いのかも……」と考えてしまいがちなのだよなあ。
で、そういう「言いたいことが言えない自分」に、後でひとりになったときに、イライラしてしまうこともあり……
ものすごく小さな話なのですが、先日、某チェーン飲食店に行ったのですが、そんなに複雑ではないカレーとサイドメニューのオーダーを、店員さんにしたんですよ。
で、最後まで言い終わったあと、聞いていたその若い店員さんが「あの……もう一度お願いします。新人なもので……」と。
僕はそのとき、「どこからもう一度ですか?」と若干声を荒げてしまったんですよ。
だって、オーダーを覚える自信がなければ、メモをとるようにするべきだし、新人なので大目にみてね、ということであれば、最初にそう言えばいいのに。ちゃんと聞いているように振るまって、こちらに一通りオーダーさせたあとで、「新人なので……」って自分で言うのはさすがに感じ悪いよ……しかも、全然イレギュラーなオーダーじゃないのに……
でも、そのあと、そうやって、新人さんに声を荒げてしまった心の狭い自分が、ちょっと嫌になったのです。
僕自身、「他人に聞き返されるのがすごく嫌」というコンプレックスを抱えている、というのもあるんですよね……
山本さんは、基本的に「いいひと」なのだと思います。エステ店で「無料お試し」に行ったらひどい目にあった話なんて、読んでいて、「それは行っちゃいけないやつ!」って手遅れのアドバイスをしたくなったもの。でも、「その後」の対応はきちんとしていて、「ひどい目にあってきただけに、その後の対応のしかたも、よく知っている」ことに感心もしたのです。対人関係があまり得意ではなくて、押しに弱い人間にとっては、「なんでもネットで調べられる、訴えられる時代」というのは、かなり生きやすくなったと僕は思うのです。とはいえ、ネットでも声が大きいほう、遠慮しないほうが勝つことも多いのだけれども。
そして、読んでいて痛感するのが、そういう「自分が悪いのではないか、と思ってしまいがちな人」がいる一方で、どんな状況でも、自分は悪くない、自分に責任はない、というのを前提にして生きている人が少なからずいる、ということなんですよ。
車をぶつけられたDQN系の若い女性とか、ネットで話題になった、世田谷区役所の海外の子どもたちにマンガを教えるというイベントの講師を依頼された際の、とんでもない担当者とか……
そういう人に迷惑をかけられた場合、こちらがどうふるまっても、相手には「効かない」んですよね。で、こちらが逆に「向こうが悪かったとしても、ちょっと責めすぎてしまったのではないか」なんて気に病んでしまう。
ネットの場合は、第三者が「祭り」にして、社会的制裁を加えてしまうこともありますし。
ただ、僕は正直なところ、この世田谷区役所の件の「その後」で、山本さんがその担当者が掲載されている雑誌にツッコミを入れているところは、ちょっと引いてしまったのです。
気持ちはすごくわかるのだけれど、いくらひどい対応をしたお役所の人だからといって、24時間365日、鬱々として線路にでも飛び込みそうな顔で歩いているわけにはいかないでしょうし。不調の野球選手に「ツイッターとかインスタとかやらないで練習しろ!」って言うのと同じで、そこまでネットとか本とかで言及するのは、やりすぎじゃないか、という気がします。
いや、僕だって同じ目にあったら、描かずにはいられなかったかもしれないけれども。
まあでも、山本さんが被害を受けたような「なんでも相手のせいにできてしまう人」って、案外楽しそうに生きていて、謝ったり尻ぬぐいをするのは、周りの「諦めてしまった、まともな人たち」のことが多いのだよなあ。アイツに謝罪に行かせたら、かえって相手の怒りを増幅してしまう、というのもわかっているので。
そういう人って、自分を守るためには平気で嘘もつくし(いや、本人にとっては、「嘘」という意識すらないのかもしれません)、他人が自分のフォローをしてくれるのが当然とすら思っているんですよね。
僕自身も、これまで他人のサポートなしでは生きのびてこられなかったので、あまり偉そうなことは言えないのですが、物事には「程度」というのがあります。
ただ、山本さんの場合は、こんな「厄日」もネタにすることができて、まだよかったとも言えそうな気がします。
インターネットは、いろんな人を救っている。
でも、山本さんの存在が漫画家として大きくなり、発言力が増すことによって、「ちょっとした不満を口にすることが相手を炎上させるトリガーになるため、そう簡単にボヤくこともできなくなってしまう」という難しさもあるみたいです。