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【読書感想】平成の通信簿 106のデータでみる30年 ☆☆☆☆

平成の通信簿 106のデータでみる30年 (文春新書)

平成の通信簿 106のデータでみる30年 (文春新書)


Kindle版もあります。

平成の通信簿 106のデータでみる30年 (文春新書)

平成の通信簿 106のデータでみる30年 (文春新書)

内容紹介
平成元年。消費税が施行され、衛星放送が始まり、日経平均株価は史上最高値をつけました。それから三十年、日本の「実力」はどれくらい変わったのか?
・一人あたりGDPは2位から25位に
・外国人流入数はOECD第4位
・こづかいは約7割ダウン
・「ものづくり」から「投資」で儲ける国へ
・女性の細さは世界第2位

その他、家電の世界シェア、医療費、ごみの量、体格、外国人の数、時間の使い方など、さまざまアングルで、平成の三十年間の推移を調査。平成日本人のありのままの姿を浮き彫りにします。
未来を見通すために、私たちが歩んできた30年を客観的に振り返ってみませんか。表やグラフなどのデータ類も豊富なので、ビジネスやレポート作成にも役立ちます。


 「平成」の30年間は、阪神淡路大震災東日本大震災という大きな災害に見舞われ、経済的にも、世界の中での日本が占める位置がどんどん下がってくる、という、停滞の時代でした。
 その一方で、紆余曲折がありながらも、他国との戦争での戦死者が出ない、対外的には平和な時代でもあったのです。
 この時代をずっと生きてきた僕にも個人的な思い出はたくさんあるのですが、さまざまなデータから、「平成」という時代を客観的にみてみよう、というのが、この本の趣旨なのです。

 先ほど「停滞の時代」という「平成」への僕のイメージを述べたのですが、著者は、日本の高齢化や途上国型から先進国型への構造転換が遅れていることなどを挙げつつ、この時代を、こんなふうに総括しています。

 それ以上に、筆者が本書で伝えたいことは、この30年で世界はとても良くなったということである。最近出版されて話題を呼んでいる『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』という本がある。そこでのメッセージは「データをありのままに見ると、先進国に住んでいるあなたが思っているよりも、ずっと世界は良くなっている」というものである。まさにそうで、経済は成長し、貧困は減った。ITも医療も、あらゆる技術が進歩して、農業や漁業を含むあらゆる産業で生産性が高まった。人口問題も環境問題もエネルギー問題も解決に向かっている。世界中で人々の生活が豊かになり、買い物を楽しみ、ネットにつながり、スマートフォンを手にし、いろんな所に出かけるようになった。もちろん日本も例外ではない。世界における日本の相対的な位置が下がったことよりも、それ以上のペースで世界全体が良くなったことのほうが、ずっと大きい。


 僕はこの本を見つけたときに、ベストセラーになっている『FACTFULLNESS』みたいだな、と思ったのですが、著者も自ら、『FACTFULLNESS』について言及しているのです。
 多くの人が、自分に見える世界について、悲観的になっているけれど、実際は、世界はどんどん良くなっている。
 とはいえ、日本人としては、周囲がどんどん豊かになっているのに、自分たちはあまり変わらない(ように見える)ことに、もどかしさを感じずにはいられないのも事実なのです。
 「平成」に至るまでは、高度成長だバブルだと、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代もありましたし。


 日本は、一人あたりのGDPが2000年には2位だったのが、どんどん順位を下げ、2017年には25位となりました。企業の株式の時価総額ランキングでも、1989年の世界第1位はNTTで、2位が日本興業銀行、3位が住友銀行、4位が富士銀行、5位が第一勧業銀行で、ベスト10のなかに、日本企業が7社も入っていたのが、2018年には、ベスト30のなかに1社も入っていません(日本で最高位はトヨタ自動車の32位)。
 2018年の世界第1位はアップル、2位がアマゾン、3位がアルファベット、4位がマイクロソフト、5位にフェイスブック、6位アリババと、IT企業が上位を占めるようになり、時価総額そのものも、1989年1位のNTTが1639億ドルだったのに対して、2018年の1位のアップルは9269億円となっています。既存の日本企業がダメになった、というよりは、この30年間の劇的な産業構造の変化に対応し、新しく勃興した日本企業が無かった、ということなのでしょうね。
 ちなみに、2018年の30位のマスターカードが2019億ドルですから、この30年間で、企業の規模そのものが大きくなっている、ともいえるのです。

 1989年(平成元)年当時、日本のGDPは米国に次ぐ世界第2位であった。世界経済全体に占める日本のシェアは15.3%で、3位から5位のドイツ・フランス・イギリスを合わせたのと同じくらいあった。ニューヨーク・ロンドン・東京が世界の三大証券市場であり、米国・欧州・日本が世界経済を考えるうえでの三本柱であった。
 最新のランキングはどうなったか。2017年の日本のGDPは、米国、中国に次ぐ世界第3位となり、世界経済におけるシェアは6.5%にまで低下した。
 日本のGDPは、1989年から2017年の間に1.6倍に増えている。これだけを見ると、「失われた30年」とはいえ、なかなか増えているものだと思われるかもしれない。しかし世界の中でみると、日本はこの30年間でもっとも成長しなかった国のひとつである。
 世界全体のGDPは、この間に4.0倍になった。中国は26.1倍、インドは8.7倍、韓国は6.3倍、米国は3.5倍。ヨーロッパの国々は世界平均よりは低いが、それでもドイツ3.0倍、フランス2.5倍、イタリア2.1倍となっている。日本のGDPの伸び率は、データの存在する139ヵ国中134位。下から数えて6番目である。ちなみに、日本よりも下位は、中央アフリカ(1.3倍)、リビア(1.1倍)、イラン(1.1倍)、コンゴ民主共和国(1.0倍)となっている。なお戦争のあったシリアやイラクアフガニスタン、あるいは北朝鮮など、データには含まれていない国もある。
 日本の2017年のGDPは、円表示では546億円である。しかし、もし平成の間、世界平均のペースで増加していれば、1370兆円になっていたことになる。


 いまだにそれなりの経済規模、人口を持つ「大国」ではあるけれど、世界の成長速度についていけない日本。
 これからの高齢化、人口の減少も考えると、悲観的にならざるをえない感じではありますね。
 
 この本では、僕の先入観とは異なる、けっこう「意外な」データも少なからず紹介されています。

 1990年以来の移民の増加は、世界的な傾向である。国際的には、国籍や永住権や在留資格の有無を重視せず、単純に外国生まれの人口を移民人口として定義することが多い。日本における外国人比率の増加は、先進国全体への移民の流入数の増加傾向とほぼ一致している。
 移民流入数でみると、日本の2016年の流入数は年間42万人であり、OECD経済協力開発機構)加盟国のなかで第4位となった。シリア難民を大量に受け入れているドイツ、伝統的に移民の多い米国は別格として、イギリスとはそれほど変わらない。
 なおOECDの統計は流入数であって純増数ではないので、日本で暮らす外国人がこれだけ増加したというわけではない。2017年の在留外国人の純増数は18万人である。

 1989年と2017年とを比較して、最も減っている項目は「こづかい」、なんと68%の減少である。「交際費」も大きく減っている。なんともわびしい事態である。もっとも、家計調査の「こづかい」には使途不明金も含まれるので、お金のことをちゃんと把握する人が増えたということかもしれない。あるいは、本来の意味でのこづかいの必要な子どもを持つ世帯が減っていることが影響しているのかもしれない。
 他に目立って減少しているのは、被服費である。洋服代は一世帯あたり年10万円から5万円までに減った。他には家電などの家庭用耐久財や、教育費も大きく減少している。穀類と魚介類の減少も目立つ。魚介類が減ったぶんだけ、肉類への支出が増えたのかというとそういうわけでもなく、つまり食費を削っている。
 逆に増えたのは、通信費、自動車等関係費、光熱・水道費(電気代・水道代が増え、ガス代は横ばい)、医薬品、保健医療サービス(診察代、マッサージ代など)、教養娯楽サービス(宿泊料・スポーツクラブ・習い事の月謝・テレビ受信料・インターネット接続料など)等である。全体としてみると、平成の日本における消費支出の変化は、生活者にとって厳しい方向であったようだ。
 表の最後に「仕送り金」がある。これは仕送りが必要な子どものいる世帯が減少した影響もあるが、それ以上に、仕送り額自体の減少を反映している。1990年の東京の私大生への仕送り額の平均は、月に12万円を超えていた。それが年々低下し、2017年は8万6000円と3割以上減少している。そのいっぽうで、家賃は1990年の4万8300円から2017年は6万1600円とむしろ上昇している。仕送りから家賃を差し引いて残る一日あたりの生活費は、1990年の2460円から2017年では817円と激減している。


 日本は移民の受け入れが少ない、排他的だ、というイメージがあったのですが、実際は、かなりの数の移民を受け入れている国なのです。
 そして、最近の若者は……と言われがちだけれど、こんなに生活が厳しいなかで、がんばっているのです。そりゃ、奨学金もなかなか返せないよね……


 「世界はどんどん良くなっている」のは頭では理解できても、結局、ひとりひとりの人間にとっては「自分のまわりの状況」が全て、でもあり、日本人にとっての平成は、「もどかしい時代」ではあったようです。
 隣の芝が青くみえているだけに、なおさら、ね。
 客観的にみれば、インターネットも普及していなかった30年前に比べれば、いろんな生き方や可能性もある時代になった、とは思うのですけど。


FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

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